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サッカーW杯と応援の心理学:選手のために、私たちのために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

<サッカーは応援が盛り上がりやすいスポーツ。応援は、選手にも観客にも良い効果を与える。>

○応援が選手に与える効果

サッカーW杯。盛り上がってますね。みんなで応援しましょう。「応援」は、気休めではなく、本当に効果を持っています。

応援は、選手の気持ちだけではなく、実際に選手の力を増大させます。たとえば最高に力を出している人に、「よいしょ!」と掛け声をかけると、さらに力がでます。

良い応援は、選手を孤独な戦いから救います。

試合になれば、誰も選手の手伝いはできません。しかし、応援は選手の心を支えます。負ける、失敗するという孤独な不安から選手を開放し、あたたかな気持ちにさせます。

マラソンや駅伝で辛いのは、応援する人がいないコースだといいます。シンクロナイズドスイミングの選手だった小谷美香子さんは、声援の声が自分の体を持ち上げてくれるような感覚があったと語っています。

良い応援は、選手を競技に集中させます。

負けたらどうしようという不安や恐怖のような雑念が取り払われ、競技に集中できるます(心理学的に言うと、「フローの状態」、または「タスクインボルブメント」)。そうすると、実力が十分に発揮できます。

◯「良い応援」とは

W杯やオリンピッックのような国際的試合でも、子供の運動会や部活の試合でも、基本は同じです。応援する人は、もちろん優秀な成績を期待はしますけれども、選手の努力を認め、選手とともに戦っているような一体感のある応援こそが良い応援です。

選手の苦労を理解もせず、ただ「勝て勝て」というのは、良くない応援であり、選手にプレッシャーを与えます。

「がんばれ!」「負けるな!」ということばも、選手の辛さ悲しさ悔しさを理解した上でなら、言葉なら良い言葉です。だから本当の応援をする人は、選手と同じようにがんばります。

病気や入試なども同じです。言葉だけで「がんばれ」などと言われたら、腹が立ったり悲しくなったりするときもありますが、わかってくれている人の心のこもった言葉なら力になるでしょう。

たとえば「応援団」は自ら体を鍛え、姿勢を正して立ったり、大きな旗を持って応援したりします。応援する吹奏楽部もチアリーダーも一生懸命練習を積んで、試合会場に向かいます。

災害被災者には、支援物資や金銭的援助が必要です。でも同時に、温かな応援の心も必要です。孤独感や見捨てられ感が、被災者の心身にダメージを与えるからです。

先日の大阪の地震の時には、台湾のトップが日本語で「出来る限り支援をする用意ある」と表明してくれましたが、これは大きな励みになるでしょう。

東日本大震災の時には、国連が声明を出してくれました。「日本は今まで世界中に援助をしてきた援助大国だ。今回は国連が全力で日本を援助する」。この言葉に、多くの日本人の心が揺すぶられました。

◯人はなぜ応援するのか

国際試合などが行われていると、自分が日本人だと強く意識します。自分の国への「帰属意識」が高まります。大勢の日本人が応援していると、その感情が他の人にも感染するように広がります。人々とともに「グループ感情」を持つと、脳内の「ミラーニューロン」が活性化し、さらに選手たちを応援したい気持ちになります。

人は、みんな素晴らしい人生を送りたいと思っています。友情、努力、勝利です。ただ、簡単にはそんな体験はできません。それが、スポーツ観戦を通して、疑似体験できるわけです。

人は、もう結末がわかっている映画を見ている時でさえ、主人公を応援したい気持ちになります。街の中でも、アスファルトの隙間から生えているタンポポを応援したくもなります。

人は応援したいのです。誰かへの応援は、実は自分自身へのエールでもあるのです。

◯サッカーと応援

サッカーは、にわかファンになりやすいスポーツです。ルールが簡単だからです。難しいルールもありますが、初心者はとりあえず理解しなくても良いでしょう。オフサイドも、コーナーキックもわからなくても、ボールを蹴ってゴールに入れれば良いとわかれば、とりあえず試合を楽しみ、応援できます。

一方、サッカーに詳しい人は、監督のように考えて応援したり、悔しがったりできます。試合を見ている人たちは、選手には見えない、フィールド全体が上から見えています。神の目を持っているわけです。今選手がどこにいるか、どこにパスを出すべきかが見えます。試合を見ながら、盛り上がり、悔しがり、心も頭もフル活動して夢中で応援できるわけです。

サッカーに詳しくない人も詳しい人も、老若男女みんなで応援できるのが、サッカーです。

○応援が応援している人自身に与える効果

良い応援をしていると、選手との一体感を感じ「同一視」が起こります。選手と共に気力が充実し、悔しさに心をふるわせたり、心地よい達成感や、満足感を得たりすることができます。

同じ部活やチームの仲間なら、自分は試合に出られなくても、試合に出ている人と一体になって懸命に応援することで、まるで試合に出たかのような心の体験をします。さらに、応援しながら勝つための技術や作戦を自分自身も真剣に考えます。結果的に、自分自身の実力もアップするでしょう。

サッカーW杯など国際試合のように日本中が応援していると、人々は特に強い一体感を持ちます。政治も宗教も超えて、普通はありえない、日本中の一体感を感じます。これは、心を癒し、心にパワーを得られる体験です。

応援している中で、自分の人生を選手や競技に映しむこともあります(投影)。頑張っている姿をみて、自分も頑張ろうと思う、勇気や希望がわいてきます。時には、感動的な試合を見て、人生観が変わったという人もいます。

「スポーツ選手たちは、苦しい練習を乗り越えてきた『やり抜く力(GRIT:グリット)』を持っています。選手を応援し、同じ気持ちになることで、応援している人の『やり抜く力』も育ちます」(ちょっと話題の「やり抜く力」GRIT グリット:成功への最強の武器:Yahoo!ニュース有料)。

☆結論:選手のためにも、自分のためにも、精一杯応援しよう!(ただし寝不足にはご用心)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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