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韓国安倍首相謝罪像、民間の行為なら許されるか:私たちの怒りと国家間葛藤の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
少女像に謝罪する安倍首相像 韓国の植物園に設置され物議(写真:ロイター/アフロ)

<たとえ民間の行為でも、韓国全体の気持ちの表れだと感じると、私たちは許せない。一人の行為が、国家間の関係を良くも悪くもする。>

■韓国で少女像に謝る安倍首相の像

報道によると、多くの人が訪問する韓国の民間植物園が、園内に慰安婦を表現した少女像と、その前でひざまずいて謝罪する安倍晋三首相をかたどった像を設置しました。

これに対し、自民党の菅官房長官は「国際儀礼上、許されない。仮に報道が事実であるとすれば、日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と述べています。

野党も同様に、立憲民主党の福山幹事長が「極めて遺憾だ。韓国政府に、速やかに像を撤去するよう求める。強く抗議したい」と述べました。

多くの日本国民も、怒りを表しています。安倍総理を支持しない人の中にも、今回は抗議する姿勢をとっている人もいます。

ごく簡単に言えば、普段は自分の学校の校長に文句を言っていても、他校の生徒に悪口を言われると腹が立つような心理でしょうか。

■私たちはなぜ怒りを感じるのか

今までの日韓関係のしこりは、もちろん影響しているでしょう。さらに、土下座する安倍首相象は、安倍さん個人の問題ではなく、日本を代表する人物として描かれています。

だから、今回の像は安倍首相個人が土下座しているのではなく、日本人全員が土下座させられているように感じるために、支持政党を越えた怒りが湧き上がっているのでしょう。

(あのポーズに対する感覚は、日韓の文化の違いから、イメージも違うのでしょうが。)

写真はイメージ(写真AC)
写真はイメージ(写真AC)

■民間のしていることなら良いか

今回は、韓国内でも賛否両論が出ているようです。

その一方、「民間が私有地に設置した造形物に対してまで、政府が“国際礼譲”をもって問題提起できるのかという指摘も出ている」とも報道されています(韓国外務省、安倍首相“謝罪”像に「外国指導者への礼遇、考慮せねば」:7/28ワウコリアY!)。

なるほど、一理あるとも感じますが、ここでは、法や国際関係の問題ではなく、心の問題について考えてみましょう。

どこの国にも、わけのわからない人はいるものです。誰に対しても、非常識で失礼なことをする人もいるでしょう。

もしも私たちが、その人の行為をその人個人のものと感じられれば、怒りは限定的なものになると思います。

だとえば、他国の大統領に卵をぶつけた日本人がいたとします。その人はすぐに逮捕され、日本中がその人の行為を恥ずかしく思い、大統領とその国への謝罪を示したとしましょう。

そうならば、その国と日本との関係悪化は防げるでしょう。ところが、形式上は犯罪者として逮捕されても、ネット上で多くの国民が喝采を上げたらどうでしょうか。

その国と日本との関係は、修復が難しくなるほどこじれるでしょう。

今回の安倍首相謝罪像は、韓国の人々の総意ではないのか、みんなが心の中で賛同しているのではないのか、この像は日本を侮辱する象徴ではないのか、そう感じてしまえば、たとえ民間の行為であっても、私たちは怒りを感じ、韓国政府への非難にもつながるでしょう。

それに、民間人による私有地とは言っても、自宅の庭とは違います。

アメリカのオバマ大統領が広島を訪問した際、日本は大統領を侮辱し、謝罪を強要し、攻撃するようなことはありませんでした。

日本政府はもちろんそんなことはしませんが、国民の間にもそんな雰囲気はなく、そんな気持ちを表す象徴的な言動もありませんでした。だからこそ、オバマ大統領の広島訪問は実現し、日米友好にも役立ったのでしょう。

■日韓関係の未来

日韓の間には、不幸な出来事がありました。特に近年は、これまでにないほど関係が悪化しています。人と人はしばしば争い葛藤します。特に国家間のような集団間葛藤は、時に激烈を極めます。

実際に相対するのは、政治家や様々な組織の代表ですが、それぞれが法的または心理的に国家を代表しています。彼らの争いは、国民全員の争いになってしまいます。

国と国との争いは、国家の集団アイデンティティ、集団同一化、集団意思決定の問題になります。こうなると、個人間の争いよりも深刻になり、問題解決が難しくなるのです。

写真はイメージ(写真AC)
写真はイメージ(写真AC)

ネットには、もう日韓関係の修復など永遠にしなくても良いという意見も出ています。ただその一方、日韓双方に、相手国の文化のファンもいます。韓国に日本料理店が並び、日本人も韓国料理を楽しみます。

互いの国民性の、合う合わないもあるでしょう。しかし、それでも交流はあり、親友ができたり、国際結婚する人もいます。

時には対立も抗議もあって良いと思います。そしてまた、良い交流がもてるときがあっても良いのではないでしょうか。

新大久保駅乗客転落事故(2001)で、自分の命を捨てて助けようとしてくれた韓国人青年のことを、私たちは忘れません。

当時、天皇は死亡した韓国人青年の両親を招待して慰労しました。青年の父親は奨学金財団を設立し、アジア出身の学生を援助する奨学金財団を作って、日本政府から勲章をもらいました。駅には、犠牲者を追悼するプレートが作られています。

平昌冬季オリンピック(2018)のスピードスケートで小平選手と李相花選手が見せた友情に、日韓国民は惜しみない拍手を贈りました。韓国では「友情賞」が与えられています。

私たちにとっての、より良い未来を望んでいます。今回の安倍首相像に関しても、適切な対応がなされることを期待しています。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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