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ネット上で、憶測、可能性、一般論を語るなら:岡山小5誘拐監禁事件から考える被害者保護

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■「”少女はなぜ逃げなかったか”に答える」(岡山・倉敷女児誘拐監禁事件)を書いた理由

前の記事「ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事件(倉敷女児誘拐監禁事件)被害者保護のために」は、おかげさまで多くの方々にお読みいたただき、賛同の声もいただいていています。どうもありがとうございました。

当初、この記事を書く予定はなく、誘拐監禁の加害者の心理と、誘拐監禁犯罪防止の記事を書く予定でした。

ろころが、ネット上で多くの発言を見ました。「なぜ逃げなかったのか」「逃げられたはずだ」「女の子はおかしいのか」。

発見時、被害者少女は縛られていたわけではなく、テレビを見ていました。容疑者の男も一緒でしたから、部屋の外から鍵がかかっていたわけではないでしょう。その報道から、ロープで縛られるような拘束はされておらず、比較的自由が与えられていたと思われるのに、なぜ逃げなかったのだろうと疑問を感じたのでしょう。その疑問は理解できます。

今回の事件でも、以前の誘拐監禁事件でも、「なぜ逃げなかったのか」という同様の質問を、マスコミの人からも一般の人からも受けました。だから、「なぜ逃げなかったのか」と疑問に感じるのはわかります。

その度に、「逃げなかった」のではなく「逃げられなかった」のだと、説明しました。今回も、その必要性を感じてページをアップしました。

ネットには、事件発生時から少女を心配する声があふれ、無事保護された後も、少女をいたわる声がいっぱいあります。ネットユーザーの心の暖かさを感じます。

その一方、無理解と誤解による心ない発言が存在しています。それにはぜひ説明が必要だと感じました。

■憶測、可能性、一般論をネット上で語るなら

今回の女児誘拐監禁事件に関しては、まだ情報はごく限られています。私も、基本的には今までの事件から推測される「一般論」を語っています。ただしそれは、私の個人的な感想や憶測ではなく、これまでの事例や犯罪心理学的な研究に基づく発言をしているつもりです。

限られた情報しかなく、推論、可能性などを語っていると言うのは、事件に関する一般の人の発言のほとんどがそうでしょう。

私たちは、感想、個人的意見、推測、憶測、可能性、一般論を、語っている訳です。もちろん、それらを語ることはOKです。個人的なおしゃべりの場で語るのも、ネット上で語るのも、OKです。

しかし同時に、被害者保護を考えなくてはいけないのではないでしょうか。

確証がなければ話してはいけないわけではありません。芸能人のうわさ話なら良いでしょう。政治家の疑惑を追求するなら良いでしょう。でも、未成年の被害者の話題ならどうでしょうか。

ネットで発言するとは、世界に向けて公言することです。居酒屋のおしゃべりとは違います(ネットコミュニケーションは、とても公の場なのにとても私的な場所のように誤解させるものではありますが)。

今回の事件でも、さまざまな「可能性」は、考えられます。それは、何でもそうでしょう。どんな事件でも、様々な可能性は考えられます。

その可能性が考えられる根拠があるのならば、結構です。あるいはそれを、近所のおしゃべりで語るののなら結構です。でも、ネットで公言するのはどうでしょう。さらに、人権侵害になりかねないようなことを公言するのはどうでしょう。

事件が起きたとき、特に被害者が若い女性や少女であるとき、私たちの関心はしばしば被害者に向いてしまいます。心ないうわさや中傷で、被害者とご家族が苦しむことは、残念ながらよくあることです。

ネットで公言するということは、責任が伴うのではないでしょうか。ネットでの発言は、当事者も読むかもしれません。ネットでの多くの発言は、社会の雰囲気を作り上げます。

犯罪被害者個人の話題は、芸能ニュースや政治ニュースではありません。私たちは、ネットという誰もが世界に向けて情報発信できる道具を持ちました。これは、諸刃の剣です。ツイッターも「つぶやき」と表現されますが、本当の独り言のつぶやきではなく、世界に向けて公言する行為です。

ネット上のおしゃべりを楽しむなら、気軽な話題で楽しみましょう。

攻撃するなら、巨悪を攻撃する発言をしましょう。

推論を述べるなら、根拠のある話をしましょう。

できるなら、人を傷つけない話をしたいと思います。

保護されるべき、被害者や弱者を追い詰めるような話はやめたいと思います。

その話を、所属と実名をあげても、話せるでしょうか。あなたは責められないでしょうか。

被害者に必要なのは、非難中傷ではなく、保護と支援のはずです。

被害者に関して憶測や可能性や一般論の話をするなら、被害者保護につながる話題を選びたいと、私は思っています。

より良いネットコミュニケーションが進むことを、心から願っています。

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■子どもたちを守るために

ネットと世間に流れる「少女はなぜ逃げなかったか」に答える:岡山小5少女誘拐監禁事(倉敷女児誘拐監禁事件)件被害者保護のために

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■インターネットの心理学

若者の心理とネットコミュニケーションの罠:悪ふざけバイト投稿はなぜ続出するのか?

インターネットではなぜデマ(流言)が広がるのか:ネットの心理メカニズム

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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