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LINE活用による上司と部下関係のすれちがい:ネットコミュニケーションの心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■LINE活用で上司と部下の関係に変化

現在、世界でユーザー数3億人を超えた「LINE」。友人間だけではなく、職場などビジネスで使う機会も増えている。そんななかで、職場、とくに上司と部下におけるコミュニケーションに変化をもたらしているという。

「部下との壁がなくなったのはいいことだとは思うけど、その一方で、どこか上下関係の線引きが曖昧になってきているのは否めないですね」

出典:LINE活用で上司と部下の関係に変化「上下関係が曖昧に」の声も NEWS ポストセブン 3月22日Y!

社内での世代間のすれ違いはいつの時代にもあります。電話、ワープロ、パソコン、携帯、インターネット、スマホ。メール、ツイッター、フェイスブック、そしてLINE。新しい道具が出てくるたびに、また新たなすれ違いも起きます。

ビジネスの場でLINEを活用し始めた話も聞きますが、そうすれば、トラブルの話も出てくるでしょう。

■碓井のコメント

新潟青陵大学大学院教授で社会心理学者の碓井真史氏はこう指摘する。

「LINEによって、上司が上下関係の線引きが曖昧になったと感じるのは、部下のLINEの内容に“公の場”という意識が欠けていると感じるからでしょうね。仕事のやりとりなのに、上司にかわいいスタンプメールを送るのはそのいい例です。LINEを含めて、ネット上のコミュニケーションというものは、本来は公の場なのに、プライベートな場のような誤解を生じさせてしまうもの。先ごろ話題になったツイッターの悪ふざけ投稿]も、そうした意識が薄くなってきたことが背景にありますから

出典:LINE活用で上司と部下の関係に変化「上下関係が曖昧に」の声も NEWS ポストセブン 3月22日Y!

いろいろな話題でコメントを求められます。30分ぐらい話して、数行にまとめられるのが一般的(プロなのでとても適切にまとめてもらえますが)。ここでは、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

■ネットコミュニケーション・マナー

手紙や電話のマナーは、時間をかけて作り上げられてきました。でも、ネットコミュニケーションのルールとマナーは、まだまだ過渡期なのでしょう。

手紙は、時候の挨拶から始まります。拝啓、敬具といった言葉を使います。電話では「もしもし」という言葉を使います。では、メールでは? LINEでは? 

メールも、パソコンメールでのマナーと携帯メールでのマナー、スタンダードは違うでしょう。

携帯メールに親しんできた若者が、宛名も自分の名前も抜き、「お世話になっております」の挨拶も抜きで、いきなり用件だけ書いたパソコンメールをビジネスの場で送って、注意を受けることもあります。

「顔文字」をどう使うのか、使わないのか。LINEの「スタンプ」をどう使うのか、使わないのか。ビジネス上の手紙とプライベートな手紙は、当然書き方が違いますが、ネットコミュニケーションではどう違うのか。まだ、標準的なルールとマナーはできあがっていません。

■現代社会における上下関係の希薄さ

数十年前なら、子どもは父親に敬語を使っていました。学校の先生に対しても、もちろん敬語です。校長先生に会うときには緊張しました。ところが、今は親子関係も、対教師関係も、とてもフレンドリーです。学生は、大学の教員に対してもフレンドリーですね。

映画スターは、以前は雲の上の存在でしたが、今は親近感を持たせます。政治家も社長も市長も、世間に対しては、親しみやすさを強調したりします。安倍晋三首相は、現役総理として初めてバラエティー(タモリの「笑っていいとも」)に出演しました。偉い人たちが、AKBの恋するフォーチュンクッキーを歌って踊って、その姿をネットで公開したりします。

それは、世界的傾向かもしれませんが、日本では特に目立ちます。ある調査で、どんな言葉が好かれるのかという国際比較が行われました。希望などは、どこの国でも上位です。ところが、「権威」は、他の国では上位でも日本では順位が低くなりました。日本では、上の権威を尊重する気持ちが少なくなっているのかも知れません。

さらに、ネットコミュニケーションは、匿名の世界でもあることから、もともと上下関係などとても希薄な世界でした。さらに加えて、LINEは、気さくでかわいらしい世界ですね。

こういう現代日本人がそんなネット、LINEを使えば、上下関係が希薄になるのは当然です。ところが、ビジネスの世界は、それでもやはり上下関係の厳しい世界です。ということで、摩擦やらすれちがいやらが起きるのでしょう。

■新しい人間関係

「権威」を軽んじる人の中には、権威と「権力」(他人を強制し支配し服従させる力)を混同している人がいるのかもしれません。権威と聞くと嫌な感じがしても、オーソリティー(authority:権威、専門家)なら、良い感じを持つ人もいるかもしれません。

(「権威」を権力と同様の意味で使うこともありますが、分けて使えば、権威は「ある分野において優れたものとして信頼されていること」でしょう。)

古い言葉を持ち出せば、「親しき仲にも礼儀あり」でしょう。ただし、礼儀もマナーも、正解はなく変化することを、上司も部下も理解する必要があるでしょう。お互いに押しつけてはいけません。とくに新しい道具、ネット関係の道具に関するルールとマナーは、急激に変化していくでしょう。

自動車も電話も、ネットも、便利な道具ほど危険性も大きくなります。自動車のハンドルやアクセル、ブレーキを使えるということと、社会の中で安全で便利な自動車文化を創り上げることは、別です。

レースをすることと、高速道路を走ることと、住宅地を走るのは別です。

ビジネスメールのスタンダードが徐々にできて、メールがビジネスの世界で定着したように、LINEも定着するでしょうか。それともまた、新しい道具が出てくるでしょうか。

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インターネットの心理学:より良いコミュニケーションのために(心理学総合案内こころの散歩道)

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社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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