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土俵に女児を上げないのは偏見差別の見本:男と女の社会心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:女の子も運動好きの子は多い(写真:アフロ)

<ケガをしたのは、女の子だから? 女は弱い存在? 本当は、別の理由かもしれない。本当は、男女差より個人差の方がずっと大きい。>

■「ちびっこ相撲」でも女の子は遠慮して

またまた、相撲協会の対応が話題になってしまいました。巡業先で力士と子供が相撲を取る「ちびっこ相撲」。ここに参加予定だった小学生の女の子が、日本相撲協会からの要請で土俵に上がれなかったということです。昨年は良かったのに、今年は4日前になっての連絡で、がっかりした女の子たちがいたそうです。

相撲協会によると、これは土俵上の「女人禁制」と別の話とのこと。

 <全てのルールは「命」のために:土俵女人禁制と道徳教育の心理学

これまで「ちびっこ相撲」で、女の子がけがをしたがあったそうです。そこで昨年秋に、女児を土俵に上げない方針を決めたということです。今回の件は、事前連絡が上手くいかなったこともあるようですが、女の子が顔に怪我でもしたら大変という声も関係者から聞こえました。

しかし、今回ちびっこ相撲に参加できなかった一人の女の子がテレビの取材に応じていましたが、小学年低学年でも日常的に相撲の練習をしている子で、心身ともに並みの男の子よりもずっとしっかりしているように見えました。

さて、私たちはどう考えたら良いでしょうか。

■女の子がケガをした→性別が原因?

ちびっこ相撲で女の子がケガをしたことがあるのは、事実でしょう。でもそれは、「女の子」だからでしょうか。例えば、左利きの子供がケガをした時に、私たちは「左利きだから」とは考えません。

私たちの心の中には、悪意はなくても、無意識のうちに、根深い偏見の心があります。その代表の一つが、性別に関する偏見です。

性別は、人間を分ける時にとても目立ってわかりやすいものです。そこで人は、様々な事柄の原因を性別のせいだと感じやすいのです。誰かが失敗した時に、性別とは関係ないのに「だから女は」とか「男はしょうがない」といった見方をしやすいのです。

■偏見とは、差別とは

社会心理学では、「あるグループに所属しているだけでその人に対して持つマイナスイメージ」を偏見と呼んでいます。女性である。左利きである。ある国の国籍である。ある病気である。ある職業である、ある宗教の信者である。そのような理由だけでその人を悪く思うなら、それは偏見です。

テニス部のタカシ君、相撲部のケンジ君。このように聞いて、タカシ君はおしゃれでセンスが良くて、ケンジ君は鈍臭いと感じたなら、それは偏見です(昔、友人が「相撲部というだけで女の子にモテない」と嘆いていました)。

全ての人は何らかの偏見を持っているものですが、偏見は自覚することができません。当人は、事実だと感じます。

実際は、どのグループに所属している人も、様々な人がいて当然です。でも、私たちはそのグループ内の代表的な人、目立つ人を見て、全体を判断します。一人ひとりを見ることができなくなるのが、偏見です。

その偏見に基づく行動を、社会心理学では差別と呼んでいます。

■偏見差別ではなく、事実だ!?:科学や統計による偏見

いくら説明しても、事実だと主張する人はいるものです。中には、様々な事例や、研究、統計調査などを持ち出して、だから偏見ではなくて事実だと語る人もいます。

男の子よりも女の子の方が、筋力が弱かったり、肌が敏感だったりすることはあるでしょう。科学的データ、統計調査の結果で示すこともできるでしょう。ただし、それは「平均値」の話であり、実際は「個人差」の方がずっと大きいことを忘れてはいけません。

「男は女より背が高い」。これは事実です。しかし、「全ての男性は全ての女性よりも背が高い」わけではありません。

例えば、背が高いことが求められる求人で、「男は背が高い」からといって、身長160センチの男性は合格、身長170センチ女性は不合格とするなら、偏見に基づく男女差別でしょう。

身長は一目でわかるので、こんなばかなことは起きないのですが、もっと目に見えにくことでは多くの偏見差別が起きてしまいます。

たしかに、平均値の差とはいっても、最初から男だけに求人を出した方が手間はかからないかもしれません。しかし、私たちの社会はそのような差別を無くして行こうと、みんなで努力を初めているところです。

■男と女

身長は、とても大きな男女差があります。しかしそのほか、男女差があると言われているものは、実ははっきりしていなかったり、あったとしても小さな差しかないこともあります。

たとえば、「女性は数字に弱い」は、小さな平均値の差どころか、そもそも生まれつきの差などないことが判明しつつあります。むしろ、女性は数字に弱いと思い込むことによって、実際の数学の点数に差がつくことが確かめられています。

もっとも、女性は数字に弱いと言いながら、昔から家計は女性が受け持ったり、部活動の会計係はしばしば女生徒が引き受けますね。

スポーツの世界では、女性の柔道、空手、サッカー、スキージャンプなど、女性の活躍の場が広がっています。一方、男性の新体操やシンクロナイズドスイミングも始まっています。職業では、女性の運転手や数学教師や管理職、男性の看護師や保育士や家庭科教師も、珍しくなくなりました。

(料理は女性向きの仕事だが料理人は男の仕事、会計係は女の役割だが会計士は男の仕事。こんなふうに考えられがちでしたが、結局男社会では、収入が高い仕事は男向きという偏見が育ってしまったようです。)

■女の子は守るべき?

今回、相撲協会は悪気はなかったでしょう。女の子がケガをしないように配慮したとも言えるでしょう(トラブルを防ぎたいとも思ったでしょう)。

女性を守る男性、レディーファーストができる男性は、女性からモテます。しかし、レディーファーストは「悪意的差別」ではないけれど「好意的差別」だと考える人もいます。私個人はレディーファースト自体が悪いこととは思いません。しかし、女性に難しい仕事をさせないなど、女性を守ろうとする心の底に、女性を低く見る心が潜んでいる場合もあるでしょう。

たしかに、男女には違いがあります。全てを同じにすべきとは思いません。けれども、女性だから男性だからという理由で、個人が持つ可能性を否定したくはありません。

相撲好きの女の子が、もっと相撲を好きになり、相撲の練習をしている女性たちが、もっと強く立派な選手になりますように。男も女も、好きなこと、得意なことを伸ばせるように、応援したいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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