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乗客がマスク着用拒否で旅客機が臨時着陸:マスクトラブルと解決への心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(飛行機の安全運行を)(写真:アフロ)

< マスクトラブルは、各地で起きる。飛行機は乗客第一ではなく、安全第一。緊急着陸もやむを得ない。ただ、人間関係は理屈や勝ち負けではなく、思いやりと工夫。みんなで協力して、感染予防をしていきたい。>

■乗客がマスク着用拒否で旅客機が新潟空港に緊急着陸

乗客がマスクを拒否したことをきっかけとして、旅客機が臨時着陸し、乗客が降ろされるトラブルが発生しました。

釧路空港(北海道釧路市)発関西空港行きのピーチ・アビエーションの機内で7日、マスクの着用を拒否した男性客が客室乗務員を威圧するトラブルがあり、同機が新潟空港に臨時着陸して男性客を降ろしていたことがわかった。

〜男性はその後も要請を聞き入れず、「非科学的だ」「要請するなら書面を出せ」などと言って乗務員を威嚇、大声をあげたため、新潟空港で臨時着陸。

出典:機内でマスク拒否し「非科学的だ」と乗務員威嚇…関空行きピーチ、新潟に臨時着陸して男性客降ろす 2020/09/08読売新聞

国土交通省によると、このようなケースは初めてということです。

記事を読むと明確には書いてありませんが、テレビ報道によると、マスクを着用していない乗客がいるから臨時着陸なのではなく、大声や威嚇によって安全運行に支障をきたす恐れが出たことで臨時着陸のようです。

■航空会社のマスク着用のお願い、義務

ピーチ・アビエーションのサイトには、「空港内・機内では、マスクを着用してください」との「お客様へのお願い」があります。

マスク着用に関しては、各航空会社により、また時期により、「お願い」(要請)、「推奨」、「必ず着用」など、様々です。ただ、「必ず着用」と言っても、義務ではなく要請のようです(マスク着用は義務?要請?国内航空会社11社に聞いた:aviationwire)。

「必ず着用」としているANAのサイトには、次のように記載されています(ご搭乗に関するお客様へのお願い)。

空港および航空機内においては、お客様同士のご不安解消のため、マスク等(※)を必ずご着用ください。

但し、乳幼児を含む小さなお子様や、着用が難しい理由があるお客様は除きます。

マスク等を着用されないお客様、ならびに発熱など体調がすぐれないお客様のご搭乗をお断りする場合がございます。

※マスクおよび飛沫感染防止効果があるフェイスシールド、マウスシールドをさします。

「必ず着用」ですが、着用していないと絶対搭乗させないわけではなく、場合によっては非着用も認め、着用要請の理由も「お客様同士のご不安解消のため」と言っています。上手い説明だと思います。マウスシールドなどはあまり意味がないという専門家もいますが、ANAではOKですね。

今年6月には、アメリカ飛行機でも、マスクトラブルがありました。

米アメリカン航空は17日、マスクの着用を拒んだ男性乗客1人を旅客機から降ろした。同社は、新型コロナウイルスによる感染症「COVID-19」対策のため、乗客に顔を覆うことを義務付けている。

〜アメリカン航空は、子どもや持病がある人、飲食する場合には例外的にマスクを外していいとしている。

出典:アメリカン航空、マスク着用を拒んだ乗客を降ろす 2020年6月19日BBC

■マスクトラブルの理由

マスクトラブルは、日本中、世界中の街でも乗り物でも起きて起きています。アメリカには、反マスク活動家と呼ばれる人までいます。

マスクがどの程度新型コロナウイルスの感染予防に効果的なのか、専門家によって意見は別れますし、状況によって違いもあるでしょう。

厚労省は、暑い夏でも「マスクは飛沫の拡散予防に有効で、『新しい生活様式』でも一人ひとりの方の基本的な感染対策として着用をお願いしています」と述べています。

ただし、熱中症などの危険も増しますので、状況によっては「熱中症をふせぐために、マスクを外しましょう(ウイルス感染対策は忘れずに!)」とマスクを外すことを推奨もしています(厚労省、環境省、ポスター

マスクに関しては、二転三転した部分もありますが、最初から強調され続けている感染予防行動は、「手を洗う」、「距離を取る」、「顔を触らない」です。日本では、三密を避けることも強調されました。

距離を取ることに関しても、「俺に近づくな!」と怒鳴られるトラブルなども聞きますが、手を洗わないこと(手を消毒しないこと)で大きなトラブルになった話はあまり聞きません。

様々な場所の入り口に消毒液が設置されていますが、それを使わずに入構しても、あまり怒られないかもしれません。しかし、マスクは違います。叱られたり、白い目で見られることもあるでしょう。

スーパーに入店する時も、密を避けるために「なるべく空いている時間に少人数で短時間」が推奨されていると思いますが、もう気にしていない人も多いでしょう。大人数で平気で入店している家族も大勢います。けれども、マスクは違います。

マスクをしていないと、周囲の目が厳しく、時には文句を言われることもあるでしょう。マスクを忘れたりしたら、とても入店しにくいでしょう。

以前、銀行にマスクを着用しないで入構しようとして断られたケースで、後になって過剰反応だったと謝罪したとの報道もありました。

他の感染予防行動に比べて、マスクは特に強調されます。マスクの必要がなく、むしろ熱中症予防のために外すことが推奨されるような時ですら、マスクを外さない人もいます。同時に、今回のようにマスク着用への強い反発を示す人々もいます。

提供:写真AC
提供:写真AC

■マスクトラブルを避けるための心理学

「人間は本能的に社会的な動物であり、コロナ対策は本能に逆らう行為なのだ」と語る心理学者もいます(反マスクの心理学、人はなぜ「コロナ対策」に逆らうのか:8/14ロイター

人間は、集まりたいし、話したいし、お互いの顔を見たいのです。特に欧米ではマスクの習慣がありませんでしたり、握手やハグの文化ですから、マスクに抵抗を感じるのでしょう。長年の習慣、文化を、短時間に変えようと思えば、トラブルは必然です。

日本では、欧米のような、マスクに関する法律や人権に絡むようなトラブルは起きてはいません。むしろ、マナーや、迷惑行為としての、トラブルでしょう。

コロナ禍のマスク着用に関する社会心理学の研究によると、日本人がマスクを着ける動機は、感染が怖いからでも他の人を感染から守るためでもなく、「みんなが着けているから」だということがわかりました(同志社大の中谷内一也教授)。

マスクは、新型コロナ感染予防の象徴であり、マスクをしていないことは非常に危険で、社会の秩序を乱すものと、私たちは感じているのかもしれません。

人の目を気にしてでも、マスクをするのは良いことだと思う人もいるでしょう。しかし、そのような理由だと、マスクさえしていれば良いことになり、正しいマスクの使い方がおざなりになりかねません。

不衛生なマスク、鼻を出す着用の仕方、ジョギング中もマスク。そんなことでは、かえって健康に外があるかもしれません。そして、そのような納得のいかない理由でマスク着用を強制されたと感じると、反発する人もいるでしょう。

普通人は、周囲の人に合わせようとする気持ちがあります(同調行動)。一方人は基本的に、強制されればされるほど反発したくなるものなのです(心理的リアクタンス/反発)。

日本でも、ポリシーとして日常生活ではマスクをしない人もいました。専門家の中にも、そう主張する人もいました。けれども、日本ではほとんどの人は、要請(お願い)されれば協力しよう考えました。

マスクを始め、咳くしゃみエチケットは大切です。マスクをはじめ、感染予防対策は大切です。だから、私たちは正しくエチケットを守り、正しい理由で感染予防をしましょう。それが、無用な対立の防止にもなるでしょう。

今回のピーチでのトラブルは、乗客が最初からトラブル目的で登場したのではなければ、どこかですれ違いがあったのかもしれません。もちろん、機内での大声も威嚇も許されません。

テレビ報道によると、離陸前から男性はマスクをしておらず、マスク着用の要請に応じず、座席の移動にも応じなかったため、他の乗客が座席の移動をしてから、離陸しました。

ところが、離陸後も男性は大声を上げるなどしたために、機長判断で臨時着陸となりました。

添乗員からすると不可抗力だったのかもしれませんし、最初の段階から、すれ違いが起きていたのかもしれません。飛行機においては、お客様第一ではなく、安全第一です。安全に勝るものはありません。

日本では、禁煙の場合でさえ、「タバコはご遠慮ください」と表現します。このような表現が通用するためには、互いの信頼関係が必要です。

今回に限らず、人間関係は理屈ではなく、議論に勝てば良いわけでもありません。クレーム処理係の人は、相手の話を聞くことを第一としつつ、相手の言いなりにはなりません(聞く力:人生最大の武器の心理学:ヤフーニュース個人有料)。

感染予防活動は、本能に反する要請をしているのだと理解し、また科学的にも多様な意見があることを理解した上で、互いに思いやりの気持ちを持った上手なアプローチをしていきたいと思います。

*補足9/14

今度は、北海道エアシステムで、マスク日着用の乗客が降されるトラブル発生。

なぜ飛行機マスクトラブルは起きるのか:新型コロナと日本人の心理

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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