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《学園問題》を取り込む「小さな巨人」は、“現代の世話物”か!?

碓井広義メディア文化評論家

「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(関西テレビ)、「警視庁捜査一課9係」(テレビ朝日)、「警視庁・捜査一課長」(同)、「緊急取調室」(同)などの刑事ドラマが終盤へと向かっています。

”学園問題”を描く「小さな巨人」

その中で、好調の「緊急取調室」とトップを競い合っているのが、日曜劇場「小さな巨人」(TBS)です。主人公は元警視庁捜査1課の刑事・香坂(長谷川博己、熱演)。出世街道を順調に歩んでいましたが、上司である捜査1課長・小野田(香川照之、力演)によって所轄署へと飛ばされました。

前半の芝署編ではIT企業社長の誘拐事件や社長秘書の自殺などが発生。真相を探るうち、黒幕として署長(春風亭昇太)が浮かんでくるという大胆な展開でした。

そして現在の豊洲署編では、事件の現場が「早明学園」という学校法人となっています。経理課長が失踪しますが、その背後には学園の“不正”があります。さらに内偵中の刑事(ユースケ・サンタマリア)も殺害されてしまいました。

この学園には元警視庁捜査一課長の富永(梅沢富美男、巧演)が専務として天下っています。彼は、かつて捜査一課刑事だった香坂の父親を自殺へと追い詰めた、因縁の人物。香坂はここでもまた警察という巨大組織の力学に翻弄され、苦戦を強いられています。

誰が味方で、誰が敵なのか。「敵は味方のフリをする。」(良いキャッチコピーです)ので、見る側も気が抜けません。

「小さな巨人」は、“現代の世話物”となるか

徐々に明らかになってくるのは、早明学園が手を染めた「不正な土地取引」の真相です。しかも、そこには“政治家との癒着”が見え隠れしています。

となると、やはり思い浮かぶのは「森友学園問題」であり、「加計学園問題」ですよね。単なる政治家ではなく、総理大臣という最高権力者の関与が指摘される現在進行形の事件。

もちろん現実の“学園問題”とは設定が異なりますが、このドラマは「学校を舞台とした政治家がらみのスキャンダル」という意味で、実にタイムリーです。

ご存知のように、歌舞伎の演目には「時代物」と「世話物」があります。江戸時代の人たちから見て、過去の世界を舞台にした歴史物語が時代物です。一方、当時のリアルタイムな出来事を扱っていたのが世話物になります。近松門左衛門「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」のような心中事件や殺人事件、さらに政治スキャンダルも世話物の題材となっていました。

今年2月、ドラマが準備されていた頃に発覚した、森友学園の「不正土地取引事件」。制作者たちは急きょ、この現実の出来事を何らかの形で物語の中に取り込むことを決意したのだと思います。

そういう意味で、この「小さな巨人」は、まさに“現代の世話物”と言えるのかもしれません。歌舞伎役者「九代目 市川中車(いちかわ ちゅうしゃ)」でもある俳優・香川照之が、大きな役どころで出ていることも象徴的です。

最終コーナーを回って、政治家の倫理と犯罪性をどこまで描くのか。リアルとフィクション、双方の《学園問題》の進展は予断を許しません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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