Yahoo!ニュース

都道府県代表全滅で「ジャイキリ」なき天皇杯に【2回戦】FC東京(J1)vs富士大学(岩手)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
6月8日、天皇杯2回戦の残り3試合が行われ、FC東京はホームに富士大を迎えた。

■単にJ1・J2クラブが強いのか? それとも

 東京・国立競技場でのブラジル戦の余韻が冷めやらぬ6月8日、天皇杯 JFA 第102回全日本サッカー選手権大会(以下、天皇杯)の2回戦が各地で開催された。

 より正確に言えば、2回戦の32試合のうち29試合は6月1日、残り3試合が1週間後のこの日に行われたのである。1日は、札幌での日本代表の試合(パラグアイ戦)前日だったので断念。半ば消去法で選んだのが、8日に味の素スタジアムで開催される、FC東京vs富士大学というカードだった。しかし1日の結果を見て、この試合にへの個人的な関心は、一気に高まることとなる。

 J1・J2の40チームに加えて、都道府県代表47チーム、そしてアマチュアシード1チームの合計88チームが、トーナメントの頂点を目指す──。これが2009年大会からの基本フォーマット。1回戦を勝ち抜いたアマチュアチームが、Jクラブと対戦する2回戦は、この大会の最初のクライマックスである。なぜなら、ここでカップ戦の醍醐味である「ジャイキリ(ジャイアント・キリング)」を起こせば、ローカルなアマチュアチームは、一気に全国区の注目度を集めることになるからだ。

 ところが1日に行われた29試合は、都道府県代表は1チームも勝ち残ることができなかった。2回戦に進出した12チームの中には、J3クラブが5チーム、JFLの門番であるHonda FC、さらには筑波大や関西大のような大学サッカーの強豪も含まれていた。にもかかわらず、いずれもJ1・J2勢に敗れ去ってしまったのである。

 8日に行われる残り3試合は、18時キックオフの北海道コンサドーレ札幌vs桐蔭横浜大学(神奈川)、19時キックオフの横浜FC(J2)vsソニー仙台FC(宮城)、そして私が取材するFC東京vs富士大学。すべての都道府県代表が、2回戦で消えてしまうのは、あまりにも寂しい。それぞれの試合会場(札幌厚別公園競技場とニッパツ三ツ沢球技場)に念を送りつつ、取材現場の味スタに向かった。

この日はのワイドではなくインサイドでプレーしたFC東京の渡邊凌磨。36分に均衡を破る先制点を挙げた。
この日はのワイドではなくインサイドでプレーしたFC東京の渡邊凌磨。36分に均衡を破る先制点を挙げた。

■プレッシングと丁寧なつなぎで対抗した富士大

 この日の味スタの入場者数は3276人で、3試合の中では最多。平日に行われるカップ戦初戦で、3000人以上の観客が集まったのは、前回大会でFC東京が順天堂大学に2回戦で敗退していることも、多少は影響しているのだろう。

 この日のFC東京は、5月29日の鹿島アントラーズ戦からスタメン6人を残した、本気度の高いメンバー。これには富士大の高鷹雅也監督も「びっくりした」そうである。その富士大は、1回戦の上武大(群馬)戦からスタメンは変わらず。注目したのが15番のMF阿部柊斗。FC東京の31番MFの安倍柊斗とマッチアップしたら、実況はさぞかし困るだろうと思ったが、この日はNHKの中継はなかった。

 試合が始まってみると、富士大の健闘が光った。相手に攻め込まれながらも、決して自陣に閉じこもることなく、勇気をもって前からのプレッシングをかけていく。この状況は35分間続いたが、ついにFC東京が均衡を破る。36分、富士大のクリアがルーズボールとなり、これを拾ってアダイウトン、中村帆高とつながり、最後は渡邊凌磨が右足でふわりと浮かしてネットを揺らした。

 失点直後、すぐにピッチ上の全員が集まって意思統一する富士大。しかし、直後にアダイウトンをペナルティーエリア内で倒してしまい、PKを献上してしまう。43分にアダイウトン自身が決めて、FC東京の2点リードで前半が終了。富士大の高鷹監督は「前半は0-2でもOK」としていたそうだが、これはかなり厳しい展開だ。

 後半の富士大は、積極的なプレッシングに加えて、丁寧なボールのつなぎでFC東京のゴールに迫ろうとする。もちろん、J1クラブのゴールをこじ開けるのは容易ではない。それでも、前半1本だったシュート数は4本に増え、そのうち3本はGK波多野豪が防ぐこととなった。逆に、後半の失点はゼロ。そのまま2-0のスコアで、FC東京が3回戦進出を決めた。

J1クラブに臆することなく、持ち前のプレッシングとつなぎのサッカーを貫いた富士大には、温かい拍手が送られた。
J1クラブに臆することなく、持ち前のプレッシングとつなぎのサッカーを貫いた富士大には、温かい拍手が送られた。

■FC東京がガチのメンバーで大学生を迎えた理由

 試合後、FC東京のアルベル・プッチ・オルトネダ監督は、今回の富士大との対戦を「とても厳しい試合になると選手たちには伝えていた」と明かした。その理由をこう語っている。

「相手は失うものがない上に、インテンシティが高い。そのため、同じくらいのインテンシティで相手を上回る必要があった。われわれは、まだ成長過程にある。これが成長したチームであれば、選手に『大学生相手にリラックスしないように』と注意を与えていただろう。今回は、成長を続けるための重要な試合だった」

 加えてリーグ戦から10日空いていたこと、2年連続で大学チームに敗れるわけにはいかなかったこともあり、この日のFC東京はガチのメンバーで臨むこととなった。それでも思いのほか富士大が善戦したため、試合後はFC東京のサポーターから温かい拍手が沸き起こっている(アルベル監督もまた、ピッチ上の富士大の選手たちを集めて激励の言葉を贈っている)。

 さて、他会場の結果はどうなったか? 厚別の試合は、桐蔭横浜大が前半に2点リードで折り返したものの、その後は打ち合いとなり、延長戦の末に札幌が4-3で勝利した。ニッパツの試合は、120分でも決着がつかず3-3からPK戦に突入。横浜FCが辛くもソニー仙台を振り切ることに成功している。

 かくして今大会の都道府県代表は、2回戦ですべて姿を消した。そして、J1クラブは18チームすべてが3回戦に進出。これはJリーグが2部制となった1999年大会以降、初めての椿事である。これで今大会は「ジャイキリなき天皇杯」となってしまった。

 なぜ、こうなってしまったのだろう? いずれにせよ、カップ戦ならではの顔合わせや番狂わせは、今大会は期待できなくなってしまった。大会はこれからが本番だが、毎年この大会を取材している身としては、いささか残念に思えてならない。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

宇都宮徹壱の最近の記事