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『ようこそ、わが家へ』嵐・相葉雅紀さん主演フジテレビ系月9ドラマから学ぶいじめ、ネットの心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)

フジテレビ『ようこそ、わが家へ』(原作:池井戸潤・主演:嵐・相葉雅紀)

(ネタバレあり。最終回をこれから見る人は、見終わってからどうぞ。)

<ようこそ、わが家へ>最終回視聴率15.0%で有終の美 嵐・相葉主演の月9(まんたんウェブ 6月16日)。評判の良いドラマで、視聴率的にも検討しました。みなさん、名演でした。

■「『名無し』でなきゃ何もできないあなたに、僕は絶対負けませんから」

最終回(6/15)のこの主人公(相葉雅紀)のセリフ、ドラマからのメッセージは、近年のストーカー問題いじめ問題、ネット問題などに対する一つの宣言なのでしょう。

最終回で、最初に主人公の家にいやがらせをした男をついに追い詰めます。男は、最初は身に覚えがないとしらをきり、証拠を出されればもみ消そうとし、今度は低姿勢で謝ろうとし(本当は反省していないが)、最後は暴力を振るおうとします。そのこっけいなほどの変わり身の早さはドラマなのでしょうが、実際にもあることでしょう。

まじめな人は、一生懸命時間や労力をかけ誠実に対応します。ところが相手は、平気で前言をひるがえし、客観的証拠を無視し、時に弱さを強調し、時に虚勢をはります。一つ一つに振り回されていたら大変です。

人は、自分の名前や顔がわからない匿名状態になると、ルールをやぶりやすくなったり、乱暴なことをしやすくなることは、社会心理学の様々な研究からも示されています。

顔と名前を隠し、あるいは自分は安全な場所にいて、いやがらせや、いじわるをする人々がいます。ネットは、匿名になって何かを攻撃するのには、とても便利な道具です。そうして「悪貨が良貨を駆逐する」ということが起きると、以前はすばらしかったネットコミュニケーションの場が、荒れ果てたりもするのでしょう。

けれども、「『名無し』でなきゃ何もできないあなたに、僕は絶対負けませんから」と私たちが宣言することが、いじめ問題やネット問題解決のために必要なのだと思います。

■ひとつのきっかけが次々と嫌がらせを生む

最終回で逮捕された男は、電車に乗るときにトラブルになった男性でした。この男が、最初のいやがらせ加害者でした。ところが、それをきっかけに主人公の家は、つぎつぎと何人もの人からいやがらせを受けます。

主人公の家族は、みんな良い人で、本来は恨まれるような人たちではありません。けれど、善良でまじめで幸せな人が攻撃を受けるのは、世間でも、学校のいじめでも起きるでしょう。

ただ、気に食わないと思っていても、そう簡単には乱暴なことはできません。ところが、誰かが最初に行います。その犯人は捕まることもありません。そうなると、そうしたいと思っていた「予備軍」の人たちの心が刺激されます。模倣犯が生まれるわけですが、心理学的には観察学習(モデリング)ともいえるでしょう。

「お説教よりも見本を見せる方が効果的」(子どもや部下を教育する「言葉」よりも効果的な方法:モデリングの心理学:Yahoo!ニュース個人有料)なのですが、良い教育だけでなく、悪い犯罪のお手本が現れてしまうこともあります。

クラスの中で、誰かが誰かをいじめる。先生にも叱られず、みんなが見ぬふりをする。その状況が、次のいじめっ子を登場させます。

■犯罪被害者の心の傷

せっかく逮捕された電車の男ですが、ドラマでは、在宅起訴で罰金程度と説明されます。その程度の罪ということです(報道されたりしたら社会的生命は失うかもしれませんが)。刑法的にはそれほど大きくない行為でも、いやがらせ、いじめなどは、被害者に大きな心の傷を作ります。

花壇の花をむしりとられるのは、被害額としては小額でも、心の傷はとても深いでしょう。

■犯罪加害者にも心の傷が

最終回で逮捕された男は、もともと優秀な人なのですが、仕事がうまくいかず、しかも主人公とのトラブルのなかで、密かに思いを寄せていた女性の目の前で恥をかかせられます。その結果、「プライドが傷つき」、いやがらせ犯罪に至ったと、ドラマの中では説明されていました。

もちろん、犯罪行為は悪いことで、安易に同情すべきではありません。けれども、多くの犯罪者たちは犯行以前に傷ついています。犯罪者たちは、見かけは乱暴で怖そうな人でも、多くは自尊心(自尊感情:セルフ・エスティーム)の低い人たちです。

■誰もが「卑怯な名無しさん」に

主人公らは、嫌がらせをする人を「名無しさん」と呼んで、何とか正体を突き止めようとしていました。その主人公をいつも助けてくれた頼りになる女性(沢尻エリカ)がいました。最終回のどんでん返しの一つが、逮捕された電車の男の自転車を、この女性が傷つけていたことです。

あまりの悲しみ、怒り、責任感からの行動でした。

正義の味方の善人も含めて、人は誰もが「卑怯者の名無しさん」になるうるとした話は、犯罪心理学的にも納得です。悪人だけが加害者ではありません。

ネット問題も、いじめ問題も、自分は絶対の善で正義の味方だと思い込むと、問題は解決しにくくなるでしょう。私たちは、みな同じ心の弱さを持っています。それを行動に移すか移さないかです。

■更生と救い

主人公は、この女性に警察に行くことを勧めます。彼女は、警察でこっぴどく叱られるのですが、心から反省し、そしてさわやかな気持ちで再起をはかります。これが、更生であり救いです。

悪いことをした人を何とか守ろうとして、罪をごまかそうとする人もいます。犯罪行為でも、学校内のトラブルでも起きます。せっかく先生たちが本人に謝罪させようとしても、子どもを守ろうとして、謝罪を邪魔する親もいます。けれども、これが本当に子を守ることではありません。

もちろんケース・バイ・ケースですが、罰を受けさせる、謝罪させるということが、本人を本当の意味で守ることになるでしょう。でも、ドラマの女性もそうですが、反省し罰を受けて立ち直るためには、理解者の存在が必要です。罰だけでは人はなかなか更生できません。

まじめで善良な人々は勝つ。まじめで善良な人々が、他の人々を救う。そんなドラマでした。現実でもそうなるように、私たちもそれぞれができることをしていきたいと思います。

(一部誤字を訂正。6.16.14:40)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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