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親殺しの心理学:女子高生による母祖母殺害事件「しつけ厳しく逃れたく…」

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
家庭の役割は大きい。だから癒しにも牢獄にもなる

■女子高生による母と祖母殺害事件

北海道南幌町(なんぽろちょう)の事務員女性(47)方で、この女性と母親(71)の遺体が見つかった事件で、道警は1日、高校2年生の三女(17)を殺人容疑で緊急逮捕し、発表した。三女は「私がやった」と容疑を認めているという

出典:生徒会長に就任予定だった17歳 母と祖母殺害容疑 朝日新聞デジタル 10月2日

逮捕された少女は、決して生活が荒れた乱暴な不良少女ではありません。それどころか、生徒会長になるはずの子でした。

しかし、彼女は悩んでいたようです。

殺人容疑で逮捕された女子生徒が「しつけが厳しく、今の状況から逃れたかった」と供述していることが2日、道警栗山署への取材で分かった。

女子生徒は夕方になると走って帰宅する姿が目撃されており、「門限が厳しく、時間を守らないと怒られる」と漏らしていたという。

出典:<北海道祖母と母殺害>高2女子「しつけ厳しく逃れたく…」 毎日新聞 10月2日

児童相談所は、しつけを越えた虐待があったと見ているようです。

■親殺しの心理学

親殺しは、多くの場合、先進国の中流以上の家庭で起きます。親殺しは、しばしば、「良い子」によって行われます。

発展途上国の貧しい家庭では、親がいなければ子どもは困ります。親殺しは起こりにくいのです。また、「悪い子」は親を殺すのではなく、親を利用しようとするでしょう。親に金をせびり、親のすねをかじり続けようとするでしょう。

普通なら、子どもが親を殺しても良いことはないのです。

■親子の関係

子どもは親が大好きです。同時に大嫌いです。親は自分を守り、衣食住やお金を与えてくれる存在です。同時に、うるさくて束縛する存在です。子どもは、「お父さん、お母さん、大好き!」と思ったり、逆に「大嫌い!」と思ったりするものです。

その中で、様々な葛藤が生まれることもあります。子どもは親の愛を猛烈に求め、親の愛を奪い合あって「きょうだいトラブル」が発生することもあります。

親も子どもを強烈に愛し、時に愛が空回りすることがあるほどです。

小さな子どもの周りに両親と祖父母がいて、それぞれが、「もっと食べなさい」「これも食べなさい」「栄養があるからたべなさい」と子どもに食べさせようとします。

ところが、これでは食事がちっとも楽しくありません。食事がプレッシャーになります。これではさらに食欲がなくなるでしょう。

出典:逆効果の心理学:子育てで、社会で:立派なお弁当で小食になる子も!?・「落書き厳禁」は落書きを増やす?:Yahoo!ニュース個人有料「心理学であなたをアシスト」

厳しすぎるしつけは、逆効果となり、時に大人が心のバランスを崩せば、虐待にもなるでしょう。

■心の中の良い親と悪い親

子どもたちは、心の中に「良い親」のイメージと「悪い親」のイメージを持つと言われています。普通は、この2つのイメージが融合します。親が好きと感じたり嫌いと感じたりするのですが、「嫌なときはあるけれど、大好きな親」と子どもが感じられるのが、一般的です。

ところが、この心のバランスが崩れるときがあります。「悪い親」のイメージだけが膨れ上がるのです。

■なぜ殺すのか

親と上手く行かないとき、親が憎いとき、解決策はいろいろあるはずです。普通は、逆らいます。文句を言います。友達同士でグチを言い合います。家を飛び出すこともあるかもしれません。

しかし、ある子どもにとっては、親の存在が大きすぎます。普通の逆らい方では、とても親から解放されないと感じます。まるで、頭の上にある巨大な岩です。

まじめでよい子だからこそ、ほど良い逆らい方ができない場合もあります。

その子どもたちは、親を殺すしか、親から自由になる方法はないと思い込むのです。

今回の事件の詳細は、まだ報道されていませんが、家族内殺人は、強盗殺人とは違います。愛する身近な人間だからこその殺人です。家族は大切な存在だからこそ、大きな癒しにもなり、時に心の牢獄となるのです。どこかで、こんなことを防ぐチャンスはあったとは思うのですが。

■親のしつけ

虐待は、いうまでもなく犯罪です。しつけは、大切ですが、問題は心が届くかということです。

厳しすぎるしつけは、子どもが反発したり、萎縮したりするでしょう。やさしすぎるしつけでは社会性が育ちません。どちらにせよ上手くいかないと、親も子も不安定になり、悪循環が始まります。

「鬼から電話」を使うようなちょっと怖いしつけも、「妖怪ウォッチ」を使うやさしいしつけも、何を使うかではなく、単純に厳しいかやさしいかではなく、バランスの取れた使い方が大切であり、心の絆が土台なのです(「「鬼から電話」の効果と使い方:叱り方の心理学」「妖怪ウォッチ「何でも妖怪のせい」は良いこと?悪いこと?を心理学的に解説」)。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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