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交通事故・交通犯罪防止の心理学:北海道一家4人死亡事故長男ひき逃げ事件から考える

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:北海道の直線道路)

■北海道家族4人死亡事故長男ひき逃げ事故

6月6日深夜。北海道砂川市。「日本で最も長い直線道路」の交差点で事故は発生しました。家族5人が乗った軽ワゴン車に、信号無視をして交差点に入ったと思われる自動車(BMW)が、時速100キロを越えるスピードで激突したと報道されています。ワゴン車は、60メートル先まで飛ばされ、ワゴン車から16歳の長男が路上に投げ出されます。

事故の直後、もう一台の車(シボレー)が交差点に入り、この長男を1.5キロ引きずり死亡させ、ひき逃げしたとして、ひき逃げ容疑で男性(26)が逮捕されました。報道によれば、運転前に飲酒していたことを供述しています。

ワゴン車に乗っていた家族5人のうち、父(44)と母(44)、高3の長女(17)、ひき逃げされた高1の長男(16)の4人が死亡。もう一人の次女も重傷を負いました。

~約1・5キロ引きずられたために死亡した可能性が高いことが9日、捜査関係者への取材で分かった。

衝突現場付近の防犯カメラの映像などから、乗用車が赤信号を無視して交差点に進入し、軽ワゴン車と衝突。投げ出された昇太さんを乗用車の後ろを走っていたトラックが引きずったとみられる。

出典:16歳長男死亡は引きずられたのが原因か 北海道の家族4人死亡事故:産経新聞6.9

あまりにも無残な事故であり、衝突し、ひき逃げしたとされる2台の車が無謀運転をしていたのではないかと、大きく報道されています。容疑が事実であれば、これはもう、交通事故ではなく、交通犯罪ともいえるでしょう。

■今回の事故のひどさ

■飲酒運転のひどさ

前の晩のアルコールがわずかに残っていた場合などは、違反とはいえ同情できる部分もあるかもしれません。しかし今回は、酒を飲み、その直後に運転したと報道されています。

軽ワゴン車と衝突した乗用車に乗っていた土木作業員の男性(27)ら3人が事故前の6日夜、道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕された古味竜一容疑者(26)と同乗者の計5人で、砂川市の居酒屋で飲食していたことが11日、捜査関係者への取材で分かった。

出典:直前、5人で居酒屋に 衝突車両の男性ら 北海道の4人死亡事故:産経新聞6.11

交通量の少ない地方都市などでは、かつてはそのような人も少なからずいたようです。しかし、飲酒運転の罰則が厳しくなったことと、啓蒙活動によって、全国的に飲酒運転は減っています。

ただし、飲酒運転の数は、この数年下げ止まっています。しかも飲酒運転を繰り返している人々がいます。

飲酒運転の心理学:なぜ繰り返される、どう防止する(小樽ひき逃げ事件から)

■信号無視のひどさ

ワゴン車に激突したとされる車は、かなりの高速で信号無視をして交差点に入ったと報道されています。

信号無視は、いつの場合も危険な違反ですが、人はミスを犯します。ぼんやりして、つい赤信号を見落としての違反はあるでしょう。しかし、一般に、一般道で高速運転している場合には、ぼんやりすることなど考えにくく、信号を見落とすことは少ないでしょう。

報道によると、事故が発生した交差点は、建物があるために見通しの良い交差点ではありませんでした。さらに、この信号は、「感知式」でした。歩行者や自動車が来なければ、信号は変わりません。見通しが良くない交差点ですが、赤信号ということは、必ず人か車が来ているということです。

■スピード違反のひどさ

この映像を事故の鑑定を行う専門機関が分析したところ、2台の車は時速100キロ以上のスピードで走り抜けていた疑いがあることが分かりました。〜「一般道を時速100キロ以上で走行していることに加え、車間距離が25メートルしかないのは、危険極まりなく、事故を起こす可能性が非常に高い」

出典:家族4人死亡 映像の車 時速100キロ超か NHK6.9

交差点手前だけではなく、ワゴン車が跳ね飛ばされた距離から考えて、100キロを越えるスピードで交差点に入ったとも報道されています。

北海道の郊外の道は、広く、まっすぐで、交通量も少なく、特にこの長い直線道路は、実際に走ってみるとまるで滑走路のようで、信号にもめったに出会わないと感じます。とても気持ちよく運転できます。とはいえ、一般道です。制限速度は60キロです。たしかに、法定速度で走っていると、とてもゆっくり走っていると感じます。次々と追い越されます。

理由は何であれ、スピード違反はだめでしょう。ただ、このような道でスピード違反をする人が少なくないのは、事実です。しかし、それでも100キロを越えるのは、ひどいスピード違反です。さらに、信号のない郊外でひどいスピード違反をする人さえ、信号があるような市街地に来れば、普通はスピードを落とすでしょう。

■ひき逃げのひどさ

ひき逃げがひどい犯罪なのは言うまでもまりません。ただ、気づかないことはあるでしょうし、怖くなって逃げてしまう人もいます。

今回はまだ詳細はわかりませんが、報道によれば1.5キロ被害者を引きずっています。さらに飲酒、スピード違反、信号無視と報道されています。これまでのひき逃げ事故でも、飲酒などの違反行為が発覚することを恐れて逃げた加害者がたくさんいます。

容疑者の供述によると、人をひいたことはわからなかったが、事故を起こし、任意保険にも入っていなかったので逃げたと言っています。

振り払うため蛇行か=「保険未加入で逃げた」―一家4人死亡事故・北海道警時事通信 6月10日

■交通事故を起こしやすい人

■運転の自信と事故

交通事故は、運転が下手な人ばかりが起こすわけではありません。交通心理学の研究によれば、むしろ運転に自信のある人が、大きな事故を起こします。一般に無謀運転をするような人は、運転に自信のある人々です。

心理学の研究では、「動作反応が知覚反応よりも早い人は事故を起こしやすい」と実証されています。ハンドルさばきやペダルの踏み方がすばやいと自慢しているような人が、満足な安全確認もしないで運転しているときこそ、最も危険だと言えるでしょう。

F1ドライバーだった中島悟さんは、サーキットより公道の方がずっと危険だと語っています。本当に運転が上手いプロは、慎重な運転をすることでしょう。

■あえて危険なことをするドライバー

事故の中には、うっかりミスもあります。しかし、わざと危険な行為をするドライバーもいます。ただし、彼らもわざと事故を起こそうとはしていません。危険の発見、危険の評価、意志決定がゆがんでしまうのです。その結果、危険な運転をしてしまいます。中には、無謀運転を競いあう人や、危険なドライブテクニックを見せつける人もいます。

■交通事故を起こしやすい人の特徴

研究によれば、次のような特徴を持つ人が、事故を起こしやすい人です。

・拙速:軽はずみで行動を早まる人。

・見込みの甘さ:たぶん大丈夫だろうと、考えてしまう人。危険を感じにくい、あるいは感じつつ実行してしまう人。

・カッとなる:いらいらし、怒りっぽい人。

・自分本位(独りよがり):協調性がなく他人の立場になれない人。

・危険なことをあえて行う性格

・刺激の変化を求める性格

・攻撃的性格

意図的な違反、無謀運転をする人々は、多くの場合、このような特徴をもっています。

■被害者保護のために

今回の事故報道の中で、「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」の代表小沢樹里さんがテレビ出演されていました。

メディアに登場するということは、大変なことです。それでも、今回の被害者とご遺族のため、これからの交通事故交通犯罪防止のために、発言されていると思います。小沢さんは、遺族のための支援を訴えていました。

犯人逮捕と適正な制裁はもちろん必要です。そして何より、被害者保護が大切です。心のケアも大切ですが、心理学的に言っても、事件事故災害など突然の困難に出会われた方に必要なのは、安心安全です。具体的な手助けと支援が必要です。

事故後の生活に追われ、マスコミ、警察、裁判の対応に追われ続けている中では、心の癒しは進みません。

■交通事故・交通犯罪防止のために

まず考えられるのが、重罰化です。重罰化によって減る違反もあります。飲酒運転や違法駐車が減ったのは、罰則強化の影響が大きいでしょう。しかし、それでも悪質な違反は続きます。罰金額が増えても、懲役が長くなっても、そんなことに関心を向けない人々がいます。重さ1トンの鉄の塊を時速100キロで転がす危険性と責任を感じない人々です。

この人々に必要なのは、気の長い話かもしれませんが、幼いころからの教育です。様々な心理学的研究が、教育の大切さを示しています。無謀で、軽はずみで、怒りっぽくて、自己中心的。そんな行動を、子どものころから正していく必要があります。

歩行者として安全に歩く、自転車を安全に運転する。そのような徹底した交通安全教育が、将来の安全運転ドライバーを育てます。

容疑者男性が、どのように育ったどのような人物であるのかは、わかりません。しかしどんな人でも、しっかり愛され、しっかり叱られ、しっかり教育されていたら、意図的にひとい違反を犯したり、乱暴な運転をすることは、ずっと少なくなるでしょう。

安易に加害者に同情することはできませんが、交通事故交通犯罪防止のためには、罰則と共に、教育が必要です。

(2015.6.11.13:30 記事内容を一部改定)

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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