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「感染したら、いじめられるの?」――不安を抱える子供たちへ【#コロナとどう暮らす

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:学校再開はうれしいけれども不安も高める(写真:アフロ)

Yahoo!ニュースでは新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのように変化していくのか、皆さんが不安に感じていることをコメント欄に記載する記事を公開しています。その中で、「学校で一人でも感染したら、学校は閉鎖されるのでしょうか。閉鎖されたらその子のせいだ、といういじめに繋がらないか心配です」という声がありました。そこで、心理学者、スクールカウンセラーとして、私なりの見解を述べたいと思います。

■学校再開の中での不安

私たちは恐れています。新型コロナに感染することを。新型コロナに感染して、みんなに非難されることを。多くの人が、地域や職場や学校での第一号患者にはなりたくないと思っていることでしょう。

感染者が増えたことで、一人ひとりの感染者は目立たなくなったかもしれません。けれども、社会活動が再開し始めた今、不安は再び高まっています。学校の子供たちも、再登校を喜びつつ、不安を抱えています。

せっかく再開した学校。授業や部活や学校行事が少しずつ通常に戻りつつある中、一人の子供が感染する。そのおかげで、すべての予定がキャンセルされ、授業も部活も楽しみにしていた行事も再び止まる。その感染者が自分だとしたら。想像するだけでも怖くなります。どれほど、みんなに責められるでしょうか。「きっといじめられるに違いない」――そう子供たちが不安がるのも当然です。

実際にいじめが起きることを防がなくてはなりませんが、このように不安がっている子がいること自体が、問題です。

■いじめたくなる心

いじめが起こる根本的な原因は、人間関係の不安です。もしも、子供がみんなから愛され、尊敬され、相互信頼関係の中で勉強も様々な活動も上手く行っていたら、誰かをいじめる必要はないでしょう。けれども、子供たちは様々な心の問題を抱えています。

いじめは、いじめたい欲求を持った子が、いじめを許される環境に置かれたときに発生します。いじめっ子の心の中には、問題がいっぱいです。満たされない権力欲、傷つきやすい自己愛(自分の行為が報われない辛さ)、肥大した自我(ごうまん)、自己肯定感の低さ、ルールやマナーの未学習とコミュニケーションの不器用さ(上手に頼んだり謝ったりできない)などの問題があります。

このような心の問題を抱えた結果、心が落ち着かず、誰かを非難し攻撃することで、自分のストレスを発散しようとしたり、歪んだ優越感を持とうとしたりします。コロナ禍の今、みんながイライラしています。大人たちも、県外ナンバーの車に石をぶつけたり、誰かをネット上で誹謗中傷したりしています。しかも、自分のしていることを正しいと思い込んでいます。自粛警察などと呼ばれる人たちもいます。

いじめっ子も同じです。自分はいじめていない、ただふざけているだけだと言ったり、あの子のせいでみんなが迷惑している、あの子がルールを破ったのだと言ったりして、非難や攻撃をします。被害者にとってはいじめですが、いじめっ子は正当な攻撃だと思っています。「だって、○○くんが○○したんだもん!」と自己の正当性を主張するでしょう。

誰かがコロナに感染した。手洗いが不十分だったかもしれない、公園やスーパーに行ったからかもしれない、親戚の子と遊んだからかもしれない。だから、お前が悪い。お前のせいで、また学校が休みになったと、責めたくなる子もいるでしょう。

文部科学省のガイドラインによると、感染によって再び休校となる可能性はあります。その時、みんなはとてもがっかりするでしょう。でも、ある子は理性で自分の心をコントロールします。「感染した子も好きで感染したわけではない」「感染した子も苦しんでいる」「その子を責めてはいけない」と考えるでしょう。先生や両親に、そう諭される子もいるでしょう。その子たちは、悲しみも、やり場のない怒りも、いじめではない方法で収めます。

一方で、その悲しみとイライラを抑えられない子もいます。本当は誰が悪いわけではないのですが、やり場のない怒りを感染した子に向けてしまいます。日ごろからうっ積した思いを抱えていればなおさらです。さらに親までが感染した子を責めるようになれば、子供はますますいじめの心を持ちやすくなるでしょう。

いじめ被害は、私たちの想像以上に子供の心を傷つけます。ストレス、抑うつ、不安、自尊感情の低下、孤独感、摂食障害、自殺念慮、PTSD、解離性障害など、長く影響が残ってしまう子もいます。

■いじめを作る大人たち

大人は「いじめはダメだ」と言いながら、先生や保護者がいじめを許容する環境を作ってしまうことがあります。たとえば、高圧的で不寛容な大人です。子供のミスを許しません。強く叱責し、力でねじ伏せます。そんな環境では、子供も同じことをしようとして、弱肉強食の子供世界を作り上げ、集団に害を与えた子、自分に不快な思いをさせた相手をいじめます。

アメリカのトランプ大統領がメキシコとの間に壁を作ると以前言いました。違法な移民への断固とした態度を示したのですが、その強硬な雰囲気の中で、子供達による人種差別的ないじめが起きたという報道もありました。子供は、大人の映し鏡です。

距離を取ること、消毒することの強調は、気をつけなければ子供の間にいじめを生みます。感染を防ごうという大合唱は、子供による感染者いじめを作りやすくするでしょう。

いじめ許容環境を作るもう一つのパターンが、頼りない大人です。子供が自分の理屈で乱暴な言動を取っても、止めることができません。子供の世界が無法地帯になってしまうのです。

■コロナいじめの防ぎ方

コロナに感染した子へのいじめを防ぐためには、どうしたら良いでしょうか。まず、日ごろから子供たちの心を整えておくことです。愛されている実感、周囲との信頼関係、活躍できる場を整えましょう。

休校が続き、春から夏の行事も軒並み中止です。子供が互いの良い関係を育てるチャンスも失われています。だからこそ、今後のクラス運営と、子供の心の健全育成が、いつも以上に求められています。

写真:アフロ
写真:アフロ

コロナについては、感染予防と共に心の教育の必要性が増しています。いじめは何でもだめですが、コロナをいじめに使ってはいけないという教育が必要でしょう。そして、万が一校内で感染者が出た時に、自分たちはどう考えるべきなのか。事前に考えさせましょう。コロナによる社会問題は、いじめ防止や人権教育の格好の教材です。

その雰囲気の中で、もしもいじめが起きたときは、すぐに大人に言っても良いと子供に教えておきましょう。大人に話すのは、チクリでも裏切りでもない、正しい行動だと教えましょう。

親に心配かけたくない、迷惑かけたくないと考え、親に話せない子もいます。しかし、親には迷惑をかけて良い、子供のことを心配するのが親の仕事だと伝えておきましょう。

大人に話すと、いじめっ子が叱られることを気にする子さえいます。でも、いじめっ子のためにも、そんな悪いことはやめさせなければならないと子供に教えましょう。

次に、いじめ許容環境を作らないようにしましょう。学校内でのより良いクラス作りはもちろん、社会の中で大人が不寛容さを示してはいけません。コロナ感染者を個人攻撃している姿を子供に見せてはいけません。

でも残念ながら、コロナ騒ぎの中で、不寛容は広がっています。「あの店は営業している」「県外ナンバーの車が走っている」「マスクをしていない!」「2メートルより近づくな!」「なぜ、まだ学校を始めない!」「なぜ、もう学校を始める!」「もっと消毒しろ!」「消毒ばかりして、人をバイキン扱いするな!」。

みんなが心に怒りをためていて、学校にも役所にも、クレームがきます。スーパーの中で怒鳴っている人もいます。これからは「新しい生活様式」が大切です。注意喚起を誰かを責めるために使ってはいけません。

いじめは、人権問題としては100パーセントいじめっ子が悪いです。しかし教育問題としては、いじめっ子もまた教育的支援が必要な子です。叱ることも、教育の一貫です。単なる罰だけでは、いじめ問題は解決しません。教育が必要です。

教育には「〇〇しましょう」と教える「直接的教育」と、大人がそうしているのを見せて「観察学習」させる「間接的教育」があります。そして、間接的教育の方が、効果が上がることがしばしばあります。

コロナで友達をいじめてはいけません。そのメッセージを伝えるために、まず大人が正しい態度を示したいと思います。そうして、「感染したらいじめられるの?」と不安がっている子供たちに、「大丈夫だよ」と優しく力強く伝えたいと思います。

個性を認め、寛容さを保ちながら、その上でコロナいじめを絶対許さないという毅然とした大人の態度が必要です。コロナいじめを許さず、君を守ると大人が宣言することが、子供に安心感を与えます。もちろん言葉だけでなく、行動が伴わなければなりませんが。

☆子供たちへ☆

いじめられるのは怖い。でも、絶対に君を守る。いじめられたら、いじめを見たら、大人に話すことで、君の勇気を示してくれ。君は弱いいじめられっ子じゃない。今までいじめと戦ってきた勇者だ。世界が君の味方だよ。

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※記事をお読みになって、コロナ関連のいじめ問題についてさらに知りたいことや疑問に思っていること、自分なりの乗り越え方などのアイデアがありましたら、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください(個別の回答はお約束できませんのでご了承ください)。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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