■3回戦で最も因縁めいたカード

 6月22日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の3回戦16試合が各地で行われた。ちなみに2回戦は、代表ウィークの6月1日と8日。6月のうちに2回戦と3回戦が行われたのは、言うまでもなく、11月に開催されるワールドカップの影響によるものだ(今大会の決勝は10月16日、日産スタジアムで開催される)。

 天皇杯といえば、カップ戦の醍醐味である「ジャイキリ(ジャイアント・キリング)」が毎年話題になる。ところが今大会は、2回戦ですべての都道府県代表が敗退。一方、J1クラブは18チームすべてが3回戦に進出している。前回のコラムでも書いたが、これはJリーグが2部制となった1999年大会以降、初めてのケース。天皇杯だからこそ実現する、アマチュアとプロの真剣勝負が見られなくなったのは、個人的には残念でならない。

 さて、3回戦はどのカードを取材すればいいだろう? 日帰り可能な、関東圏での開催は7試合。そのうち同一カテゴリーではなく、過去の対戦回数が限られており、それでいて最も因縁めいたカードはどれか──。答えは一択、等々力競技場で19時キックオフの、川崎フロンターレvs東京ヴェルディである。

 オリジナル10のひとつであるヴェルディと、押しも押されもせぬJ1リーグ王者となった川崎。東京Vが以前、川崎市をホームタウンとしていたことは、サッカーファンなら誰もが知っていることだ。「川崎ダービー」が行われたのは、2000年のみ。リーグ戦での対戦は、わずかに6試合で、結果は川崎の3勝2分け1敗である。

 天皇杯での激突は、2013年大会の3回戦が最後で、会場は今回と同じ等々力。この時は川崎が3-0で勝利している。2013年といえば、川崎がまだタイトルを獲得しておらず、等々力も改修前。川崎時代を知る東京Vの古株サポーターは、ブルーに染まったかつてのホームスタジアムを見て、ひしひしとアウェーの空気を感じたことだろう。

この日、キャプテンマークを巻いたレアンドロ・ダミアン。59分に決定的な場面をを迎えるもゴールならず。
この日、キャプテンマークを巻いたレアンドロ・ダミアン。59分に決定的な場面をを迎えるもゴールならず。

■相手陣内でのプレーに徹した東京V

「われわれは、相手陣内でサッカーしたい。そのためには前からラインを上げ、中盤やセンターバックもセンターラインをまたいで、アグレッシブに守備をする。そして奪ったら、すぐにつないで相手陣内でプレーする」(東京V・城福浩監督)

「もっと自信をもって、ボールを動かしながらゴールに向かう気持ちを出さないと。そのためには、単に自信だけでなく技術も必要。受け身になってしまうと、天皇杯は難しいゲームになる」(川崎・鬼木達監督)

 試合内容については、両監督のコメントに端的に凝縮されている。川崎は9人、東京Vは6人、それぞれ週末のリーグ戦からスタメンを入れ替えてきた。11人の平均年齢は、川崎の27.5歳に対して東京Vは23.7歳。若さあふれる東京Vは、序盤からアグレッシブに前進して、ボールを奪いに行く戦術を徹底させていた。

 試合が動いたのは39分。東京Vの西谷亮のパスは、いったんは相手に渡るも、バックパスがルーズとなったところを佐藤凌我が奪い、右足で放ったシュートはゴール右上に収まった。余談ながら、東京Vが最後に等々力のゴールネットを揺らしたのは、2008年3月9日以来。この時はディエゴによるPKだった。

 対する川崎は、ハーフタイムに橘田健人、脇坂泰斗、遠野大弥の3枚替え。さらに60分には、家長昭博を投入して挽回を図る。ここで大仕事をしたのが、今季のリーグ戦で1試合しか出場していないGKのマテウス。54分の橘田、59分のレアンドロ・ダミアン、そして70分の遠野の際どいシュートをビッグセーブで防いでみせた(マテウスは36分にも、マルシーニョのビッグチャンスを封じている)。

 守備陣が奮闘を見せる中、ゲーム終盤になっても東京Vのプレッシングが衰えることはなかった。疲れの見える選手から入れ替える、城福監督のベンチワークも的確。先制点を守りきった東京Vが、前回大会ベスト4の川崎を破り、4大会ぶりに4回戦進出を果たした。

ビッグセーブで勝利に貢献した東京VのGKマテウス。サポーターから借りたブラジル国旗を広げて記念撮影。
ビッグセーブで勝利に貢献した東京VのGKマテウス。サポーターから借りたブラジル国旗を広げて記念撮影。

■J2が勝利すれば無条件で「ジャイキリ」?

 この日はJ1対J2のカードが14試合あり、そのうち5試合でJ1勢が敗れる波乱があった。川崎以外で3回戦敗退となったのは、FC東京(V・ファーレン長崎に2-3)、横浜F・マリノス(栃木SCに0-2)、北海道コンサドーレ札幌(ヴァンフォーレ甲府に1-2)、浦和レッズ(ザスパクサツ群馬に0-1)。これでベスト16は、J1が11チーム、J2が5チームとなった。

 3回戦が終わった直後、SNSでもタイムラインでは「ジャイキリ続出!」というツイートが数多く流れてきた。確かに番狂わせが多かったが、すべてを「ジャイキリ」と表現するのには、個人的に抵抗がある。天皇杯の場合、予選を勝ち抜いた都道府県代表が、J1・J2勢を破ったのであれば、これは文句なしのジャイキリ。しかし、J2がJ1を破った場合については、両者の関係性を考慮する必要がある。

 この3回戦でいえば、栃木と群馬はジャイキリにふさわしい。いずれもリーグ戦で対戦したことがない、格上の横浜FMと浦和を打ち負かしたのだから。1シーズンだけJ1経験がある長崎も、延長戦までもつれる試合内容を考えれば、ジャイキリと言ってよいかもしれない。逆に甲府については、同カテゴリーで何度も対戦してきた札幌が相手なので、ジャイキリと呼ぶことにはいささかの躊躇がある。

 ならば、川崎に競り勝った東京Vの場合はどうか? このカードについては、むしろ「ジャイキリ」の一言では済ませてはいけないように感じている。思えば川崎が「Jリーグの理想形」として語られるたびに、引き合いに出されていたのが、川崎から去っていった東京Vであった。過去の栄光も相まって、東京Vの関係者は「J1王者・川崎」に対し、さまざまな思いを抱えていたはずだ。

 そんな川崎と天皇杯で9年ぶりに対戦し、今は「敵地」となった思い出のスタジアムで勝利したのだから、選手とサポーターの喜びようは尋常でなかった。等々力での天皇杯3回戦は、単に「ジャイキリ」という表現だけでは収まりきらない、ストーリー満載のゲームであった。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>