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【深掘り「鎌倉殿の13人」】三浦義村と八田知家が灰にした起請文を飲んだのが、あり得ない理由

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
八田知家を演じる市原隼人さん。(写真:アフロ)

 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、三浦義村と八田知家が灰にした起請文を飲んで、裏切らないことを誓っていた。なぜ2人はそうしたのか、詳しく掘り下げてみよう。

■起請文とは

 当時の人々は、口頭で約束を誓うこともあったが、紙に書いておくと確実なのは現代と同じである。そこで、誓約のために書かれたのが起請文である。

 起請とは自分の言葉が嘘ならば、神仏の罰を受けても構わない旨を誓約することである。そのことを紙に書いたのが起請文である。起請文は普通の紙(和紙)に書かれていたが、やがて寺社の発行する牛王という紙の裏に書くようになった。

 起請文の形式は、前書きという誓約する内容の部分と、誓約を破った場合は神仏の罰を蒙る旨を書き、神名を記した神文の部分で構成されている。

■一味神水とは

 中世社会においては、誓約を結ぶ人々は「一味神水(いちみしんすい)」という行為を行った。神前で互いに神水を飲み、掟や約束を破らないことを誓うのである。その際、起請文を認(したた)めることがあった。

 起請文を認めてから一味神水をする場合は、起請文を焼いた後で、神水(神酒や特別な井戸で汲んだ水など)にその灰を浮かべ、互いに飲むことがあった。こうして約束を破らないことを固く誓ったのである。

 一味神水は、国人一揆、農民一揆など、組織の面々が一致団結する際に行われ、互いに約束事を破らないことを誓約した。それは、全員が起請文の灰を神水に浮かべ、飲むことが条件である。特定の人だけが約束を破らないことを誓い、行うものではない。

■まとめ

 ところで、義村と知家の件については、違和感を覚える。一味神水という行為は、あくまで組織が一致団結するために行う行為である。したがって、義村と知家の場合は、和田一族に起請文を差し出せば、それで事足りたのである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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