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友の自殺「学校は隠した」<取手いじめ>:自殺を子どもにどう伝えるか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■<取手いじめ>友の自殺「学校は隠した」 元同級生が不信感

学校や市教育委員会が当時、「受験への配慮」を理由に自殺の事実などを伏せたまま生徒らに調査した上で「いじめはなかった」と結論づけたことについて、「隠さず言ってほしかった」と異口同音に語った。2年が過ぎても、大人たちへの不信感を拭えないという。

出典:<取手いじめ>友の自殺「学校は隠した」 元同級生が不信感 12/15毎日新聞Y!

このような問題は、この取手いじめ事件だけの問題ではありません。学校現場では、教師達が苦悩すること、子ども達が戸惑うことは、少なからず起きています。

■自殺を知らせるかどうか

大人の自殺でも、周囲に死因を伏せることはよくあることです。突然死ということにして、周囲もまったく疑わない場合もあります。あるいは、自殺かもしれないし、事故死かもしれないと言った場合、殺人などの事件性がなければ、事故死ということにすることも、しばしばあるでしょう。

私達にとっては、自殺は隠すべきスティグマ(烙印)だからです。しかし本当は、そんなふうに周囲が見てしまうことが問題なのですが。

 <自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題

子どもの自殺の場合は、それを周囲が知ってしまったときの衝撃を考えると、なおさら難しいことになるでしょう。今回の毎日新聞の記事では、学校が隠したことで生徒が不信感を持ったことが問題にされていますが、もしもすぐに公表されて体調をくずすような生徒が出ていたら、受験前の時期に不適切だとの批判を受けていたかもしれません。

■様々なケース

子どもや教育、学校関係者の自殺、加害や被害、犯罪等について、子ども達には知らせないことはあります。学校の管理職や教育委員会は知っています。警察やマスコミが知っている場合もあります。決して隠蔽ではありません。しかし、熟慮の上での総合的判断で、秘密にすることはあります(どこの世界にも秘密はあるでしょう)。

ただし、秘密にするならば、事実を知っている人は秘密を墓場まで持っていかなければなりません。それが可能であり、その覚悟がある場合には、事実を子ども達に知らせない選択肢はあるでしょう。

しかし今回の取手のケースでは、子どもが亡くなった翌日には、すでに生徒達の間に自殺のうわさが流れてしまっていました。こうなると、秘密にすることは意味がなくなってしまいます。

ただ、様々なケースはあります。たとえば、亡くなった子の保護者が、死因は伏せて欲しいと学校に頼むことがあります。こうなると、学校は事実を言うことができなくなります。場合によっては、父と母の意見が食い違っており、さらに混乱することもあります。

ケースによっては、どのように対応すべきか意見がまとまらず、亡くなったこと自体が伏せられることもあります。もちろん、すぐあとに亡くなっていたことがわかるわけですが、生徒達は戸惑います。

いつ亡くなったのか、どうして亡くなったのか。大人たちは知っていたのに、私達には秘密にしていたのか。大人からすれば、様々な事情があるわけですが、思春期の子ども達からすれば、大人不信になるのも当然です。

またケースによっては、先生や親からの説明の前に、マスコミの報道が始まってしまうこともあります。

■子どもたちに何をどのように伝えるべきか

自殺だけでなく、事故死でも病気による急死でも、子どもの突然の死は、衝撃的です。子ども達は動揺します。

まず、全校集会でしょう。

校長先生が、全校生徒の前に立ち、冷静に、ある意味淡々と、今わかっている事実をしっかり伝えます。その段階では、自殺か事故死とか、原因は何なのか、誰が被害者か加害者か、わからないこともあります。わからないことは、わからないと伝えます。

もちろん、大人が知っていることを全部ここで話すわけではありません。公表できるほどしっかりした情報がなければ、「まだ、わかりません」でしょう。それでも、基本は、ウソをつかず正直に、今わかっていることをしっかり伝えるです(両親との調整がついていない場合はたしかにとても難しいのですが)。

全校集会のあとは、各教室で担任教師が対応します。もちろん、校長が話した以上のことは話せませんが、担任は生徒一人ひとりを見ることができます。特に親しかった子や、そうでなくても特に不安定になっている子に対してフォローするのが、担任の役割です。

■一人の子どもが亡くなった意味

一人の子が亡くなったことは、大変大きな意味があります。その子どもへの哀悼の意を示し、ご遺族を全力で支える必要があります。そして、全校生徒を守らなければなりません。

子どもの心への衝撃や傷をゼロにすることはできません。ゼロにしようと思いすぎると、かえって問題が大きくなりかねません。生徒、教師、保護者、地域、みんなの力で乗り越えようとする姿勢が求められます。

一人の生徒が亡くなって、みんながショックを受けている中で、すばらしい葬儀が行われることもあります。わずか一日で先生達が機敏に動き、子どもの思い出の品が集められ、葬儀会場に飾られることもあります。霊柩車が学校の前を通り、生徒達の合唱で見送られるようなケースもあります。

ご遺族も学校の対応に感謝し、生徒達もとても悲しく、亡くなった子のことは決して忘れないけれど、みんなで一緒に乗り越えていこうと感しています。

起きてしまった出来事自体は、もうどうしようもありません。けれども、その出来事にどう対応するのか。学校と、大人たちの危機対応の形が問われています。

 <中学生の自殺を防ぐために

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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