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内側から見た新潟避難児童「菌」いじめ :全ては子どもたちのために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

大バッシングを受けた担任と学校。しかし、地元関係者は何を感じたのか。子どものために必要なことは何なのか。

■原発事故避難者への菌いじめ

福島県からの自主避難者の児童を、他の児童や担任教師が「菌」呼ばわりをしていじめたとされる事件。被害児童は先月から不登校状態が続いています。

横浜でのいじめ事件が報道された直後でもあり、連日テレビのワイドショーが取り上げ、ネットは炎上し、文科省の副大臣まで新潟にやってきました。

それでも、学校の周りに押しかけていたマスコミもようやくいなくなり、現場も落ち着きを取り戻しつつあります。

この出来事は、いった何だったのか。現場では何が起こったのか。今回、保護者やメディア関係者など複数の人から話を聞くことができました。

■クラスと先生

当人の心や体が傷つけば、いじめです。「悪意はなかった」は、言い訳になりません。人のことを「菌」などと呼んではいけません。いじめは、客観的には小さなことですら、被害者側の心は深く傷つきます。今回の4年生の子も深く傷つきました。先生から言われればなおさらです。

ただ、少なくとも今回のクラスが学級崩壊のようなひどい状態だったわけではないようです。担任の先生も、これはマスコミ報道でも流れていますが、子どもたちの評判はむしろ良い先生ででした。この先生に親身になって相談に乗ってもらって、感謝している親もいたようです。ただやはり、やや「軽い」先生ではあったと話す人もいます。

人を「菌」と呼ぶことは悪いことですが、子どもたちはしばしば悪いことをするものす。このクラスでも、子ども同士がふざけて相手を「○○菌」と呼ぶようなことはあったようです。しかしそれは冷たいののしり合いというよりは、遊び、冗談であり、ふざけっこだったようです。

マスコミ報道を通してこのような話を聞くと、無理解やら隠蔽やらといった印象を持ちますが、直接話をうかがうと、本当に楽しくふざけあったいたのではないかとの印象を持ちます。「クラス全体は決して悪い雰囲気ではなかった」という話も聞きました。

もちろん、ふざけっこがいじめにつながることはあります。仮にある子どもたちが、ふざけあって楽しんでいたとしても、傷つく子がいれば当然やめるべきではあります。

■先生は「菌」と呼んだのか

これはやはりはっきりしません。子どもたちがふざけながら互いに○○菌と呼んでいたことはあり、先生もそれに乗ってしまったかもしれません。

客観的事実はどうだったのかはわかりませんが、学校の説明を直接聞いた人も、誤魔化そうとしているような印象を持った人は、少なからずいたようです。

「ぼくは先生から菌と言われて傷ついた」と子どもが語っていることは事実です。

今回の件は、保護者と担任との電話の中でこの話題が出ていますが、本来ならば校長も交えてすぐに直接対面して話し合うべきだったでしょう。事実の解明とは別に、いくつものすれ違いが問題を大きくしたように思えます。

いじめ対応は、スピード感を持った迅速な対応が必要です。

■福島原発事故が原因だったか

複数の方からお話を聞きましたが、話の内容はここでは差し控えます。菌と呼ぶことも、福島原発事故にからむことであれば普通の菌呼ばわり以上に許されないことですが、事実関係はよくわかりませんでした。

ただ一般論としては、5年の歳月は子どもにとってはとても長い期間です。小学校でも中学校でも、入学前にどこからか引っ越してきても、それを子どもが意識することは少ないでしょう。

しかし大人にとっての5年前は、ついこの間です。しかも5年の間、福島県の復興は遅々として進まず、多くの偏見差別に苦しんできました。

(追記12.13.16:45:5年間ずっと覚えてはいなくても、新たないじめのネタとしてとりあげることはあります。「「福島さん」といじめられ… 原発避難生徒におごり要求」:昨年夏ごろから一部の生徒に「避難者」と呼ばれるようになり~:朝日新聞デジタル 12/13

■緊急集会

いじめ報道を受けて、全校緊急保護者会が開かれました。この集会では、学校が突き上げられるような雰囲気にはならなかったと聞きました。ただもちろん、事情説明、経過報告は強く求められたようです。

■マスコミ報道

マスコミの人たちを「マスゴミ」などと呼んで揶揄する人たちがいますけれども、私は賛成できません。多くのマスコミの人たちは、犯罪やいじめが減ることを願い、被害者保護を考えています。ただそれでも、視聴率や売り上げを考えることもまた当然でしょう。

特に地方で事件が発生した時には、地元メディアと中央メディアの温度差を感じることはあります。

今回、学校の子どもたちも取材を受けました。保護者の感覚的には、「子どもたちみんなが取材を受けた」と感じるほどです。テレビにも、顔は隠してですが子どもが登場しました。お便り帳に書かれた担任教師の文章も映像で流れました。

子どもたちの中には、家の連絡先を聞かれた子どもたちもいたそうです。子どもから聞いた電話番号を使って、自宅に取材陣から電話がかかってきたケースもありました。おかげで親に叱られた子どもたちもいたそうです。

大人なら簡単に自宅の連絡先など教えませんが、子どもがマスコミに質問されたら、話してしまうのでしょう。

一部マスコミとはいえ、大人であるマスコミスタッフが、子どもが叱られるようなことをしてどうするのでしょう。マスメディアは、子どもが傷つけられたことを怒り、子どもを守るために取材に来たのではないのでしょうか。

マスコミ報道では(NHKでも)、緊急保護者会に出席した人の話として、「学校の対応には納得はしていない」といった発言が報道されています。このような発言を聞くと、集会は紛糾したようにも感じますが、そんな感じではなかったと話す保護者もいます。

今回の出来事に関して中央キー局の情報番組やワイドショーから流されるコメントとしては、「担任教師は人として許せない」といった断罪調の論評が多くを占めたように思えます。いえ、もっと言えば、それ以外のコメントなど許されなかったようにも感じます。ネット上の多くの場所も同様です。

しかし、学校の保護者らみんなが学校や担任を全否定したわけではありません。

また新潟ローカルの報道では、私も一部ローカルラジオ、テレビに出演しましたが、番組の雰囲気は少し違いました。もちろん、いじめは許されませんし、教師の対応の不十分さも指摘しますが、頭ごなしの全否定ではありませんでした。

全国放送では、地元での印象以上に、しばしばわかりやすい典型例や、極端な例が放送されるように思えます。たとえば、悪い人は徹底的に悪く、かわいそうな人はとてもかわいそうな人のように。

新潟県中越地震のときには、避難所で最も余震におびえてふるえている人を取材するために、中央からのマスコミスタッフが行列を作っていました。

■学校(校長)の態度

今回のいじめ被害者の保護者も、校長や学校に対する信頼は失っていないように思えます。校長先生の態度も、私は立派に見えます。

保護者の中には、世間に流れている論調に対して反論したいと感じた人もいたようです。しかし校長は、マスコミで流れている通り、言い訳じみたことはほとんど言いませんでした。

組織にトラブルが起きたとき、トップが下手に言い逃れをしようとして、さらに問題が大きくなることもあります。また、マスコミ対応になれていない校長先生がマスコミや世間や、時にはPTAからも大バッシングを受けて、心身ともにふらふらになってしまうこともあります。こうなってしまえば、校長としての責務が果たせません。

今回の校長は、いろいろ細かい問題はあるものの、本人が傷つき学校へ来られなくなっていることに対して全面的に謝罪し、何とか再登校できるように頑張っているように感じました。

PTAも、校長に言うべきことは言うとしても、基本は校長を支えていたように感じました。それは、ドラマにあるような校長とPTA会長が結託して隠蔽や保身に走るようなものでは全くありません。子ども達を守るためです。

保護者も、子ども達をまもるために、必死になって教職員と共に努力していました。

■「マスコミは怖い」

ある保護者が言っていました。「今回、マスコミや世間の怖さを心底知った」と。ひとたび、ある方向に意見が流れてしまえば、とどまることを知りません。報道は加熱し、世間の声は大きくなります。当事者、現場の関係者(保護者等)としては、言いたいこともたくさんあるにに、反論する場はないと語っていました。

うかつなことを言えば、その人が激しいバッシングを受け、学校や地元にさらに迷惑をかけることもあるでしょう。

いじめは、もちろんダメです。いじめは、人権問題としては100パーセントいじめ加害者が悪いことです。その土台に立つことは、とても重要です。

けれどもそのために、みんながいじめ加害者や学校、教育委員会等を全面的に批判している時に、うっかり違う方向のことを言うと、「お前はいじめを認めるのか!」と激しく非難攻撃されることもあります(私もかつて経験しいました)。

担任は、今授業をしていません。けれども保護者の中には、先生には戻ってきてもらいたいと考えている人たちもいます。この保護者も、決して一方的な担任支持者ではなく、不登校児童のことを心配しつつのことです。

■油断と緊張感と想像力

原発を抱える新潟県は、隣県福島から多くの避難者を受け入れてきました。当時の新潟県知事は、東日本大震災の直後に「何人でも受け入れる」と発表しました。新潟中の体育館が避難者であふれましたが、誰も文句を言いませんでした。

私が福島を訪問したときも、「新潟のみなさんには本当にお世話になっています」とお礼を言われてしまい、恐縮したほどです。

当初から教育委員会も先生たちも、懸命に避難児童生徒たちを支援してきた姿を私は見てきました。着の身着のままで避難してきた子どもたちのために、体操服や文房具を手配するために奔走した先生たちもいました。

福島からは、避難児童生徒を支援するための先生も来ています。避難者のいる学校を巡回して、子ども達を支援しています。毎年度始めの新潟市スクールカウンセラー会議では、福島県からの避難者に対する支援が強調されてきました。

しかし、東日本大震災から5年がたち、油断はなかったかと思います。今回のできごとも、横浜でのいじめ問題があり、福島県での大きな地震があった日の出来事でした。福島県からの避難者であり、父親は福島県にいることを考えれば、やさしいいたわりの言葉があってもよかったと思います。

否定的な意味での特別視はいけません。けれども5年半たってすっかりなじんでいるとはいえ、もっと緊張感を持って、避難者のみなさんが悩み心配していることに対する想像力は持つべきだったと思います。

■学校の今とこれから:子ども達のために

今回の出来事が起きた新潟市内の小学校は、マスコミ報道では学校名は出ていません。しかし、ネット上では学校名も担任の名前もさらされています。

ある組織が、加害者を出したり、否定的な報道がなされると、全国からクレームの電話が押し寄せ、スタッフは電話対応に忙殺されることはよくあることです。

ネットではなくても、近隣の人間は当然学校名を知ります。マスコミが押しかけてくれば、いつもは元気な学校も、いつもは静かな町も、異様な雰囲気に飲み込まれます。学校全体が傷つく、「スクールトラウマ」を背負うことにもなります。

今、一番願うことは、「菌」と呼ばれ学校に来られなくくなっている子どもの再登校とご家族の幸せです。それは、教職員全体の願いですし、保護者みんなの思いです。それは、マスコミのみなさんも、全国のみなさんも、共感してもらえるでしょうか。

ただ、これほど大きな騒ぎになってしまったことは、果たして子どものためになったのだろうかという疑問はぬぐえません。もっと他の方法があったのではないかと考えざるをえません。

それでも、教職員と保護者と地域のみなさんは、前に進み始めています。学校の子ども達が一人残らず元気になっていくことが、スクールトラウマの癒しにもなります。

今回、いじめ問題の大報道がありました。納得できないと感じる地元の人もいます。けれども、この騒動の中で、着実な歩みも生まれています。ある子どもは、「わたしも友達に言われていやなことがある」と親に話してくれたそうです。

新潟市教委では、この件の解明のために第三者委員会設置の検討を始めました。また、いじめ対策の研修会を全小中学校に対して始めています。

被害者保護は第一です。事実解明も大切です。しかし誰かを責めて終わりではなく、形だけの対策ポーズでもなく、子ども達のための活動が始まっています。

みんなの力で、子ども達のための学校を作っていきたいと思います。

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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