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市内全域に避難勧告・避難指示!? どうすれば良いのか:心理的抵抗感の下げ方

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
台風19号台風19号接近、三重県鈴鹿(写真:ロイター/アフロ)

<460万人に避難勧告、避難指示。一体どうすれば良いのか。避難への心のブレーキを外すためには、何が必要なのか。>

■台風19号:460万人以上に避難指示(緊急)・避難勧告

過去最強クラスとされる台風19号が、東海地方や関東地方を直撃です。午後4時現在、11都県の460万人以上に避難指示(緊急)・避難勧告が出されています。避難準備情報(高齢者等避難開始)を含めれば、1千万人を超えています。

何万人もの人口がある市内全域に避難勧告や避難指示が出ているところもあります。でも、何万人もの町の人が、一体どこへ避難すれば良いのでしょうか。

報道を見ていると、すでに人でいっぱいになっている体育館などもあります。

■水害避難の難しさ

地震などは、基本的には予知ができませんから、発生してからの避難です。でも、水害は被害が出る前に避難しましょうと呼びかけられます。安全な場所に避難すれば命は助かるのですが、被害発生前の避難は簡単ではありません。

さらに、水害情報は震度で表される地震情報よりも複雑です。情報の意味がよくわからない時もあります。本当に自分の家が危険なのか、そしていつ、どこへ逃げたら良いのか、とてもわかりにくいのが水害です。

人はよくわからない時には、考えることを止めてしまいます。その結果、何もしないことにもなりかねません。

何もしないままで、命を失うことがあってはなりません。わからないまま行動しなかった結果、状況が急変してから慌てて外に出て、かえって被害を受けてしまう人もいます。

まだ実際の被害が出ていないのに、自宅を離れて避難するのは、大きな心理的抵抗があります(「心理的コスト」が高いとも言えます)。避難するためには、この抵抗感を下げなくてはなりません。

「避難命令」が一番強い避難情報ではありません。(避難指示が一番)

■避難の抵抗感(心理的コスト)を下げる

災害心理学の研究によれば、この状況なら「避難すべきである」という規範を持っていることが避難行動を生みます。自動車のシートベルトと同じです。恐怖を感じる体験をしてからシートベルトをするようになるのでは遅すぎます。シートベルトはするべきだという心が大切です。

実は、人はなかなか「数字」では行動しません。目の前で悲惨な状況を見たり、恐怖心を感じた結果、行動します。大地震で自宅が半壊し、街が破壊されれば、誰もが避難するでしょう。

でも、水害の時は、恐怖心を実感する前に避難する必要があるのです。

日頃から、地元の小学校にかボランティアなどで顔を出す。そこで同じような地域の知り合いと会っている。今までも、何度も避難していて、そこで仲間たちとおしゃべりしている。このような状態で、そして雨風がひどくなる前に避難行動が取れれば、避難への抵抗感(心理的コスト)は下がるでしょう。

一度も行ったことがなく、地域の知り合いも少ない人が、学校や体育館に避難するのは、抵抗感があります。けれども、今回のような場合は特別です。避難場所(避難所)に行ってみれば、同じような不安を抱えた人々がいます。同じ避難している仲間です。

水害はなぜ逃げにくい:様々な避難そして避難場所と避難所の違い

■避難場所に行かない、行けないとき:命を守る行動を

地域全域に避難指示、避難勧告が出ている場合、本当に地域全域が自宅にいては危険な場合もあります。地域の人みんなが自宅にとどまっていては危険だという場合もあります。しかし、地域内のところどころが危険な場合もあります。

避難指示、避難勧告が、イコール避難場所へ行けという意味だとすると、避難への心理的抵抗が大きくて何もできないこともあります。また、すでに雨風が強くなりすぎ、浸水が始まり、外出は危険すぎる(心理コストが高すぎる)ときもあります。

避難指示、避難勧告の避難は、避難場所へ行けという意味だけではありません。

発生する災害種別に対して立退き避難が必要な場合には、当該災害に対応した指定緊急避難場所へ避難します。ただし、既に周辺で災害が発生している場合など、立退き避難がかえって命に危険を及ぼしかねないと自ら判断する場合は、「近隣の安全な場所」への避難や、少しでも命が助かる可能性の高い避難行動として、「屋内安全確保」を行います。

出典:首相官邸サイト

思考停止にならず、パニックを起こさず、命を守る行動を取りましょう。

「近隣の安全な場所」は、我が家よりは安全な場所で、安全に移動できる場所です。

「屋内安全確保」は、自宅の中でも、少しでも安全な場所です。

避難勧告・指示は「避難所に行け」という意味ではない(台風19号に備えて)

■避難へのみんなの抵抗感(心理的コスト)を下げるために

あなたの家が、周囲の家より安全なら、ご近所にお声をかけることもできるでしょう。結果的に何でもなかったとしても、たまには一緒にお茶を飲んでテレビを見るのも、良いものです。

親戚に声がけすることもできるでしょう。一人で避難場に行くことを不安がっている人に、声をかけて一緒に避難することもできるでしょう。

私は東日本大震災の現場でたくさん聞きました。津波など少しも心配していなかったが(「正常性バイアス」によって危険性を感じられなくなっていたが)、近所の人に無理に避難を勧められ、そのおかげで命が助かった話を。

高齢者は避難時の体力的不安を感じ、若者はプライバシーの問題などが、心理的コストにつながりやすくなります。あなたの一声が、避難への心のブレーキを解くかもしれません。

避難を直接勧め、一緒に避難することも、簡単なことではないでしょう。でもたとえば、知り合いの一人暮らしの人、親戚などに、電話一本かけるだけでも、その人の不安をとり、適切な行動を生むきっかけになるかもしれません。大災害時には、一人ひとりが、自分のできることをしましょう。

誰も避難していない、ガラガラの避難場所に避難するのも心理的コストが高いのですが、すでに混んでいる避難場所に避難するのも、抵抗感を感じる人々もいます。

介助が必要な高齢者、障害者、外国人、赤ん坊を抱えた家族。避難が大変であり、避難場所での生活も大変、人様に迷惑をおかけすると思うと、避難が遅れがちです。

でも、こんな非常時です。避難場所にいる人たちも、きっと助けてくれると、私は信じています。避難が大変な災害弱者ほど、大歓迎してくれると信じています。

本州なら、明日になれば台風も過ぎているでしょう。短い時間です。

各避難場所のみなさん、遅れてやってくる災害弱者の皆さんのために、どうぞ良い場所を空けて下さい。ウェルカムという姿勢を示すことが、避難への心理的コストを下げます。

災害の多い日本ですが、私たちは災害に負けない、助け合えると宣言すること、その思いを届けることが、各自の命を守る行動をうながすでしょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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