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組体操の危険性についての法的考察

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

内田良・名古屋大学准教授の問題提起

運動会シーズンとなりましたが、定番種目である組体操の危険性について問題提起され、大きな話題になっています。

四人同時骨折 それでも続く大ピラミッド 巨大化ストップの決断を

組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化を目指しますか?

筆者は千葉県柏市出身ですが、組体操は上半身裸でやらされましたね。自分の運動能力の低さを公開することになるので恥ずかしいですが、筆者は小学校時代、腕立て伏せを一回もできませんでした。中学校以降は普通にできるようになったのですが。医師に聞くと「筋力の発達が追いついてなかったんでしょう」という簡単なお答え。しかし、小学校時代の組体操担当教員は、腕立て伏せすらできない筆者に、倒立をさせようとしたんですよね。当然、上手く行くはずもなく、筆者の下手くそな倒立を支えるペアの子はやせっぽちで(しかも練習している間に相方が変わったりする)、ガタイだけは大きかった筆者が倒れてくるのを支えられません。何度も校庭に倒れて痛い目を見ました。本番も上手く行かず、さらし者状態。上半身裸で練習した後にシャワーすら浴びさせて貰えなかったこと、担当教員に大声でドヤされ続けたことと合わせ、組み体操には良い思い出が何もありません。

建築基準法における階段からの落下防止措置

組体操のピラミッドというと、筆者は土台になったうえ、最後は故意に崩壊させるので、上にいる子が落ちてきて下敷きとなり、痛い思いをした記憶しかないですが、建築基準法(厳密には施行令23条以下)では、小学校の階段については以下のような規制を置いています。

・一段の高さは16cm以下(中高は18cm以下)

・踏み面の広さ23cm以上

・3mごとに踊り場

・手すり設置

言うまでもないですが、これは、階段を使用する子どもたちの落下防止と、万一の落下の際の被害拡大防止のためです。その他、窓には落下防止柵を設けて外側に踏み場を作らないとか、細かい規制は色々あるようです。

労働安全衛生法における落下防止措置

労働安全衛生法21条2項では「事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。」とされています。それを受けて施行規則、施行令や通達で基準が定められています。詳しくは例えば厚生労働省の「改正労働安全衛生規則等に基づく足場からの墜落防止措置の効果の分析について」の参照条文をご参照ください。要するに2m以上の足場では

・手すり設置

・手すり枠設置

・安全帯等の装備

などが義務づけられています。

危険なものは危険なのです

組体操の櫓やピラミッドは、足場ですらない人の体をよじ登っていくわけで、さらに危険が高まります。そうなのに、手すりもなければ安全帯もつけない。踊り場もありません。建築基準法や労働安全衛生法の観点からは「危ない」といわざるを得ないでしょう。運動会の競技ごときで、なぜ、社会人より危ない目に遭わなければならないのか、筆者には分かりかねます。

一方、スポーツはみな危険がある、という話もあるようですが、高所からの落下が(不意であっても)あらかじめ想定されているスポーツはそう多くないでしょう。あっても、それをすべての子どもにやらせるべきかは多いに疑問です。そして、不意な落下を受け止めるのが同じ年頃の子どもの背中だったり、回りで支えている大人だったりする、すなわち落下防止措置が極めて不完全な競技もそうないでしょう。内田良氏のYahoo!記事には、下部の書き込み欄で「自分も組体操でこんなにひどい怪我を負った」という書き込みが見られますが、こういうものがきちんと賠償されているのかも不明です。そもそも、賠償すれば済む話でも無いはず。そして、もし7mもの高さから落下して子どもが怪我でもしたら、それをやらせた教員や管理者は、個人責任の問題にも発展しかねないでしょう。こんな危ない競技を見世物としてやるべきではないことは、予防的な法律の観点からは明らかだと思われます。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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