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避難勧告・指示は「避難所に行け」という意味ではない(台風19号に備えて)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
大型台風19号接近に備える店舗(写真:ロイター/アフロ)

<避難には、様々な形がある。もっと気軽に避難しよう。>

■大型台風19号接近

強くて大きな台風が来ています。各テレビ番組は、長い時間をかけて報道しています。鉄道各社も計画運休を次々と発表しています。ホームセンターでは、防災グッズを買う人々の列が長く続いています。

近年の台風の頻発、つい先日の台風15号の被害。緊張感のある報道。多くの人々が、災害に備えようとしています。それでもなお難しいのが、「避難」です。

防災グッズを買う行為はしやすいのですが、避難所に行くのは敷居が高いでしょう。

水害はなぜ逃げにくい:様々な避難そして避難場所と避難所の違い

「避難命令」が一番強い避難情報ではありません。>(「避難指示」が一番)

■水害の避難とは

先日、ある報道で流れていました。夜中に大雨が降っている状態で、自治体が「避難勧告」を出そうとしたが、大雨の夜中に避難することの危険性を考えてあえて自治体は避難勧告を出さなかったと。

これは、ちょっと違いと思います。水害避難には、様々な形があります。

情報を出す側も受け取る側も情報の正しい意味を理解しないと、気象衛星も膨大な報道も、宝の持ち腐れです。

大きな地域全体に避難勧告避難指示が出ることもありますが、実際の危険性や、取るべき行動は、それぞれの家庭によって異なるはずです。

1近距離避難、避難所避難

「自宅は1階建なので、ご近所の2階建の家に避難しよう」と考えることもできます。土砂災害の危険性がある中で、「自宅は木造家屋だから、ご近所の鉄筋の家に避難しよう」とすることもできます。

避難所に避難するのは、不便な生活とか、プライバシーがないとか、色々心配になります。この心配が、避難所避難行動へのブレーキになります。

けれども、台風から命を守るための避難なら、避難所生活は一日か二日でしょう(家が住めない状況になれば別ですが)。一日か二日なら、不便な生活もなんとかなりそうです。

2垂直避難

自宅の2階以上に避難するのが、垂直避難です。自宅の中でも、危険性が高い場所と低い場所がありますね。

3遠距離避難

暴風雨になる前なら、遠くの親戚の家に避難することもできるでしょう。避難というと大袈裟な感じがしますが、遊びにいく、この機会に訪問するということでいかがでしょうか。

風水害の危険性がない地域に旅行に行くのも、遠距離避難の一つです(新幹線や飛行機が止まる前の話ですが)。

■避難への心のブレーキを外す

タイタニック号が沈む時、最初はみんな救命ボートに乗ろうとはしませんでした。明るく、暖かく、音楽とご馳走がある豪華客船から離れて、寒く暗い海に小さな救命ボートで出て行く。これは、確かに嫌なことです。けれども、タイタニック号が大きく傾き始めた時には、今度は救命ボートに乗るためのパニックが起きてしまいました。

私たちは、昔と比べれば、ずっと豊かでプライバシーが守られる生活をしています。その現代人が、「避難」することは、大変なことです。だから、避難することを、もう少し気軽に考えても良いのかもしれません。

いち早く学校などに避難してくるご年配の方々を見ていると、それほど緊迫感のある様子ではなく、ちょっとおでかけぐらいの雰囲気で来られる方々がいます。

地元の小学校に来て、顔見知りの人々がいて、お茶を飲みながらおしゃべりをして、しばらくして大丈夫だとなれば、挨拶をしながら笑顔で帰って行く。そんな感じです。

もちろん、本当に大災害が発生すればこうはいきませんが、慣れている学校に慣れている人々と共に安全なうちに避難する姿勢は見習いたいものです。

避難に際して、高齢者は体力面の不安がブレーキになります。だからこそ、安全で明るいうちに、ゆっくり歩いて避難です。

若い人は、避難所避難に関してはプライバシーの問題がブレーキになりがちです。避難所以外の避難も考えたいところですし、一泊二日ぐらいなら大丈夫と思いましょう。

赤ん坊のいる家族や、障害を持った人がいる家族は、周囲の迷惑を気にする人もいます。でも、こんな時に助け合わなくてどうするのでしょう。文句をいう人もいるかもしれませんが、協力的な人も必ずいるはずです。

それでもいろいろご心配はあるでしょうから、様々な形の避難の形も考えましょう。

■台風と私たちの一体感

大都会では、他人のことに関わらないのが、一種の生活のルールです。ところが、台風の時などに不思議な一体感が生まれることがあります。

駅で立ち往生している時などは、経済力も地位も関係なく、同じ立場になります。共感し合えます。不安な時、人は人を求めます。

台風には逆らえませんが、地震とは異なり、予測し備えることができます。災害発生時こそ、私たちの知恵と力の見せ所です。様々な被害が出るかもしれませんが、まずは命を、守りましょう。

→もっと詳しく

市内全域に避難勧告・避難指示!? どうすれば良いのか:心理的抵抗感の下げ方>10/12.17:00

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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