いじめられている子のご両親へ
◆子どもが深刻ないじめを受けているご両親へ
さぞかしご心配のことと存じます。何とかしなくてはなりません。子どもを守らなければなりません。子どもを守るのは、ご両親の役割です。もちろん、学校にも市町村にも重い責任があります。
いじめ防止対策推進法(2013年6月28日公布)
第9条「自分の子どもがいじめられたときには、親は子どもを保護します」。
第8条「学校と先生方教職員は、関係者と協力しながら、いじめの防止と早期発見に取り組んで、そしていじめが起きていることがわかったら、すぐに動く責任があります」。
第7条「学校を作ったところ(市立学校なら市)は、いじめを防止する責任があります」。
第2条「いじめとは、子どもが、ある子どもを心理的、物理的に攻撃することで、いじめられている子の心や体が傷ついたり、被害を受けて苦しんだりすることです」。
激しい暴力や多額の恐喝などが深刻ないじめであることは、言うまでもありません。そうでなくても、たとえば「無視」といったことでも、いじめられた子が深刻に悩んでいるなら、法的にはともかく、それは「深刻ないじめ」だと思います。
第1条 いじめ防止対策推進法の目的
「いじめは、心や身体を傷つけます。教育を受ける権利や、人間としての生きる権利を傷つけます。子どもの成長に害を与えます。命が危険になることもあります。この法律は、そのようないじめを防止するために作られました」。
いじめは(性犯罪被害なども同様ですが)、たとえ客観的には小さなことで、加害者にとっては気軽な行為であったとしても、それでもとてつもなく大きな被害を与えるものです。
たとえば教室で無視され続けることで、「死にたい」と思う子は、少なくありません。いじめによる自殺といった最悪の事態は、何が何でも防がなくてはなりません。そうではなくても、「死にたい」と思うほどに苦しみながら学校生活を送っていて良い訳がありません。
何とかしましょう。何とかできます。子どもを守るのは、私たち大人の役割です。
◆いじめの影響(被害者の心)
いじめられ続けている子は、毎日戦っています。心と体の健康をすり減らしながら、戦っています。本当なら、楽しい学校生活のはずなのに。楽しく遊んだり、楽しく勉強できたりするはずなのに。その権利が子どもにはあるのに。
クラス中からいじめられている場合、あるいはクラスの誰も助けてくれない時、子どもは世界中から無視され、いじめられていると感じます。本当は、学校の外に出れば世界が味方してくれるのに、子どもにとっては、クラスが世界と感じられるからです。
いじめを放置することによって、自信を失い、劣等感を持ち、人間不信に陥り、自分が小さく汚れたような感覚に支配され、無力感に陥り、成績が下がり、神経症的な症状が現れ、不登校にいたり、さらに長期的な影響が残る子もいます。いじめ被害者を守らなくてはなりません。
◆いじめの影響(みんなの心と学校)
いじめている子も、ここまで執拗ないじめを続けているとしたら、何らかの心の問題を抱えています。いじめを続けるほど、いじめっ子の心も汚れていきます。いじめをやめさせなくてはなりません。
いじめっ子のとりまき、いじめをはやし立てる子も、意志の弱い子です。放っておけば、心の傷を持つこともあります。このままの人生を暮らせて良い訳がありません。
たとえば、クラス中が無視をしているとしても、クラス中に嫌われている場合はまれです。でもいじめっ子が怖くて、しかたなく無視をしている子もいます。本当はいじめられている子と仲良しで、守ってあげたいと願っていても、自分がいじめられることが怖くて、無視する側に回ってしまう子もいます。この子たちも、救ってあげなくてはなりません。
クラスにいじめが起きても、何もしない、見て見ぬふりをする子たちもいます。見て見ぬ振りをすることで自分を守ろうとしています。このような「傍観者」の存在が、いじめっ子の背中を押しています。そして、見て見ぬふりをしている子も、苦しんでいます。
いじめに関わる子どもたちは、みんな苦しんでいます。今はまったく罪の意識がなくても、普通に成長すれば大きな罪の意識を持ちます。大人になっても罪悪感を持たなければ、それ自体問題です。
クラスの中でいじめが起きて、解決できないと、クラス全体が嫌な雰囲気になります。それは、隣のクラスにも伝わります。学年全体に広がります。いずれ学校全体にまで広がるかもしれません。
いじめ対策は、第一にいじめられっ子を守ることですが、それだけではなく、みんなを守ることになります。いじめを放置してはいけません。わが子を守り、みんなを守るために、行動しなくてはなりません。
◆わが子に対して
私は、中学校のスクールカウンセラーとして、いじめの話を聞いたときには、まずその子の痛みに共感した上で、その子を賞賛します。
「話してくれて、ありがとう。とっても辛かったね。よくがんばってきたね。すごいぞ、えらいぞ。よく話してくれた。君は何て勇気があるんだ。すごいよ。君は勇者だよ。これからは、先生たちが、君を守る。絶対に守る。」
勇ましい大人の中には、「弱虫になるな、やり返せ」と言う人もいます。でも、そんなことできません。誰も助けてくれる人がいないクラスで、やり返したりできません。私だってきっとできません。そんな状況で効果的な反撃ができるのは、むしろ例外的です。
「どうしてもっと早く言わなかったの?」といった言葉も、子どもをさらに傷つけます。
公平さや冷静さを装う大人の中には、「君にも悪いところがあるのではないか」などと話す人もいます。違います。少なくとも人権問題としては、いじめ問題において悪いのは、100パーセントいじめっ子です(その上で、その子がさらに成長していくことを望むとしても、それはまた別の話です)。
心優しい大人の中には、子どもと一緒に泣くことはできるのですが、「絶対守る」と言えない人もいます。もちろん、明日すべて解決することなどできないでしょう。でも、深く傷ついて、やっとの思いで告白してくれた子どもに、頼りない大人の姿を見せてどうしますか。小さくなってしまっている子どもの心がますますしぼみます。子どもの不安はますます高まります。
子どもの心を守るために、「絶対守る、みんなで守る、全力で守る」と宣言することが必要ではないでしょうか。心理学的に言って、心が傷ついている人にまず必要なことは、安心安全です。
いじめっ子の仕返しを怖がる子もいます。でも私は言います。「いいかい、学校中の先生も、教育委員会も、PTAも、大人みんなが本気で守る。そうしようとしているのに、いじめっ子が仕返ししてきたりしたら、どうなると思う? もうとんでもなく叱られるよ。それでも、その子はいじめ続けるとおもうかい? 大人を見くびるなって、いいたいね」。
もちろん、それほど単純でないことも多いでしょう。けれども、やはり親もスクールカウンセラーも先生も、子どもを守る義務があるのですから、一緒にいじめと戦っていこうと、力強く宣言する必要があると思うのです。
◆実際の学校の対応(理想的なケース)
学校全体にも担任にも十分な指導力がある場合に、クラス担任がいじめの事実を知ったときには、みごとに解決してくれます。私はそんな事例も見てきました。有能な先生たちの動きは素晴らしいです。
いじめの細かい事実確認を行い、いじめっ子の指導を行います。こういう指導が得意な先生がいます。もちろんすぐに、いじめっ子の心がやさしくなり、心から反省するわけではありません。時間はかかります。けれども、少なくとも目立ついじめはなくせます。
事実関係がはっきりすれば、いじめっ子の保護者にも連絡がいきます。まともな親なら、真っ青になって学校に飛んできます。わが子をしかりつけ、学校と被害者親子に謝ります(あなたが親ならそうしませんか)。
いじめっ子がその段階で真剣には反省できないことはあります。でも、先生たちに散々叱られ、親に叱られ、親子で学校に呼ばれ、お詫びの会などが開かれれば、心からの反省がまだでも、さすがに、もうこんな目にはあいたくないと思います。とりあえず、いじめはやめようと思うでしょう。
激しいいじめが止まれば、いじめられっ子の心も少し落ち着きます。何かあれば、またすぐに対応できます。そして、学校全体で、いじめに関わった子どもたち全体のケアと指導がすすみます。
私は、こういう事例も見てきました。
◆学校の対処が不十分な場合の親の対応
ただし、担任すべてに、その力があるわけではありません。どの職場にも、様々な人がいます。力が足りない人、やる気がない人がいることも事実です。私は、多くの先生方は、力の差や考えの差はあっても、子どもの幸せを心から願っていると思いますが、それでもスムーズに行かないことはあるでしょう。
まず、親が本気であることを示しましょう。
いじめの深刻さが、担任に伝わっていないこともあります。何が起きているのか、わが子がどう感じているのか、しっかり伝えましょう。客観的に何が起きているかはまだ不明確でも、子どもが死にたいほど悩んでいる、学校に行きたくないと思うほど苦しんでいるなら、それは深刻な事態です。先生にしっかり理解してもらいましょう。
お母さんだけではなく、ご両親で学校を訪問されることもお勧めです。お父さんも、この日ぐらいは早く帰りましょう。学校も、いじめ問題なら、夕方6時、7時からの面談でも受けてくれるはずです。
担任と話してもうまく行かないなら、学年主任や生徒指導主任にも同席してもらいましょう。思いを伝えてください。それでもうまく行かないなら、誰でも良いので、学校内で話のわかる人を見つけて話してください。スクールカウンセラーや、養護教諭や、部活顧問など、だれでも構いません。
私は、自分の実体験からは、学校中の教職員みんながやる気がない人ばかりの学校をちょっと想像できません。誰か、いるはずです。
校長先生と直接お話しすることもお勧めです。親の本気度を示しましょう。先生方と、具体的な対策を考えましょう。
校長と話してもダメなら、教育委員会に行くのも良いと思います。それでもだめなら、弁護士に相談するのも良いでしょう。私は、いきなり教育委員会や弁護士の所へ行けとは言いませんが、でも、全力で子どもを守らなければなりません。
学校全体が指導力を失っていることも、残念ながらあるかもしれません。それでも、私達は、子どもを守らなければなりません。方法は、いくつもあります。
◆子どもの気持ち
子どもの中には、親に弱音が吐けない子もいます。みじめな自分を見せたくないとか、親に迷惑をかけてはいけないと考えてしまうこともいます。
けれども、いじめられっ子は、みじめな子どもではありません。いじめと闘っている勇者です。困ったことを大人に話すことは正しいことです。子どもは、親に迷惑をかけても良いのです。子どものことを心配するのが、大人の役割です。
スクールカウンセラーが、いじめ、嫌がらせの話を聞いたときも、すぐに事を荒立てるとは限りません。本人と話します。本人が大きな動きを嫌うこともあります。時には、子どもに少しずつ勇気を与え、一緒に戦えるように促すこともあります。
時には、大人に理解され、見守られることで、いやがらせなどが短期間で解決へ向かうこともあります。ただし、それは本人と大人との信頼関係の中でのことです。
子どもが、親や先生を信頼できず、仕返しを怖がり、だから「なにもしないで」というのは、本心ではありません。本心は、解決したいと願っています。だから、あなたにいじめの事実を話したのです。子どもが、孤立感や、無力感をもったままにさせてはいけません。自傷行為、自殺など、最悪の事態も考えなくてはならないからです。
ケースによっては、親が仕返しや事態の悪化を恐れて、行動できないこともあります。わが子が恐喝されていることを知りながら、子どもを守るためにお金を渡し続けていた親もいます。でも、それは子どもを守ることになりません。
子どもを守るために親も覚悟して、勇気を持ちましょう。子どもが「死にたい」と思うほど悩んでいるなら、これ以上の事態の悪化があるでしょうか。いざとなれば、学校を休むこともできます(いじめ被害者に不登校を勧めているわけではありません)。命あっての物種です。
「大人みんなで全力で、絶対に、君を守る」と伝えましょう。子どもだけでなく、親のことも守ります。親子で小さくなってはいけません。世界中があなたがた親子の味方です。
第23条 いじめに対する措置
「いじめの相談を受けた人は、その子の学校に知らせます。学校は、すぐに事実を確かめて、上の人に報告します。そして、いじめをやめさせ、いじめを受けた子を守ります」。
「学校は、必要があれば、いじめた子を別の教室にするなど、いじめられた子が安心できるようにします」。
「学校は、そのいじめが犯罪だと思ったときには、警察と協力しあいます。そのいじめ犯罪で、いじめられた子の身体や命や持ち物やお金などに大きな危険があるときには、すぐに警察に通報しなくてはなりません」。
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