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18歳に投票権、18歳成人の意味:世界標準と日本の現状:国民投票法改正案成立へ向けて

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
photo by pakutaso.com

■改正国民投票法:18歳に投票権

自民、公明、民主など与野党7党が共同提出した国民投票法の改正案は10日、衆院憲法審査会で審議入りした。自民党憲法改正推進本部の船田元本部長が趣旨説明を行い、「憲法改正の土俵づくりに関する重要な法律だ」と強調、審査会での速やかな採決を求めた。

出典:国民投票改正案が審議入り=衆院 時事通信 4月10日

【宿題(1)国民投票の年齢】改正法施行から4年間は20歳以上として、その後は18歳以上に切り替えることにしました。(※政党間の合意文書で、公職選挙法選挙権年齢を改正法施行後2年以内に18歳へ引き下げ、国民投票年齢も同時に引き下げる目標を明記します)

出典:国民投票法「3つの宿題」はどうなる? 改正案成立の公算 THE PAGE 3月28日

国民投票法は、憲法改正との関連で大きな問題ですが、もう一つの大きな課題が、18歳に投票権を与えることです。投票権を与えるとは、大人として認めること。成人年齢を18歳にすることにつながります。18歳に投票権が与えられ、18歳で成人となれば、18歳で様々な権利と義務が与えられることになるでしょう。

■世界の標準は18歳成人

日本では長く20歳で成人でしたが、世界各国も、以前は20歳または21歳成人でした。それが、この数十年で続々と18歳成人に変更されていきました。

現在では、世界の約9割が18歳で成人です(187の国地域のうち、141の国地域で18歳(以下)成人です)。

OECD(経済協力機構)に加盟する30ヵ国の中でも、20歳を成人とするのは日本だけで、他の国は18歳を成人と定めています(韓国は19歳成人。アメリカは州によって成人年齢が異なりますが、45州で18歳成人、選挙権は全米で18歳)。

イギリス1969年、ドイツ、フランス1974年、イタリアは1975年に変更されています。その大きなきっかけは、学生運動を背景とした青年たち自身の声と言えるでしょう。「僕たちにも選挙権を与えろ、私達も大人として認めて欲しい」。国家と世界を変えようとしていた青年たちの大きな声が世界中で響き渡っていました。

日本でも、当時は普通の学生たちが天下国家を熱く語っていたと思うのですが、なぜか成人年齢引き下げは実現しませんでした。

ただ世界の中には、少年を兵士として使うために成人年齢を引き下げた国もあるようで、これは見習いたくありませんね。

■日本の現状と問題点

世界標準が18歳成人だからと言って、日本もそうしなければならないわけではありません。昨年12月の内閣府世論調査によれば、成人年齢18歳への引き下げ議論について、77%が「知らない」と回答しています。

今現在、18歳の若者たち自身から「選挙権を与えろ! 大人として認めろ!」という強い声は聞こえてきません。このまま、大人たちが18歳の若者に成人としての権利義務を押しつけるのは望ましくないと思います。

しかし、子供を大人にして自立させることこそが、親の一番大切な役割ではないでしょうか(「子供が大人になるということ:思春期青年期の子にとっての良い親とは。」)

若者たち自身が、どうせ自分たちは無力だとか、大人が教えてくれないから悪いなどと言うのは甘えだと思いますが、大人の側も「近頃の若者たちは」と嘆くだけでは無責任です。その子供若者を作ってきたのは、大人たちですから。

■成人年齢引き下げ、子供を大人にする各国の工夫

今年1月11日に放送されたNHK『ニュース深読み』(テーマ「18歳からオトナに!? どうする?成人年齢引き下げ」)の番組内では、次のような各国の工夫が紹介されていました。

アメリカでは、大統領選挙の公約に子供版を作っています。子供にもわかるように、公約を示してくれるわけです。ドイツでは、政治に関する学校教材を作ったり、スウェーデンでは修学旅行に行く行かないのところから子供に議論させたり、イギリスでは「若者議会」が開かれ実際の問題を協議し決めさせています。

日本でも、もちろん様々な工夫がされています。修学旅行に行くときにみんなでバスに乗って同じ所に行くのではなく、班ごとに行き先を決めて自分たちで行動させたり、職場体験先に子供自身が電話してアポを取らせたり、いろいろがんばってはいます。

ただ、政治行政に関することにはあまり積極的に関わっていないかもしれません。学校運営に関して意見を述べようとする若者も減っているでしょう。

かつて大学紛争が高校にも広がったころ、たとええば多くの都立高校で制服自由化問題が発生し、高校生たちが熱い論議を重ね、制服自由化を勝ち取った歴史もあるのですが、現在ではなかなか難しいでしょう。

■青年と投票率

青年たちが熱く天下国家を語ったのは、遥か昔。今では、青年たちの低投票率が続いています(「私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?:特に若者たちへ」)

それなのに、さらに18歳に投票権を与えるのはとんでもないという意見もおありでしょう。しかし、18歳に投票権が与えられれば、教育も変わるでしょう。高校で、「選挙に行こう」という教育が積極的にできます。親と一緒に投票所に行って投票することもあるでしょう。

18歳に投票権を与えることで、青年層全体の投票率を上げていくことは、十分に可能です。

■若者と私たちの社会のために

現代人は、幼稚化していると言われます。若者たちが、どんどん頼りなくなっていると言う人もいます。そろそろ歯止めをかけましょう。18歳成人には、少年法の問題など様々な問題があります。すべてを一律に18歳に引き下げれば良いとも思いません。

しかし、18歳に投票権は与えられることになるでしょう。これをチャンスにしたいと思います。若者たちのために、これからの日本社会のために。

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成人年齢引き下げ、18歳成人を心理学的に考える1(こころの散歩道)

成人年齢引き下げを心理学的に考える2:青年期の心理的特徴(こころの散歩道)

成人年齢引き下げ3:少年法と少年犯罪の心理から考える(こころの散歩)

子供が大人になるということ:思春期青年期の子にとっての良い親とは。」:Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩

私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?(特に若者たちへ):Yahoo個人(碓井真史)「心理学でお散歩

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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