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迷惑系YouTuber「へずまりゅう」:非行とネットの心理学:YouTuberを目指す君へ

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(イラストAC)

<非行少年が悪いことをしてでも注目を集めようとするように、迷惑系YouTuberも手段を選ばず再生数を得ようとしてしまう。本当の成功するYouTuberは、愛と努力の人なのに。>

■迷惑系YouTuber「へずまりゅう」逮捕:迷惑系YouTuberとは

迷惑系YouTuberとは、迷惑行為を繰り返すYouTuberです。今回は、逮捕に加えて、県知事まで怒っています。

山口県の村岡嗣政知事は怒り心頭~愛知県警が同月11日に窃盗の疑いで逮捕し、コロナ感染が確認された自称、YouTuberのへずまりゅうこと、原田将大容疑者(29歳)が山口県に滞在~迷惑系の動画や写真が投稿~最後に原田容疑者が「コロナ」とつぶやいていた。

出典:迷惑系YouTuberのへずまりゅう容疑者の滞在先でコロナ感染拡大 捜査員、留置所収容者も 〈週刊朝日〉Y! 7/18

逮捕に関してはもちろんまだ容疑段階ですが、ご家族もとても困っています。

「悩みすぎて、首を吊ることも考えました……」沈痛な思いを打ち明けるのは、あの“迷惑系ユーチューバー”の両親だ。~「逮捕されるまで、息子がユーチューバーをやっていたことさえ知りませんでした」~「隣近所や職場には“あれはうちの息子です”と謝罪して回りました」~「夫婦で涙も枯れるほど泣きました」

出典:へずまりゅうの両親が胸中を吐露「それでもこの地で生きていくしかない」週刊女性Y! 7/24

チャンネル登録者数と再生数を増やすためには手段を選ばなかった、とも報道されています。迷惑系YouTuberとしては一部で有名で、熱狂的支持者もいたようです。

■非行の心理

同じ悪いこと、違法なことをするといっても、大人の犯罪と少年非行は違いがあります。

たとえば、普通の大人がスピード違反をするなら、目立たないようにします。何かの恨みで物を壊すなら、見つからないようにします。

ところが、いわゆる非行少年は、目立つようにバイクの暴走をします(暴走族はずいぶん減りましたが)。昼間、みんなの目の前で、大声をあげながら学校のガラスを割る非行少年もいます。

わざわざ学校のトイレでタバコを吸う少年もいます。あえて校則違反の服装や髪形にする人もいます。わざと大人をイラつかせるような行為をする少年もいます。

なぜ、そんなことをするのでしょうか。心理学的には、非行は「心のSOSサイン」と言われています。大人にふりむいてもらいたために、悪いことをする少年がいます。

それは、好きな女の子の髪の毛をひっぱってしまう子供の心理と似ています。

時には、高校生になっても似たようなことをする人がいますし、大人でも、自分の辛さ悲しさ悔しさをわかってもらおうとして、叫んだり、物を投げたりする人はいますね。

■目立ちたい、成功したい:承認欲求のゆがみ

誰もが、人から愛され、認められたいと思います。一生懸命がんばって、みんなから拍手や温かな笑顔がもらえたら、とても幸せです。さらに、お金が欲しい、出世したい、有名になりたいと思うのも、悪いことではありません。

普通は、そのために地道な努力を重ねます。けれども、普通の努力をしても、そんな成功は決して手に入らないと思ってしまう人がいます。そんな人が考えてしまうことが、悪いことです。

詐欺や泥棒でお金を手に入れたり、不正を働いてでも出世したいと考えてしまうこともあります。

少年たちも、学校内で愛と承認を得たいと願っています。トップの成績や部活の活躍で拍手が得られたら、とても良いでしょう。けれども、そんな願いが叶うのは、一部の恵まれた生徒だけです。

普通の成功をあきらめた少年たちが、手っ取り早く注目を集める方法が、悪いことなのです。授業を妨害し、校則違反の服装をし、物を壊せば、先生からも生徒からも注目はされるでしょう。

多くの生徒はなんな子を白い目で見ますが、中にはアンチヒーローとして喜ぶ生徒もいるでしょう。ある学年までは、授業妨害を喜ぶ生徒たちもいます。そんな喝采を得られれば、ますます調子にのる「ワル」の子もいるのです。

今回はコロナに関する迷惑行為もあったようですが、町にはコロナジョークを語る迷惑なおじさんもいますし、学校では先生にさからってわざとマスクをしない困った生徒たちもいます。

■非行の心理と迷惑系YouTuber

非行少年の心理と迷惑系YouTuberは、とても似ていると思います。

ネット上でも、すばらしく上手に歌ったり踊ったりすれば、注目が集まります。プロ選手並みの技術を見せたり、大爆笑のお笑い芸を見せても、世間が放っておかないでしょう。

いわゆるYouTuberは、ユニークなアイデアを絞り出し、研鑽と努力を重ね、大量の再生数を稼ぎ続けます。芸術家ともプロ選手とも違いますが、並の人にできることではありません。

そんなことはできないけれど、それでも自分にも簡単にできるアクセス稼ぎ方法として、「悪いこと」があるでしょう。

スーパーで、支払い前の食品を食べてしまったり指でつついたり、道交法違反や、警察官をだましたり、有名人にアポなし凸撃(突撃)をかけたり。

違法行為や迷惑行為ですが、注目は集まります。

ネット以前の世の中なら、学校卒業後の大人が馬鹿なことをしても、世間は冷笑するだけだったでしょう。でも、誰もが簡単に情報発信をすることができる現代では、上手くやれば大量のアクセスが得られます。

名前を売ることができ、収入を得る道も開かれています。これは、現代人にとって、大きな誘惑です。

大人とはいえ、非行少年のような心理で、趣味と実益をかねて、ネットで活動している人々がいます。

今回のへずまりゅうと思われるツイッターには、次のような書き込みがあります。

「高校時代は毎日殴り合いをしていました!」

「今も昔もたくさんの奴に馬鹿にされるけどさ、お前ら今に見とけ必ず有名になって見返すから!」

「YouTube必ず成功してみせます! 応援宜しくお願いします」

「YouTubeの広告だけじゃ生活はできない!これだけでかい媒体なんだから、俺は自分を売名するための場所でしか思ってない! そこから様々なビジネスに繋げられるしな!」

違法でもない、迷惑行為でもない方法で成功を目指すなら、結構なことだったのですが。

■YouTubeで成功する人と破綻する人の違い

YouTuberとして大成功している人々がます。

ただ、今は大成功している人も、かつては大失敗している人もいます。再生数を増やそうとすると、どうしても無茶な企画になってしまう人もいるようです。その結果、アカウント停止になり、苦労して作り直したYouTuberもいます。

成功しているYouTuberは、一見無茶なことをしているように見えても、きちんとルールを守り、スポンサーにも嫌われないようにしています。それは、テレビに登場する毒舌芸人も同じですね。

YouTuber出身の人気お笑い芸人としては、フワちゃんがいます(本名:不破 遥香:ふわ はるか)。

ネットやテレビのフワちゃんは、見た目も、言動も、はちゃめちゃです。けれども、ただ破天荒というだけでは人気者にはなれないでしょう。彼女もまた、実は地道な努力の人なのだと思います。

大成功のためには幸運も才能も必要ですが、フワちゃんも、有名なヒカキンさんも、誠実な努力の人なのだと思います。そして、愛の人ではないかと私は感じます。彼らのYouTubeには、どこか温かさを感じますよね。

■人生を台無しにしないために

「YouTube必ず成功してみせます! 応援宜しくお願いします」。このような思いは間違っていません。

でも、「目的のためなら手段を選ばない」になってしまうと、危険です。成功への決意は良いのですが、YouTubeだけが人生ではありません。それに、YouTubeを単に売名の道具と思っている人を、YouTubeユーザーはどこまで応援するでしょうか。

もしもネットもYouTubeもなかったら、フワちゃんもヒカキンさんも、有名になったり、お金持ちになったりはしていなかったかもしれません。けれども、きっとどこか別の場所で、幸せな生活をしていたことでしょう。

非行少年タイプの人の中には、エネルギッシュでユニークで見どころのある人もいます。ただ、その個性を生かすためには、愛と努力が必要です。

インターネットも、YouTubeも、便利な道具で、埋もれていた才能を引き出してもくれます。しかし同時に、危険性もあるでしょう。歪んだ承認欲求の満たしと、地道な努力なしの成功という幻想に惑わされないようにしたいものです。

それを、YouTuber志望の子供達にも、伝えたいと思います。

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先日、某高校さんから、生徒さんに見せる大学模擬授業の動画を依頼されました。50分ほどの動画を依頼されたのですが、50分も見続けなければならない生徒さんがかわいそうなので、「碓井真史の心理学、豪華5本立て!:10分×5」を、ちょっとハイテンションで撮りました!

動画提供は初めてでしたが、模擬授業や講演には良く行きます。高校に向かうときの第一歩は、小難しい準備の前に、まずその高校の生徒さんを好きになることです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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