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大阪ビル放火事件容疑者が死亡:ヤフーコメント欄の非表示と命の大切さ

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:私たちは考え話し合おう(提供:Paylessimages/イメージマート)

■大阪ビル放火事件容疑者死亡の第一報

「大阪・北新地のビルで25人が死亡した放火殺人事件で、容疑者の男(61)の死亡が確認されました。」(日テレ12/30

この記事を報じるヤフーニュースには、多くのコメントが寄せられたことだろう。そしてあっという間に非表示になっている。

「違反コメント数などが基準を超えたため、コメント欄を自動的に非表示にしています。」

これだけの注目の事件であり、本当は多くの意見を交わすことができたはずなのに。有意義なコメントだって、きっとあったはずなのに。違反コメントによってコメント欄は閉ざされた。

■命の大切さ

命は大切だ。誰の命でも大切だ。それは、様々な立場を超えて一致できるはずだ。善人の命はもちろん大切だ。悪人の命だって、ないがしろにされて良いわけではない。

容疑者が大怪我をした場合も、医療スタッフは全力を尽くす。関係者は最高の治療を行い、何とか命を助けようとする。

それにもしも、「悪人の命なんか大切にしなくても良い」ということになれば、誰かが誰かを悪人と認定してしまえば、その人の命を大切にしなくても良いことになってしまわないだろうか。

武器を持った容疑者が射殺されることはある。しかしそれは、命を軽んじたのではなく、現場でのぎりぎりの判断の結果だ。また犯人が死刑になることもある。しかし誰かを死刑にするためには、通常は最高裁に至るまで多くの時間と費用をかけることになる。命は大切だからだ。

大量殺人は、孤独と絶望に押しつぶされ、自分の命もみんなの命もなくしてしまおうとする人々によって実行されると考えられている。

■事実未解明

事故や事件の被害者遺族は、何があったのかを知りたいと願う。失われた命は戻らないけれども、事実を知ることが心の癒しにつながっていく。

それは、被害者のことを何も存じ上げない私たちの心にも起きることだろう。何もわからなければ、怒りや悲しみの持って行き場がない。同種の犯罪防止のために何をすれば良いかがわからない。

取り調べと裁判による事実の解明は、刑罰を与える目的だけなく、大切なことだ。私たちは、事実を知りたいのだ。

■違反コメント:誰に対しても誹謗中傷は禁止

このヤフーニュースに関する全てのコメントは非表示なっているので、どんな違反があったのかはわからない。

Yahooニュースコメントポリシーには、次のような記載がある。

「『表現の自由』は無制限ではありません。」

禁止されているコメントや行為

「過度な批判や誹謗(ひぼう)中傷、不快な内容」

「被害者・被害者の親族、加害者・加害者の親族および関係者などに対する心ない投稿や不謹慎な投稿」

加害者(容疑者)には何を言っても良いと誤解している人がいるが、そうではない。個人的なおしゃべりなら許されることも、公の場では許されない。ネットも公の場である。

■情報と報道と話し合いの場の必要性

起訴も逮捕もされていない人を、犯人扱いしてはいけない。全ての人の人権は守られなければならない。通常であれば、逮捕された段階で実名が報道される。

しかし今回は逮捕前の異例の実名報道だった。それだけ重大な事件だった。

それなのに、取調べも裁判もできなくなり、真相解明の道は閉ざされた。それでも、情報と報道は必要だろう。警察は、「今後も明らかになった事実は被害者遺族に丁寧に説明していく」と述べている(NHKテレビニュース12/30)

私たちは、考えなくてはならない。何が起きたのか。どうすれば良かったのか。どうすれば、こんな事件を防ぐことができたのか。

考えるためには情報が必要だ。警察からの情報提供とマスコミの適正な報道が必要だ。どうすれば、命は大切にされるのか、人権は守られるのか、私たちは考え続けなければならない。

考え続けるためには、意見を交換する場を大切にしなくてはならない。全ての人の命と人権を守る姿勢を崩せば、議論の場も失うことになりかねない。

新たな被害者を出さないためにも、私たちは話し合おう。自分が悪い人だと思う相手に対しても、傷害や殺人はもちろん許されないように、誹謗中傷も許されない。

心を開き話し合い希望を持つことが、犯罪のブレーキになるだろう。話し合いを続けることが、犯罪の少ない社会作りにつながるだろう。

大事件が起きる、Yahooコメント欄が荒れて閉鎖される。もうすでに何度も起きている。こんなことを繰り返してはいけない。話し合いの場をみんなで守りたい。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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