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今期「新ドラマ」で健闘している、あの主演「男優」たち

碓井広義メディア文化評論家

今期、木村拓哉の『A LIFE~愛しき人~』、草なぎ剛の『嘘の戦争』など、主演は「男の俳優=男優」という新ドラマが目立ちます。

そこでは、ジャニーズ系の面々とはちょっと異なる、ひと味違うタイプの男優たちも健闘中です。

『就活家族~きっと、うまくいく~』の三浦友和

それなりに安定していたはずの家庭が、ふとしたきっかけで危機に陥っていく。

『就活家族~きっと、うまくいく~』(テレビ朝日系)の舞台は、家族4人の富川家だ。夫の洋輔(三浦友和)は大手企業の人事部長。妻の水希(黒木瞳)は中学教師。娘の栞(前田敦子)はOL。そして弟の光(工藤阿須加)は就活中の大学生である。

まず、役員への就任が目前だった洋輔に、いきなりトラブルが発生した。新人採用の際に叱りつけたモンスター就活生が、実は取引先である銀行の頭取の息子だったのだ。慌てて取り入ろうとするが、見事にはね返されてしまった。

また、リストラの通告を受けた女性社員(木村多江、怪演)が逆恨みして、洋輔のセクハラ疑惑(でっち上げだが)を会社に訴えた。背後には、社内の出世争いがあったのだが、結局、洋輔は子会社への出向を拒否。不本意な退職という憂き目に遭う。

しかも今後は洋輔だけでなく、怪しげな就活塾に入った光の就職問題、水希の雇用延長問題、さらに枕営業まで示唆される栞のパワハラ問題など、まさに問題山積の展開が予想される。

作りは堂々の社会派ホームドラマだ。リストラも就活もリアルなエピソードで、見ていて息苦しいほどだ。願わくば、もう少しユーモアがあるとありがたい。

とはいえ、この年代の男の強さともろさの両面を見せる、三浦友和の演技と存在感が抜群だ。これだけで一見の価値がある。そうそう、昨年のTBS系『毒島ゆり子のせきらら日記』の演技で開眼した(はずの)前田敦子にも期待したい。

『増山超能力師事務所』の田中直樹(ココリコ)

今期ドラマの中でも、いち早くスタートした『増山超能力師事務所』(日本テレビ系)。舞台は近未来で、読心や透視や物体念動などの超能力が、社会的に認知され始めたという設定だ。「日本超能力師協会」なるものが出来たり、超能力師に「1級」「2級」といった認定資格が与えられたりしている。

主人公の増山圭太郎(ココリコ・田中直樹)は1級の超能力師だ。勤務していた会社を辞めて、探偵事務所を開く。所員として集めたのは篤志(浅香航大)、悦子(中村ゆり)、健(柄本時生)などの若手超能力師たちだった。

このドラマが過去の超能力物とひと味違うのは、超能力の持ち主たちが、自らの能力を「面倒くさいもの」「はた迷惑なもの」として持て余し気味であることだ。侵入してくる他人の声に悩まされたり、イジメの対象になったりと、ちっともヒーローっぽくない。この出発点がドラマのキモだ。

浮気調査、家出少女の捜索など、依頼される案件は普通の探偵事務所と変わらないが、テレパシーなどの超能力が生かされているような、そうでもないような、ゆる~い仕事ぶりが、じわじわと笑える。

注目は3年ぶりの連ドラ主演となるココリコ田中である。NHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』の仲間・星野源がブレークしたが、俳優業では田中も負けてはいない。昨年は『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)や『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)などで好演。今回の“座長”も堂々たるものだ。「めんどくさいなあ」が口癖という、最も超能力者らしくない超能力者を、飄々と魅力的に演じている。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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