川崎中1殺害事件の犯罪心理学:「チクられた」が動機?:少年達の仲間意識と大人がSOSを受け取る方法

(イメージ写真)

13歳の無抵抗な少年が虐殺された恐ろしい事件です。

この事件は、古典的少年事件と、現代的な問題が絡んだ事件のようだと感じています。

■18歳少年容疑を認める供述

川崎市川崎区の多摩川河川敷で中学1年生の上村(うえむら)遼太さん(13)が遺体でみつかった事件で、~リーダー格の自称無職の少年(18)が容疑を認める供述を始めた~

出典:18歳、中1殺害容疑認める供述「暴行チクられた」 朝日新聞デジタル 3月2日

報道によると、逮捕された18歳の少年は、容疑を認める供述を始めたようです。

18歳の容疑者少年が13歳被害者少年(上村さん)を暴行→被害者少年が友人に話す→友人らが18歳少年宅に押し掛ける→警察も駆けつける→「チクられて(告げ口されて)、頭に来ていた」→17歳無職少年らと3人で被害者を河川敷に呼び出す→18歳少年が殺害実行。

■「チクる」とは

チクるとは、告げ口や密告をすることです。けれども、13歳の上村さんが、18歳にひどい暴力を受けたことを人に言うことは、チクること(告げ口や密告)でしょうか。もしも、私が知人からひどい暴力を受けて、それを友人や警察に話すことは、密告ではないでしょう。

密告、告げ口は、仲間への裏切り行為と見なされますが、今回の場合は本当は違うのに、加害者少年は裏切りと感じて強い怒りを感じました。また恐らく、被害者少年とその周囲も、大人に話すことはチクることになると感じて躊躇した面もあるかもしれません。

■18歳加害者少年と13歳被害者少年との関係

当初は、悪い関係ではなかったとの証言もあります。ゲームやアニメの話題で盛り上がっていたと話す人もいます。ところが、18歳少年が被害者少年に万引きを強要して断られたことから関係が悪化したと言われています。

その後、18歳少年が酒を飲み、13歳少年に暴行を加えるといったことが起きたようです。そして、強い暴行の後、「チクられた」と逆恨みしたことで、13歳少年への怒りが高まりました。

事件直前、13歳少年が17歳少年に「遊びましょう」と17歳少年にLINEでメッセージを送り、そのメッセージを見た18歳少年が「誰からのメッセージだ」と詰め寄り、その後13歳少年を呼び出し、犯行に至ったようです。

■恨みの感情

「川崎・多摩川中1殺害:「生意気だ」殴る蹴る 少年3人逮捕 リーダー格の恨み“引き金”か」という報道もあります(神奈川新聞2/28)。

恨みの感情の中で、常識的に見て理不尽な恨み方が、逆恨みですが、18歳少年は恨みの感情を持ったようです。

心理学的には、「恨み」の感情は本来弱者の感情です。殴られた側が感じる感情です。記事が一つの真理を示しているのならば、逮捕された少年は、圧倒的暴力をふるいながら、心には自信も安心もなかったと考えられます。

逮捕された18歳少年は、仲間だと思っていた13歳少年に裏切られたと感じたのでしょうか。

■逮捕された18歳少年

報道によると、逮捕された18歳少年は、人気者ではなく、尊敬もされていなかったようです。中学時代の友人によれば、普通に話しているときには、普通にやさしい子だけれど、キレると何をするかわからない少年だったと言います。特に近年は、酒を飲むと行動が荒れていたようです。

少年は無職と報道されています。ほとんどの少年が学校へ行ったり、働いている中で、「無職青年」(無職の若い男女)が起こす事件はたびたび報道されています。好き勝手に行きているように見える無職青年たちですが、所属がないことは不安を高めます。

また、この少年もかつていじめられていたという報道もあります。その際、どのようなケアが行われたのかは報道されていません。

そして、キレると何をするか分からないという少年。恐らく、こんな大事件を起こす前に指導のチャンスはあったはずなのですが、チャンスを活かせず殺人が実行されてしまったとするならば、残念でなりません。

暴力と恐怖で周囲を支配しようとしてた少年です。しかし、心の底の不安は強かったのかもしれません。

キレる少年の心理と私達の関わり

■古典的少年グループ

不良傾向のある少年達は、昔から徒党を組みます。今でも、中高生の素行の悪い子たちは、他校の中高生達と集団を作ります(つるみます)。非行少年ではなくても、「少年グループ」に魅力を感じる子どもたちはいます。

家庭や学校で何かが上手くいかない少年にとっては、少年グループは、楽しさ、時間つぶし、そして共感を与えてくれる存在です。

グループの中で、互いに大人社会のグチをこぼし合い、慰め合えるのであれば、良いことでしょう。漫画(映画)の「20世紀少年」や「ドラえもん」に出てくる少年グループのように、大人に内緒でイタズラや冒険をするのは、昔からあることであり、少年達は多くのことを学んできました。

しかし、非行少年グループのリーダーは、ジャイアンのように乱暴だが正義感のある親分タイプではなく、不安を抱えて抑えが利かない非行少年だったりします。新人の幼い少年を関係しつつ、悪いことに誘い込みます。幼い少年にも悪いことをさせることで、自分の側に取り込もうとするのでしょう。

暴走族等も、非行少年グループの一つですが、近年はこのような集団は激減しています。

■犯行は1人で行われたか:現代的問題

まだ事実はわかりません。ただ当初は、3人の少年達による暴行が「集団心理」によってエスカレートし犯行に至ったと思われていましたが、ここまでの報道によると、どうやら直接の実行は単独だったようです。

(補足:その後、17歳少年らの共犯も示唆されており、不明確です。)

もちろん殺人に周囲を巻き込むことはとんでもないことですが、集団の中にあっても、少年は孤独だったのでしょうか。それは、少年達の現代の姿なのかもしれません。

また固定電話の時代とは異なり、ネットで連絡を取り合っていたという現代的な問題もあるでしょう。

■事件は防げなかったか

被害者の13歳少年は、一目で分かる被害を受けていました。友人にもSOSを出していました。しかし、大人たちは有効な対策を取ることができませんでした。

子どもたちに、すべてのことを大人に話せとは言いません。しかし、本当に困ったこと、緊急事態が発生したときには、大人に話してもらわないと困ります。

それは、「チクリ」ではなく、正しい行動だと子どもに教えたいと思います。被害者自身も、その人から話を聞いた子どもたちも、大人に話すことは良いことだと、普段から伝えたいと思います。そう思ってもらうためには、大人が子どもから信頼されている必要があります。

親でも、先生でも、誰にでもいいから、信頼できる人に話せることが必要です。

話を聞いた大人たちは、連携しましょう。そして有効な対策を考えましょう。

私も、10代の少女から相談を受け、本人と友人と共に警察に相談に行ったことがあります。本人はまず友人を頼り、友人が教員に相談に行くことをすすめ、そして教員である私は警察を活用すべきケースだと判断したわけです。事情を聞いた警察は、適切に動いてくれて、問題は解決しました。

問題は、簡単には解決しません。それでも、大人たちが連携すれば解決へ向えると、子どもたちに伝えたいと思います。

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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