長期監禁事件の犯罪心理学:アメリカ監禁事件、オハイオで10年監禁の3女性保護:加害者の心・被害者の心

■アメリカ監禁事件(オハイオ州で3人の女性が)

アメリカで、10年におよぶ長期監禁事件の被害者が救出されました(行方不明だった女性3人を住宅で発見・保護、男を拘束 米オハイオ州Yahooニュース2013.5.7)。その後の報道によると、誘拐監禁したと思われる50代の兄弟3人が監禁や強姦の容疑で逮捕されました(2013.5.8)。

■被害者はなぜ逃げられないのか

物理的に監禁され続けていれば逃げられないのは当然です。しかし長期にわたる監禁事件では、必ずしも被害者は鎖でつながれ続けられているわけではありません。そんな状況だと、「なぜ逃げなかったのか」と監禁被害者が責められるときすらあります。しかし、被害者は逃げなかったのではなく、「逃げられなかった」のです。

長期にわたって監禁され、恐怖に縛られれば、その後で体を縛る鎖が解かれても、心が鎖で縛られて逃げられなくなるのです。時には、犯人が「逃げたら家族をひどい目にあわせる」などと脅すこともあります。

日本における長期監禁事件でも、警察がやってきて、もう安心ださあ部屋を出ようと言っても、部屋から出ることに不安を示した被害者がいるほどです。

心理学的には、監禁の中で、「模範囚」になってしまう「プリゾニゼーション」、逃げる試みが失敗し続けることで起こる「学習性無力感」、「マインドコントロール」状態などが考えられます。

(人質事件などで起きる「ストックホルム症候群」は、数年にわたるような長期監禁事件とは異なる状況かと思います。)

■加害者の心理

長期監禁事件の犯人の典型は、異常なファンタジーを持っていることです。被害者女性を自分のものとし、隷属させ、さらに進んで従うようになることを望み、自分の王国を作ろうとします。

私は、日本における有名な長期監禁事件の裁判を傍聴しましたが、その被告人(犯人)は、逮捕され裁判で被害者調書が読み上げられるまで、自分が被害者に恐れられ嫌われていたことを理解していなかったようです。被告人は、被害者を大切に思っていたと語っていましたが、それは罪を軽くするための言い訳ではなく本心に感じられました(ただし非常に歪んだ心ですが)。

このような、人を支配することを単に妄想しているだけであれば良いのですが、犯罪に対する心のブレーキが弱くなり、さらに長期監禁が可能な条件がそろうとき、犯行は実行へと向かいます。

■被害者の心

加害者は、自己中心的で残忍で、時に自我が未成熟な幼稚な人間です。しかし同時に、悪知恵が働き、力を持っています。以前アメリカで発生した18年に及ぶ女性長期監禁事件を担当した検事は、被告を「マスター・マニピュレーター(人心操縦の達人)」と呼んでいます。

芸能人をだます自称霊能者も、一人の女性が兵庫県尼崎で起こした家族支配と殺人事件の加害者も、夫婦間暴力で妻を支配する男の中にも、悪質なマスター・マニピュレーターがいることでしょう。

犯人は、被害者から逃げる意欲を奪い、もとの生活に戻る希望を失わせようとします。さらに、これは短期の人質事件などにも見られますが、小さな親切を与えることで、被害者に加害者への感謝の気持ちさえ呼び起こさせようとします。

命令に従わなければ激しい罰、死の恐怖を与え、命令に従えばわずかばかりの親切を与えます。生活のすべてを、犯人に頼らなければ成り立たせないようにします。「親はもうお前を探していない」などとウソをつき、親子関係への信頼を壊そうとしたりもします。このようにすると、犯人に服従し、頼るようにさえなってしまうのです。

日本で発生した足立女性監禁事件(監禁王子事件)では、被害者の一人は、「ペットになってでも何でもいいから命だけは助けて欲しいと思うようになった」と述べています。

それでも、今回のアメリカの事件でも、日本の事件でも、逃げ出したり、救出された被害者の多くは、必死にがんばり、希望を捨てていません。大人であれば服従したふりをして犯人を油断させたり、子どもでも生き抜くための必死の努力として犯人を怒らせないようにがんばってきました。

■被害者支援のために

アメリカのカリフォルニア州で18年監禁されていたジェイシー・リー・ドゥガードさんは、「当局が犯人を逮捕する機会を逃すなど、類例がなく、悲劇的なケース」と認定され、州政府は保証金18億円を支払うことになりました。

この方は、マスコミに実名で登場し、被害状況を人々に語ることで、心の傷を癒やし、人生をやり直そうとしています。

日本でも、同様のケースはあるのですが、このような保証はされていません(多くの方が支援に関わってはいますが)。

とても残念なことに、女性が被害者となるこのような事件においては、被害者は犯行自体で傷つき、さらに世間の目によって傷つきます。社会復帰には、長い時間と多くの支援が必要です。

もちろん、一番悪いのは犯人に決まっています。けれど、私たちの社会がこの犯人を作り出し、長期監禁が可能な状況を作り出してしまいました。被害者保護の社会制度を作っていくと共に、被害者に対する興味本位の冷たい関心ではなく、長期にわたる温かな支援の心を持ち続けたいと思います。

ドゥガードさんも、多くの支援と社会の理解があったからこそ、この想像を絶する困難と戦うことができているのです。

ドゥガードさんの監禁生活をつづった手記「A Stolen Life(盗まれた人生)」~この手記をつづる過程で、監禁時のことを全て思い返したことが、精神的に解放される手助けになったと、ドゥガードさんは言う。「(誘拐や監禁されたことを)もう一度、見つめ直しても、いいかなと思った。しっかりと見つめて、もう怖くなくなるまでそうした。秘密は全部なくしたかった。私は何も悪くないのだから」

出典:18年監禁された女性、苦難の監禁生活を語る 米テレビ:AFPBB News

今回のアメリカ、オハイオ州の女性3人長期監禁事件でも、被害者の氏名も顔写真も報道されている。社会全体が、被害者を支援しようとしているように見える。被害者が発言しにくい日本とのこの違いは、被害者の違いではなく、社会のあり方の違いではないだろうか(2013.5.7.23:30)。

→さらに続報を受けて「脱出ゲーム」「誘拐記念バースデーケーキ」

監禁の心理学:逃げられない理由・脱出できた理由:『ミヤネ屋』で語ったアメリカ監禁事件と心の監禁2013.5.17

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(ドゥガードさんの言葉を引用して加筆。2013.5.7.20:05)

東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院博士後期課程修了。博士(心理学)。新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。スクールカウンセラー。テレビ新潟番組審議委員。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。HP『こころの散歩道』は総アクセス数5千万。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「とくダネ!」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ビートたけしのTVタックル」「ホンマでっか!?TV」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』など。監修:『よくわかる人間関係の心理学』など。

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