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「モデルにならないか」と声かけ性的暴行か:「合意」と思い込む性犯罪者の心理と被害者保護

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)

■「モデルにならないか」と声かけ性的暴行?

「モデルにならないか」と声をかけて知り合った19歳の女性を、食事に誘って自宅に連れ込み、性的暴行を加えたとして、自称・モデル事務所社長の男が逮捕された。〜

~容疑者は調べに対し、「合意のうえだと思った」と供述しているという。

出典:「モデルにならないか」と声かけ性的暴行か 日本テレビ系(NNN) 6月12日

強姦の容疑で逮捕されたこの男性は、モデルを口実に女性に近づき、仕事の話として自宅に連れ込み性的暴行に及んだと疑われています。報道によれば、「合意のうえだと思った」と供述しています。

■合意と思い込む性犯罪者たち

恋愛は自由です。また18歳以上の人と合意の上で性行為に及ぶのも、法的には問題なしです。しかし、合意がない相手に暴行や脅迫を用いて性交に及べば、強姦です。

本当に女性が合意していなければダメです。男性が合意だと思い込んでもダメです。しかし、誤解する加害者がたくさんいます。

たとえば、自宅に女性が来れば合意だと思い込む人もいます。ホテルや、自宅のベッドルームに入れば合意だと思い込む人もいます。実際はことば巧みに騙して連れてきても、合意だと思い込む男性がいます。

あるいは、恋人同士で、たしかに合意の上で二人でデートし、そして部屋に入ったとしても、その後で女性が拒否すれば、それも合意ではありません。このような行為は、「デートレイプ」として社会問題になっています。

女性の「ノー」は「イエス」だと誤解している人もいます。

もっとひどい例では、女性に暴力をふるい、殴られた女性が反抗する気力を失い、うなづいてしまえば、それで合意だと本気で思い込んでいた加害者もいました。「女子高生コンクリートづめ殺人事件」として有名な、女性誘拐監禁暴行殺人事件の犯人の一人は、そう思っていました。彼の最初の性体験は、強姦でした。

裁判での単なる言い訳もありますが、自分でもそう思い込む人もいます。性犯罪に対する刑罰が軽すぎると主張するひともいますが、本人が強姦ではなく合意だと思い込んでいるような人には、厳罰化の効果も少ないでしょう。

■なぜ合意と思い込むのか

人の判断は、基本的に自分に都合の良い方向に偏りやすいものです。心の中で自分で言い訳や口実を考えて、自分の行動を正当化します。ボクシングの国際試合を見れば、自国の選手が優勢だと感じます。多くの人は、自分がひいき目に見ている自覚はありません。客観的に見て正しい判断をしていると、それぞれの国民が思います。

イソップ話にもあります。一生懸命頑張って取れなかったブドウをあきらめて去っていくキツネは、捨てゼリフを残します。「どうせ、すっぱいブドウだったのさ」。ブドウを取れなかった(取らなかった)行動を、正しい行動と思い込もうとしています。自分が入学した学校を良い学校と思おうとしたり、失恋した相手を「あんな人とは別れてよかった」と思うのも同様です。

そのような傾向が男女関係にも歪んだ形で現れれば、強姦でも「合意」と思い込むわけです。その背景には、女性蔑視の思いと、女性の物化があるでしょう。自分に都合よく女性を利用してしまう思いです。

ある程度まで女性に近づけは、女性は合意するものだと自分勝手に思い込む人もいます。「お前が付いてくるのが悪いのだ」「後になって文句を言うな」「お前だって〜」と相手を責め、自分を納得させようとする人もいます。そして、悪い行為を繰り返します。自分が相手をだましたり、脅したり、心理的暴力をふるっていとわかりません。

女性には乱暴な態度や無理強いをしても悪くない、それが男らしさだなどと誤解していると、合意と思い込んだ強姦が行われてしまいます。

■被害者女性保護

暗闇で突然男性に襲われて被害を受ける場合ですら、自分を責める被害者女性がいます。被害者女性を、心ない人が責めます。被害者女性を思う同性からの「なぜ、そんな道を通ったの」といった言葉にも、激しく傷つきます。

ましてや、加害者が合意を主張しているような場合は、被害者女性が自分を責め、世間もその女性を責めることがしばしば見られます。もっと抵抗すればよかった、はっきり「いやだ」と言えばよかったと自分を責める人がいます。ある被害者は、別の強姦殺人被害者と自分を比較して、自分も死んでも抵抗すべきだったと感じていました。

「デートレイプ」などは、さらに複雑な被害者心理があるあでしょう。けれども、相手が誰であれ、どんな関係であれ、同意がない性的行動は犯罪です。

女性の「ノー」は「ノー」だと思いましょう。「ノー」という言う、拒否の意思表示ができないような状況を作り上げてしまうのも、合意にはなりません。

たしかに、女性の側も防犯を考えるること、健康的な男女関係を作る努力をすることは必要です。しかし、性犯罪被害が発生した時に被害者を責めるのは、間違いです。防犯や予防と、被害者の責任を問うのは、別問題です。

性犯罪者への処罰だけではなく、被害者保護と、互いに異性を尊重する教育が大切です。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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