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新幹線のぞみ車内殺人事件の犯罪心理学:「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

「むしゃくしゃして」「だれでも良かった」。人は心が傷つき、思うようにならない時に、怒りに我を忘れ、感情が暴走する。

■東海道新幹線<のぞみ>車内で3人切られ1人死亡 凶器はナタ 「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」

新幹線の車内で殺人事件が発生しました。

9日午後9時50分ごろ〜東海道新幹線「のぞみ265号」内から「人が刺された」との110番〜小島一朗容疑者(22)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕〜刺されたのは3人とみられ〜男性1人は意識不明の重体だったが搬送後死亡した。他の女性2人は重傷の模様。

出典:東海道新幹線<のぞみ>車内で3人切られ1人死亡 凶器はナタか:毎日新聞6/9 

男は「新幹線の中で殺意を持って人を刺したことは間違いない」と容疑を認め、調べに「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」と供述しているという。

出典:「むしゃくしゃしてやった」新幹線3人死傷、容疑認める:朝日新聞6/10

新幹線3人殺傷 死亡男性、凶行を止めに入り犠牲になった可能性も 目撃者ら証言:朝日新聞6/10(日) 1:32

■「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった」

「むしゃくしゃして」は、凶器を用意し殺害を考える動機としては、常識的には考えられないことでしょう。

今までの犯罪例では、犯行のしばらく前から人生が上手くいかなくなり、自己否定の思いが高まり、さらに社会全体を否定する思いが強くなります。そのような自暴自棄の思いでの生活が続く中、何かのきっかけでイライラが極度に高まって犯行に到った時に、彼らはしばしば「むしゃくしゃしてやった」と表現します。

「誰でもいいから殺したかった」などと無差別で多数の人に危害を加える人は、すでに自分の人生や生活も大切にできなくなっています。だから、大勢の目撃者の前で犯行を実行し逃亡も考えません。

■鉄道にも手荷物検査が必要?

こんな事件が発生すると、鉄道にも飛行機なみの手荷物検査が必要だとの意見が出ます。諸外国では、高速鉄道に乗る際に手荷物検査が行われている国もありますが、飛行機ほどに厳密には行っていないようです。

また専門家の試算によると、乗客一人当たり500〜1000円の費用がかかるとされています(新幹線で手荷物検査はできる?専門家がコストを試算:BLOGOS)。しかし、列車は飛行機とは違い大きな荷物も全て車内に持ち込みますし、通勤電車なみの過密ダイヤを考えると、手荷物検査は難しいように思えます。

日本では、毎日6000万人が鉄道を利用しています。世界的な視点から見れば、鉄道テロは現実的な脅威であり、国土交通省も対策を検討しています(国土交通省/鉄道のテロ対策)。

ただ、テロではない個人による突発的な犯罪になると、対策はなおさら難しいでしょう。

■新幹線内の殺人事件

2015年に、新幹線車内でガソリンをまき火をつけた事件が起きています。容疑者は71歳の男性。当時の報道によると、男は自殺を決意し、計画的に新幹線の車内で焼身自殺を図り、周囲が巻き込まれても構わないと考えて油をまき火をつけたとされています。この男と乗客の女性が死亡。28人が重軽傷を負いました。所轄の神奈川県警は、殺人(未必の故意)と現住建造物等放火容疑を適用しました。

この男は、「年金が少ない。年金基金の前で首をつってやる」と繰り返し話していました。

自殺したい思いで周囲の人もあえて巻き込むような行為を、「拡大自殺」と呼んでいます。また、焼身自殺は多くの場合、強い抗議の意味を込めた自殺と言われています。

■若者による乗り物内殺人事件

2000年に発生した当時17歳の少年によるバスジャック事件があります。女性一人が、刃渡り約40センチの牛刀で殺害され、他の乗客も15時間半にわたって人質にされました。

当時の報道によると、この少年はもともと優等生タイプでしたが、いじめを受けたことから、家庭内暴力を起こし、孤立していく中でネット上でもバカにされてますます不安定になり、親によって不本意に精神科に入院させられます。彼は親に捨てられたと感じ、劣等感と孤立感を深め、目立ちたい、親を心配させて関心を引きたいという思いの中で、事件を起こしました。

逮捕後の精神鑑定で、解離性障害(自分が自分であるという感覚が失われている状態)と診断され、医療少年院に入所しました。

■「むしゃくしゃしてやった」:無差別殺人事件を予防するために

「むしゃくしゃ」を国語辞典で見ると、1.不愉快で、腹立たしい気持(様子)。2.乱れて整理がつかないさま。むちゃくちゃ。とあります。

腹立たしい、怒りの感情は、二次的感情と言われています。多くの腹を立てている人は、傷ついている人です。勉強や仕事や人間関係がうまくいかず、傷ついた人が、怒りを爆発させ、乱暴な行為で物や人を傷つけ、時に自分自身を傷つけます。

私たちも怒ることはありますし、怒り自体が悪いわけではありません。怒りがなければ、社会悪とも戦えないからです。しかし、怒りに我を忘れてはいけません。しかし、むしゃくしゃしている人は、頭の中が混乱して整理がつかなくなっています。暴力暴言が抑えられなくなることがあります。先のことを考えられなくなることもあります(「むしゃくしゃ」「イライラ」防止の心理学:Y!ニュース有料)。

犯罪防止のためには、ある意味「打算的」になる必要もあります。この社会の中でできるだけ楽に楽しく暮らしたいと思えば、割に合わない犯罪は防ごうと自分でも思えるでしょう。そんな計算すらできない状態で、人は突発的な破壊行動を起こします。

テロも、無差別大量殺人も、本当は全ての若者が希望を持てる社会にすることこそが、最大の防止策なのですが。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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