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人はなぜ酒トラブルを繰り返すのか:山口達也容疑者が酒気帯び運転容疑で逮捕:お酒の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:みんなで飲酒運転や酒トラブルを防ごう(提供:necoji/イメージマート)

■元TOKIOの山口達也容疑者を逮捕 酒気帯び運転の疑い

芸能界復帰への動きがあったともされていますが、また事件が起きてしまいました。

午前9時半ごろ、練馬区桜台の交差点で、山口容疑者が運転するバイクが信号待ちをしている車に後ろから追突した。けが人はいなかったが、山口容疑者の呼気を調べたところアルコールが検出されたため、酒気帯び運転の疑いで現行犯逮捕された。

出典:元TOKIOの山口達也容疑者を逮捕 酒気帯び運転の疑い 9/22 アベマタイムス

別の報道によると、午前中の逮捕にもかかわらず、基準値を大きく上回る0.75のアルコール分の検出だったとされています。

ファンのみなさんからの悲痛な声も聞こえます。

*「酒気帯び運転」とは、呼気中アルコール濃度0.15mg/l 以上のものを言います。もっと罪が重い「飲酒運転」は、数字上で規定されているのではなく、アルコールの影響により車両等の正常な運転ができない状態を指します。

■山口達也容疑者とお酒のトラブル

2018年、山口達也容疑者が司会を務めていたNHKの番組で共演した女子高生に対して、飲酒させた上で無理やりキスをするなどわいせつな行為をしたとして、強制わいせつ容疑で書類送検されました。

報道によると、本人は「酒を飲んでいておぼえていない。そういうことをしたかもしれない」と語っていました。

この事件により、山口容疑者はTOKIOを脱退し、芸能活動を休止していました。

この事件をきっかけに、これまでも山口達也容疑者には、酒癖の悪さや、泥酔時の記憶がないことなど、酒にまつわるトラブルが多発していたことが報道されました。

お酒を飲まない時の評判は、悪くはなかったようなのですが。

■飲酒運転の問題

警察の調査によると、飲酒運転の死亡事故率は、飲酒なしの約7.9倍もあります。飲酒運転による大きな事故も、記憶に残っています。

かつては、地方都市などでは車に乗って居酒屋に来て、飲んでそのまま運転して帰る客などもいたと言われますが、現在はまずそんな客はいないようです。

厳罰化に伴い、統計的にも飲酒事故は減少してきました。ただし、近年は下げ止まっています。

厳罰化によって減少する違法行為は、「計算できる人」による行為です。酒気帯びで捕まったら大変だから、タクシーや運転代行を頼もうと思える人は、飲酒運転を控えます。

しかし、朝から酒を飲み、そのまま運転するような人、アルコール依存症的な人は、確信犯的で厳罰化の効果はなかなか表れません。

アルコール依存症は罰則では治りませんし、酒を飲むと気が大きくなりますから、自分はしっかり運転できるし逮捕などされないと思ってしまうのです。

■酒によるトラブル

酒癖が悪い人:複雑酩酊

酒癖せが悪いと言われる人はいるものです。ただの酔っ払い(単純酩酊)ではありません。そうなると「複雑酩酊」と呼ばれる異常酩酊の一種になることもあります。

興奮の程度と、興奮している時間が、普通の単純酩酊よりも、ずっと強く長くなります。記憶もとぎれとぎれです。興奮して暴れ、手に負えず、ケンカによる傷害事件や、女性に抱きつくような性犯罪や性的露出、ひどい時には殺人に至ることもあります。

複雑酩酊は、大脳皮質のほとんどがマヒに陥り、道徳的な規範などが守れなくなっている状態と言えるでしょう。こうなれば、傷害もわいせつ行為も、飲酒運転もできてしまいます。

酔いがさめてからどんなに叱られても、反省しても、酒を飲めばまたいつものトラブルの繰り返しです。

■お酒との付き合い方

人はお酒で失敗をします。笑い話で済めば良いのですが、酒を飲まなければ良い人、才能豊かな人、一度は成功を掴んだ人、芸能人、政治家、スポーツ選手、医師、弁護士。そのような人たちが、酒がもとで社会的生命を失うことは繰り返し起きています。

お酒の良い文化は大切ですが、酒による悲劇には、個人への努力喚起だけでなく、総合的な対策が必要でしょう。

日本人は真面目なので、アルコール依存症で自宅では家族みんなが困っているのに、仕事にだけは行く人もいます。そうなると、社会問題化はしにくいこともあります。

日本は、お酒に関しては寛容な社会です。欧米で、普通のラリーマンや女性が泥酔して街を歩くことなどないと言います。日本では、珍しくはありませんね。そんな姿を人に見せても、それほど酷くは非難されません(酒の席だからといってセクハラ、パワハラが許される時代ではありませんが)。

間違った酒との付き合い方は、本人の健康と人生を台無しにし、家族を泣かせ、ファンを苦しめ、仲間を失望させます。アルコールも薬物の一種であり、簡単には解決しません。支援している人は、何度も裏切られたと感じることもあります。

お酒のせいだから仕方がないとは言えません。その一方で、本人を責めたり、努力を促すだけでも解決しません。抗酒薬などを使った薬物療法も、補助的なものです。

問題解決には、「心理社会的な治療」が必要だと言われています。人間は、心があり人間関係があるから悩み、トラブルを起こします。けれども、心があり人とのつながりがあるからこそ、強くもなれます。

違法行為には罰則を。病気には医学的な治療を。そして全ての困っている人の心に届くような、人々による支援が必要です。

人気者であり、今も多くのファンがいる山口達也容疑者の立ち直りを、祈っています。それは、大きな社会的意義のあることでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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