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【東京オリンピック男子マラソン】世界と戦えるのを示した大迫傑のラストラン

和田悟志フリーランスライター
(写真:ロイター/アフロ)

人類最速のキプチョゲが圧巻の走りで金メダル

 人類最速の男はやっぱり強かった。

 男子マラソンで2時間01分39秒の世界記録をもち、非公認では人類史上初の2時間切り(1時間59分40秒)を成し遂げたエリウド・キプチョゲ(ケニア)が、東京オリンピックの陸上競技のフィナーレを飾るこの種目で圧巻の走りを披露した。

 他の選手にマークされながらも、先頭集団の前方でレースを進めていたキプチョゲは、30km過ぎに仕掛ける。30〜35kmの5kmは14分28秒。それまでの5kmから40秒近くペースアップすると、他の選手は付いていけなくなった。

 9人ほどだった先頭集団を抜け出し単独でトップに立つと、その後も一人だけ別次元にいるかのような走りを見せた。

 そして、暑さを気にする様子もなく、2位に1分20秒差を付ける独走で、2時間8分38秒で金メダルを獲得した。

(雨中のレースだった前回リオ五輪は2時間8分44秒で、それよりも速かった)

 キプチョゲは、アベベ(エチオピア)、チェルピンスキー(東ドイツ)に続き、史上3人目となる五輪連覇を達成。また、公認のマラソンで13勝目(15戦)を挙げた。

30kmで先頭集団を抜け出すキプチョゲ。他の選手は全く付いていけなかった
30kmで先頭集団を抜け出すキプチョゲ。他の選手は全く付いていけなかった写真:ロイター/アフロ

〈キプチョゲの5kmごとのラップおよびスプリットタイム〉

スタート〜5km 15:19

5〜10km 15:34 30:53

10〜15km 15:11 46:04

15〜20km 15:43 1:01:47

(中間点) - 1:05:15

20〜25km 15:37 1:17:24

25〜30km 15:07 1:32:31

30〜35km 14:28 1:46:59

35〜40km 14:56 2:01:55

(フィニッシュ)(6:43) 2:08:38

終盤に粘りを見せた大迫のラストラン

 日本勢では、東京オリンピックを“ラストレース”と公表していた大迫傑(Nike)が、集大成のレースで粘りを見せた。

 スタート時の午前7時で気温26度、湿度80%と蒸し暑く、2019年ドーハ世界選手権優勝のレリサ・デシサ(エチオピア)ら優勝候補も多数含む30人もが途中棄権するサバイバルレースとなったが、大迫は序盤から目立たない位置に付け、30kmまで先頭集団に食らいついた。

 その時点では9人が残っていたが、キプチョゲがペースアップを図ると、集団はばらけ、大迫は入賞圏内ぎりぎりの8位争いに下がった。

 だが、大迫は冷静な判断をしていた。

「下手に3番以内に上がってしまうと、大きな崩れがあるので、1つ1つ自分の対応できる範囲で身体と相談しながら走った」

 また、苦しくなってからが大迫の真骨頂でもある。一度遅れをとると、ずるずるとペースダウンしてしまいがちなのが、マラソンが“メンタルの競技”と言われる所以だが、大迫は違った。

 東京オリンピック出場を決定付けた2020年の東京マラソンでも、中間点付近で遅れをとりながらも、30km以降にじわりじわりと順位を上げ、自身の持っていた日本記録を塗り替える2時間05分29秒の4位でフィニッシュしているが、その時と同じように、遅れてからも大迫は諦めることがなかった。

 前回銅メダルのゲーレン・ラップ(アメリカ)を離し、単独で8位をひた走ると、36kmでは一気に2人をかわし6位に浮上。2位集団の4人も、はっきりと視界に捉えていた。

「追うというよりは、自分自身の力を100%出しきりたいという思いだった。結果的に追いつけたらいいなとは思ってはいたが、自分のリズムで行くことを意識して走った」

 しかし、大迫も懸命に走るが、2〜5位のメダル争いを繰り広げる集団も必死。約15秒の差はなかなか縮まらなかった。

 結局、大迫は6位のまま、2時間10分41秒でフィニッシュ。メダル獲得とはならなかったが、日本勢として2大会ぶりの入賞を果たした。

〈大迫の5kmごとのラップおよびスプリットタイム〉

スタート〜5km  15:22

5〜10km     15:32 30:54

10〜15km     15:11 46:05

15〜20km     15:43 1:01:48

(中間点)       - 1:05:17

20〜25km     15:37 1:17:25

25〜30km     15:08 1:32:33

30〜35km     15:17 1:47:50

35〜40km     15:40 2:03:30

(フィニッシュ) (7:11)2:10:41

6位でフィニッシュする大迫。その表情も緩んだ
6位でフィニッシュする大迫。その表情も緩んだ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 銀メダルのアブディ・ナゲーエ(オランダ)には43秒、銅メダルのバシル・アブディ(ベルギー)には41秒届かなかった。

 だが、キプチョゲは別格の強さだったが、日本人でも世界と戦えるということを大迫は示してみせただろう。

「2位集団は“あと一歩だな”というところにあるといえる。それを後輩たちが必ずやってくれると思う」

 走り終えた大迫も、こんなことを話していた。

 今年2月に大迫の日本記録を破った鈴木健吾(富士通)や、大迫と合宿を共にした吉田祐也(GMOアスリーツ)、今回10000m代表の相澤晃(旭化成)と伊藤達彦(Honda)ら、力のある若手も次々に出てきている。

 大迫がマラソンに転向したこの4年間、日本のマラソン界は再び活況を呈してきたが、それには大迫が起爆剤となったのは間違いない。そして、ラストランでも、後進に向けて強烈なメッセージを残した。

 大迫の現役引退は寂しい限りだが、その後を引き継ぐ選手たちにとっても、大迫の走りには感じるものがあったのではないだろうか。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

フリーランスライター

1980年生まれ、福島県出身。 大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。 その後、出版社勤務を経てフリーランスに。 陸上競技(主に大学駅伝やマラソン)やDOスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆。大学駅伝の監督の書籍や『青トレ』などトレーニング本の構成も担当している。

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