ロシア、エホバの証人の活動禁止:信教の自由とカルト宗教

(写真はイメージ:ロシア モスクワ クレムリンと赤の広場)(写真:アフロ)

カルト宗教の被害は防ぐべき。しかし信教の自由は守られるべき。そして、社会には様々な心理戦が。

■ロシア、エホバの証人の活動禁止

ロシアが、宗教団体「エホバの証人」の活動を禁止しようとしています。

ロシア最高裁判所は20日、キリスト教団体「エホバの証人(Jehovah's Witnesses)」の活動を禁止し、資産を押収する判決を下した。法務省は同団体を「過激派組織」とし、解散させるよう求めていた。

出典:ロシア、エホバの証人の活動禁止 「過激派組織」と政府:AFP=時事 4/21

この判決に対してエホバの証人は、次のようにコメントしてます。

「わたしたちは今回の進展を本当に残念に思っています。また、この判決がわたしたちの宗教活動にどんな影響を及ぼすのかを心配しています。今回の判決に対して不服申し立てをします。そして、できるだけ早く、平和な宗教グループとしてのわたしたちの法的権利と法的な保護が完全に回復されるとを願っています」(エホバの証人公式サイトより)。

■ネット上の反応

この報道を受けて、ネット上には様々な意見が出ています。

一つは、簡単に言えば賛成の声。冗談半分の意見もありますが、「エホバの証人など禁止してしまえ」という意見です。エホバの証人は、おかしな団体だ、迷惑をこうむっている、エホバの証人にはひどい目にあった。そのような声が、一般の人や元信者などから聞こえます。日本でも禁止しろ、他の問題のある宗教団体も活動禁止だといった意見もあります。

もう一つは、エホバの証人を擁護する声です。エホバの証人はそんなに悪い団体ではない。エホバの証人の信者は良い人だといった意見です。

エホバの証人は、多くの問題が指摘されている団体です。もっとも有名なのが輸血禁止問題でしょう。輸血をしなければ亡くなる、輸血をすれば助かる、そのような場面でも輸血を受けない信者たちがいます。特に患者が子どもの場合には問題が複雑で、社会的な議論になるとともにドラマ化もされています。

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この輸血問題以外にも多くの問題が指摘され、被害者団体もできています。夫として、子として、悩みを抱えている人もいます。エホバの証人は、伝統的なキリスト教から見れば「異端」です。また社会的にも、エホバの証人によるマインドコントロールが指摘され、「破壊的カルト」の一つと言われることもあります。

ちなみに、エホバの証人は輸血禁止は旧約聖書に書いてある神の命令と教えています。しかし、旧約聖書を読む人々、キリスト教のカトリック、プトテスタント、ユダヤ教、イスラム教の人々、その中でも特に厳密に聖書の教えを守る人々でさえも、輸血禁止と教える団体はありません。

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その一方、一般に新興宗教の末端信者たちは真面目で一生懸命です。それは、エホバの証人にも当てはまるでしょう。エホバの証人は、霊感商法で数百万円の壺を売るようなこともしていません。多くの問題が指摘されているとはいえ、日本では「過激派」と呼ばれることもないでしょう。

■信教の自由

宗教の名を借りれば何をしても良いわけではありません。宗教団体の中には、教祖(神)の指示なら、詐欺行為も殺人さえも悪くないと思っていた団体もありました。真面目で一生懸命だからこそ、教祖の言葉に盲従してしまうこともあります。宗教の名を借りたテロ集団になってしまうこともあります。

そこまで行かなくても、いくら宗教の教えだからといって現代社会においては詐欺や児童虐待となるような違法行為は許されません。

信じる宗教を布教する自由もありますが、破壊的カルトと呼ばれる団体が行うマインドコントロールによる布教手法も、道義的に許されないものでしょう。

しかし同時に、信教の自由は守られるべきです。問題のある宗教団体だから禁止しても良いわけではありません。政府が道を謝り始めた時、まず取り締まりやすいところから始めるのは、過去の歴史でもよく見られたことです。

新興宗教の弾圧から始まり、他の宗教を弾圧し、すべての人々の活動を弾圧します。性的表現の取り締まりから始まり、ユニークな表現者を制限し、そして全ての表現を支配します。

今回の報道は、エホバの証人だけの問題ではないでしょう。

■弾圧の影響

一部団体への不当な弾圧は、他の分野にも広がる危険性があります。さらに、弾圧がかえって活動を活性化させる危険性もあります。だから、殉教者を出さず、思想を捨てさせる「転向者」を出せることもよくあるほどです。

殉教者が出ると活動は勢いづきます。また活動グループによっては、学校や行政、政治家を挑発し、あえて問題発言をさせ、「人権侵害!」「宗教弾圧!」とその発言の事実を使って相手を攻撃することもあるでしょう。

カルト宗教の被害は防ぎたいと思います。同時に、信教の自由、基本的人権は守られるべきです。そして、多くの思惑を持った人々が心理戦を仕掛けています。私たちは、学び、対抗しなくてはなりません。

 <カルト化とマインドコントロールの危険性

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■「エホバ」とは(補足豆知識)

旧約聖書では、神をあらわす文字「YHWH」(ヘブル語の神聖四文字)が登場します。ところが、ユダヤ人たちは神の名をみだりに口にしてはいけないと考え、「アドナイ」(「我が主よ」の意)と呼ぶようになります。あまりに長くそう呼んでいたので、歴史の中で正しい読み方が忘れ去れれました。

学者たちは神聖四文字とアドナイを合成してエホバ(Jehovah)という呼び方を作ります。のちに、これが正しい読み方と誤解され、エホバという言葉が広がりました。キリスト教の古い翻訳や聖歌には、「エホバ」の記述が使われています。

エホバの証人は神の名はエホバだと主張しますが、現代では「エホバ」は神聖四文字の誤読とわかっています。おそらく、「ヤハウェ」「ヤハヴェ」ではないかと学問的には推測されています。ユダヤ教キリスト教ともに、日常的には「主」という言葉が使われています。

■「異端」とは

異端とは、「正統」に対する言葉です。伝統的な正統が善で異端が悪という意味ではありません。異端か正当かは、その宗教外の人にとってはあまり意味がないでしょう。正統的なキリスト教が歴史の中で行ってきた誤りも数多くあります。ただ、その団体が一般のキリスト教からは異端とみなされており、通常のキリスト教とは異なる教えを持つ団体だという知識は必要だと思います。

エホバの証人による布教においても、「聖書に興味はありませんか」と問われ、普通のキリスト教だと誤解してエホバの証人の勉強会に参加する人は多くいるでしょう。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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