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ワクチン接種予約コールセンターの疲弊と苦悩:電話で殺到する苦情や暴言への対処法

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:人はなぜ怒り、ではどう対当すれば良いのか(提供:studiolaut/イメージマート)

■ワクチン接種予約、コールセンター疲弊 電話殺到、苦情や暴言

新型コロナのワクチン注射がようやく始まりましたが、混乱も起きています。

 新型コロナウイルスのワクチン接種予約を受け付けるコールセンターのオペレーターが、殺到する電話対応に苦しんでいる。予約できなかった人から「俺が死んでもいいのか」などと理不尽な怒りをぶつけられることも少なくない。(ワクチン接種予約、コールセンター疲弊 電話殺到、苦情や暴言…:北海道新聞Y!6/3)

■現場職員の苦しみ・電話オペレーターの悩み

新型コロナの感染拡大。世界中で災害レベルの混乱が起きています。こんな時、現場のプロの皆さんの活躍が期待されます。そして現場のプロの皆さんは、悩み苦しみ傷ついています。

自衛隊や警察の皆さんの活躍はよく報道されますが、事務職員の人も頑張っています。そして、そんな頑張る現場に、多くの電話が殺到します。

ワクチン予約のコールセンターだけでなく、保健所や役所には、本来の問い合わせや申し込みの電話だけでなく、理不尽な電話が殺到しています。相手が若い女性だと思うと、なおさら高圧的になる人もいるようです。

「そんな電話は切れば良い」という人もいますが、今は役所でも民間企業でも、クレーム電話をこちらから切ることはできません。

もちろん、電話担当者に文句を言っても仕方がありませんし、本来の仕事が遅れるだけです。しかしそれでも、文句を言い続ける人がいます。

各企業の苦情処理係の方々などは、相手がクレーマーでも、いかに納得してもらい、早く電話を切ってもらうか、技術を磨いています。先輩が後輩を支援し、互いに慰め励ますよう社内文化があるところもあります。それでも、他の部署より退社率が高いのが普通です。

ましてや、クレーム処理が専門ではない担当者の皆さんにとって、暴言を聞き続けることは、大きな心の負担になることでしょう。

■自分の心を守るために

たとえば、誰かが悪意で唾をかけてきたら、とても傷つきます。でも、誰かが花粉症でくしゃみが止まらず、その唾が飛んできたらどうでしょう。飛んだ唾の量が同じでも、不快感は違うはずです。

人は、悪口や暴言事態に傷つくだけでなく、誰がなぜそう言っているのか、その感じ方で傷つき具合が変わるのです。

他者からの暴言から心を守る方法の一つは、「個人攻撃だとは思わない」ということです。文句を言っている人は、電話担当者個人を憎んでいるのではなく、ただ文句を言いたいだけなのです。その人はそういう人なのです。そのように思うことが、心の冷静さにつながります。

どの職業の人であれ、人権を侵されても良い人はいません。上司や組織、社会全体で、その人の人権を守らなければなりません。その前提の上で、クレーマーに対する賢い対応も求められます。

心理学的には、怒りは二次感情だと言われています。金目当てのクレーマーを除けば、怒っている人の多くは、悲しんでいる人です。なぜワクチン注射ができないのか、なぜ待たされるのか。自分が軽んじられていうrのではないか。その悲しみが、怒りを引き起こします。もちろん、だからといって誹謗中傷、罵詈雑言が認められるわけではありません。

ただそれでも、普段なら冷静な人でも、追い詰められれば言葉もきつくなるものです。

今怒鳴っている人の心の背景には、こんなこともあるかもしれない。そんなことを考えると、心の余裕が湧いて来ます。そして人は、自分の話を聞いてもらうと、自分が大切にされている感覚が戻り、次第に落ち着いてくるのです。

■私たちにできること:感染予防、スムーズな接種のために

新型コロナの感染拡大を効果的に防ぐためには、ワクチン接種をスムーズに進めなければなりません。そのためには、電話が殺到しているコールセンターの担当者をはじめ、現場の人々を守らなければなりません。

電話をする方は、どうぞ心を落ち着けてから電話しましょう。家族が電話するなら、その人の心を落ち着かせましょう。不平不満があるなら、電話を切ってから、家族にグチをこぼせるようにしましょう。

そもそもネットの利用など、電話しないで済む方法があれば、それを使いましょう。ある女子学生は、祖父母や叔父叔母、何人もの人のネット予約をしてあげたと言っていました。

現場で働くプロが傷つくのは、市民からの無理解と心ない言葉です。現場で働くプロが癒やされ元気が出るのは、市民からの理解と温かな言葉です。

暴言を吐く人はいるでしょう。だからこそ、少しでも心に余裕がある人は、積極的に感謝の言葉や多忙を労(ねぎら)う言葉をかけましょう。あなたの「ありがとう」の一言が、オペレーターの心のエネルギーになることでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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