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夜回り先生(水谷修氏)サイト閉鎖?:子供支援とネット相談の難しさ

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
水谷氏公式サイト内のブログのスクリーンショット(使用許可取得済み)

<水谷修先生ご自身からのメールによると、ホームページ閉鎖をまだ決めたわけではなく、ネットに関して様々なことを熟考中のようです。ただ悩んではいらっしゃるようで、このページで書いたような理解と支援が必要だと感じています。2019.8.23. 19:45>

■夜回り先生(水谷修氏)ホームページ閉鎖

夜回り先生こと水谷修先生が、ご自分のホームページを閉じられました。

公式サイト(「明日笑顔になあれ」)内の公式ブログ(「夜回り先生は、今!」)に、次のように発表されました。

「さようなら」 2019年8月21日

さようなら。

哀しいけど

さようなら。

もう、疲れました。

これで、このホームページは閉じます。

さようなら。

「さようなら、哀しい」 2019年8月21日

私に相談している人の何人が私の本を読んでくれているのか。

誰かから聞いて私に相談。

でも、それは哀しい。

ただひたすら続く何百本の日々の相談。

私の本を読んでくれればそこに答えが。

疲れました。

■水谷修先生(夜回り先生)とは

水谷修先生は、1956年生まれ。高校教師をしながら、夜の繁華街を回り、盛り場徘徊する子供達に声をかけてきました。活動は次第に世に広まり、「夜回り先生」と呼ばれて、少年非行や薬物、自殺問題などに積極的に関わってきました。

水谷先生の活動が世間で話題になるにつれ、先生のもとには、毎日何百という相談が寄せられるようになります。先生は、その一つひとつに答えようとしてきました。

それは、水谷先生が有名になり、たくさんの本を出され、テレビにレギュラー出演し、全国を講演で回っても、基本的には変わりませんでした。

最近のブログを拝見すると、

「相談件数が急激に増えています」 8月14日

「岩手県盛岡市に」 8月11日

「明日は、愛知県での講演です」 8月 6日

と、忙しい日々が綴られています。

■あまりにストイックな夜回り先生

水谷先生が関わった子達の中で、何人かの少年が亡くなっています。それはどうしようもない面もあり、誰も水谷先生を責めてはいません。

しかし、先生はおっしゃいます。

「私が殺した」と。

子供、生徒が亡くなれば、親や教師、カウンセラーはそんな気持ちにもなります(私も個人的に共感できる部分があります)。ただし、そんなことは一生に何度もはありません。

しかし社会的な活動を広げていけば、そんなケースに何度も出合うことがあります。多くの活動家や有名人は、深く悲しみ責任を痛感しつつも「私が殺した」と考えすぎずに、活動を続けます。

あるいは、「私が殺した」「私の責任だ」と強く感じすぎて、活動に幕を下ろし去っていきます。

けれども夜回り先生こと水谷修先生は、「私が殺した」と真剣に考えながらも、活動を続けてきました。マスメディアでの活動も、個別の活動も続けてきました。

そこが水谷先生のすごいところであり、そしてあまりにストイックで、ご自分の心と体を痛めつけてきたところです。

私は以前、水谷先生の講演をお聞きして、そう思いました。

夜回り先生公式サイトのスクリーンショット(使用許可取得済み)
夜回り先生公式サイトのスクリーンショット(使用許可取得済み)

■子供若者支援、自殺予防活動の難しさ

子供、思春期、若者。人生の大切な時期ですが、難しい時期です。子供の体の病気でも、一般の内科医ではなく、専門の小児科医が診ます。

普段大人を診ている普通の精神科では、子供は診ない医師もたくさんいます。子供を診てくれる精神科、思春期臨床などは、全国どこでも長蛇の列、予約しても数ヶ月待ちです。

それほど子供の問題は難しいのです。

相談を受ける場合も、大人なら自己責任とも言えるでしょう。どこに相談に行くのか、どんな話をして、その後どうするのか。大人なら自分の責任で自分で行動します。

しかし相手が子供の場合は、そうはいきません。学校や病院なら、親の管理下ですが、ネットはそうではありません。

相談内容が命に関わることなら、なおさらです。自殺予防活動は、交通安全活動ほどの社会的理解を得ていません。交通安全教室に参加直後に交通事故にあっても、人々は安全教室を責めないでしょう。

でも、自殺予防の相談直後に自殺などが起きれば、様々な批判も予想されます。

子供若者の深刻な問題への支援は、簡単ではありません。

■ネットでの個人活動、ネット相談の難しさ

直接面談してでの相談なら、対応できる数に限りがあります。電話相談も同様です。しかし、ネット相談は限りがありません。知名度が上がれば、一日に何百でも何千でもやって来ます。

さらにネットコミュニケーションには、公の場なのに個人的な場のように感じる傾向があります。リアルな世界なら、大きな講演会場で講師に個人的に相談するのは、遠慮するし、感謝もするでしょう。

ところがネットでは、個別対応してくれて当然だと感じてしまうのです。

しかし、わずか数行のご相談内容でも、深く考えなければ返信できません。

ネット上での心ある人々による個人相談活動が、刀折れ矢尽きて中止されて行く例を、度々見てきました。

■ボランティア的活動の難しさ

有給の仕事であれば、勤務日があり、担当領域があります。それ以外のことをしなくても、文句は言われません。しかし無償の行為は違います。

アフリカのことをしていれば、なぜアジアのことをしないのかと責められることもあります。

■個人的体験

私も、掲示板やメールで無償の個人的相談活動をしていた時期もあります。私のような小さな活動ですら、精神的にも、肉体的にも、時間的にも、かなりの負担でした。

疲れ果て、また遠出の計画もあったため、掲示板の夏休みを取ろうとしたら、「悩んでいる人に休みなどない!」と批判されたこともありました。

どんな人に対しても、365日態勢で、完璧な対応をし続けろ。そのように要求されているような気がしていました(こんな風に感じてしまうのは、疲労やストレスがたまり、心のバランスを崩していたのだと思います)。

■相談活動をする側の心の健康

ネット上では水谷先生のことを心配する声が多数聞かれます。おそらく、ご家族やスタッフのみなさんが適切に動いていることと思います。

相談支援活動をするプロたちは、問題に深入りしすぎず、自分を守る訓練を行います。個人的に家族や親友を助けるのなら違いますが、プロは不特定多数の人々に対応し続ける必要があるからです。

時には休むことも、仕事の一部です。プロ野球のピッチャーは、投げ続けるために、しっかり肩を休ませます。

ただ、有名なプロでも、ネット上の活動は仕事の一環なのか個人的な親切行動なのか、あいまいになります。

広く長く支援活動をするためには、組織化も必要かもしれません。でも、著書を読むのでもなく、スタッフが対応するのでもなく、その先生自身に話を聞いてもらいたい、声をかけてもらいたいと願う人も多いでしょう。

けれども、どんなに素晴らしい先生も、人間です。プライベートな生活もあるでしょう。気持ちが滅入ることもあり、歳をとれば体力も落ちます。

素晴らしい方の素晴らしい活動なら、私たちみんなが理解し支える必要があるでしょう。始めたからには無責任なことはできませんけれども、その方にも、休む自由もやめる自由もあることも、理解したいと思います。

■誰かを支援したいと願う全ての人々に

人を助ける仕事は、過酷です。友人に元「海猿」(海上保安庁の潜水士)だった人がいます。映画「海猿」のようなことが実際にあるわけではないと言っていましたが、映画で描かれた猛烈な訓練は本当だと言っていました。

人を助けるためには、高度な訓練、しっかりとした装備、そして決して見捨てないバディ(仲間・相棒)が必要です。海猿を目指すような人は、最初から体力自慢で河童のような水泳名人ですが、それでもこれだけのことが必要になります。

心の相談は、友人家族だからこそできる相談もありますが、不特定多数の人々の相談に乗ろうと思えば、訓練や仲間や組織が必要になります。

無償の行為は、だからこそ手が抜けない面もあります。

「善をなすときは微に入り細に入り」です。

けれども、同時に自分の限界を知ることが必要です。一緒に溺れたら大変です(人助けをするときに絶対に忘れてはいけないこと:自分も相手も潰れないために:Yahoo!ニュース個人有料)。

困っている人を助けたい、人の役に立ちたいと願うのは自然なことでしょう。ただし、それぞれの事情があります。ある人はプロとして働き、ある人は組織の中で働き、また別の人は個人的に頑張ります。

いずれにせよ、私たちとしては、最前線で頑張っている人を支えたいと思います。その人が、プロであれ、ボランティアであれ、市民からの理解と支援は必要です。

そして私たちも、それぞれに誰かのために活動したいと思います。

私のできることを。私のできる範囲で。精一杯に。

夜回り先生ホームページ閉鎖決定は一部マスコミの誤解

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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