神戸5人殺傷事件から考える親殺し、無差別大量殺人の心理学

(写真はイメージ)(写真:アフロ)

かつての優等生。今は無職で社会とのつながりのない男性が・・・

■神戸5人殺傷事件

「容疑者は自宅などで祖父の南部達夫さん(83)と祖母の観雪(みゆき)さん(83)、母親(52)らを襲った後、約250メートル離れた神社で、包丁や金属バットを持った状態で身柄を確保された」(「血のついた男が通り過ぎた」 神戸5人殺傷 静かな集落、惨劇の舞台に

産経新聞7/16)。

「生活に困った様子も、家族でトラブルになっている様子もなかった。なぜこんなことになったのか」「勉強ができて、他のクラスでも一目置かれるような優等生。問題行動やトラブルもなく、卒業後は理系の名門で知られる県立高校に進学したと思う。あの子がまさか…」(容疑者同級生、絶句 神戸5人殺傷 「クラスで一目置かれる優等生。まさか…」産経新聞7/16)。

「誰でもいいから刺そうと思った」逮捕の孫が供述 高齢夫婦ら3人死亡事件 神戸市(産経新聞7/16(日) )。

祖父殺害容疑で孫を再逮捕 神戸・北区5人殺傷(神戸新聞7/17)。

逮捕された容疑者の男は、26歳無職。報道によると、家族ぐるみの付き合いが普通の地域にあって、近所の人はこの男性(孫)がこの家にいたことを知らなかったと語っている。

■農村部での殺人

殺人事件の件数は、もちろん都会の方が多いのですが、殺人の発生率は農村部の方が高くなっています。濃厚な人間関係が、良い人間関係も悪い人間関係も作り出すのでしょう。

■家族殺人、両親祖父母殺人

日本では、殺人事件の半分以上が家族間の殺人です。強盗殺人のような乱暴な事件が少ない治安の良い日本とも言えますし、日本の場合は家族の結びつきが強く、良い関係も悪い関係も生まれるとも言えるでしょう。

子ども若者が親を殺しても、あまり得することはないはずです。悪い子どもなら、親のスネをかじり続けようと思うでしょう。第三世界の国々では、家族が協力しないと生きて行きませんから、親殺しはあまりありません。

親殺しは、先進国の中流以上の家庭で起きやすくなります。子どもをひどく虐待しているような暴君としての親を殺す場合もありますが、教育熱心な親が殺されることもあります。

本来なら自分を支えてくれるはずの家族が、逆に自分を押しつぶす存在と感じ、しかも普通の反抗や家出などでは両親祖父母をはね除けられないと感じた時に殺意がわきます。

祖父母の力が強く、親殺しと同じ思いで祖父母に殺意がわくこともあります。あるいは、優しい祖父母でも、親の味方と感じると親も祖父母も殺そうと思うこともあります。

■無差別大量殺人

今回は親や祖父母への恨みではなく、「誰でも良かった」と供述していると報道されています。

一般に、「誰でもいいから殺したかった」と語る大量殺人者は、孤独と絶望感に押しつぶされた犯罪者であることが多いでしょう。彼らは、逮捕されることや死刑にされることも、犯行時には恐れていないこともあります。自分の人生も終わりにしたいが、こんな世界も終わりにしたいと思ったりもします。あるいは、自分をバカにしてきた世の中への最後の復讐であり、自分の力を見せつけたいと考える者もいます。

誰でも良いからことしたかったと感じて、一番身近にいて殺しやすかった母親を殺害した少年もいました。ただし、この少年は母親一人を殺害しています。

犯人の中には、一人を殺害し大量の血を見たことで興奮し、さらに無差別な殺人へと向かう者もいます。これを、血の酩酊と言います。

無差別大量殺人は、無差別とは言え、女性や高齢者がターゲットにされやすくなります。素早く逃げられたり、反撃の可能性が高い人を避ける気持ちは、あるようです。

■優等生いきなり型(挫折型)犯罪

昔から小さな犯罪を重ねてきて、とうとう大きな犯罪を犯す人がいます。一方、優等生で非行歴もないような人がいきなり大きな犯罪を起こすこともあります。大きく報道される猟奇事件などは、むしろこちらの方が多いでしょう。

優等生の中には、不平不満を我慢し続け、どこかで爆発する人もいます。

また、人生のあるところまでは優等生だったのに、大きく挫折して立ち直れない人もいます。彼らは、「こんなはずではなかった」という思いを持ち、社会を強く恨むことがあります。

■無職青年、引きこもり犯罪

無職青年が起こす様々な犯罪は、社会問題の一つです。さらに、引きこもり状態の人が大きな犯罪を起こしてきたことも、これまで報道されてきました。

決して、引きこもり状態の人がみんな危険なわけではありません。ただ引きこもり状態が続く中で、精神のバランスを崩し、現実感覚を失っていくケースはあるでしょう。

■犯罪防止のために

このような犯罪者は、自分の利益を考える一般の犯罪者とは動機が異なります。自暴自棄になってしまえば、厳しい刑罰の存在も犯行のブレーキにはなりにくいでしょう。彼らが抱えている孤独と絶望感の癒しが、犯行防止には必要です。

学校にも職場にも所属せず、社会とのつながりがない状態は、苦しいことでしょう。親も、小さな子どもの不登校などは周囲に言えても、大人の引きこもりになるとなかなか相談などできません。いつかは立ち直ると期待しつつ、時間ばかりが過ぎて行きます。

孤独と絶望を癒し、本人に絆と希望を取り戻すためには、その家族の支援が欠かせません。防犯のためにも、困っている家族を社会が支援して行かなければなりません。

行政も、民間団体も、大人になった子ども孫の問題で悩んでいる家族の相談にのっています。まず、家族が誰かとつながる必要があるのではないでしょうか。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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