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三冠王のカブレラが来シーズン限りで引退する。プーホルスのように有終の美を飾ることはできるのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
ミゲル・カブレラ(デトロイト・タイガース)Aug 9, 2022(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 アルバート・プーホルスミゲル・カブレラは、どちらも、今世紀にメジャーデビューした大打者だ。それぞれ、2001年と2003年にメジャーリーガーとしてのキャリアをスタートさせ、今シーズンが終わるまでに、3384安打と3088安打、703本塁打と507本塁打を記録した。本塁打王は2度ずつ、通算OPSはともに.900以上。プーホルスはMVPを3度受賞し、カブレラは2度選ばれた。2人のスタッツを比べると、プーホルスが勝るものの、カブレラは10年前に三冠王となっている。

 今シーズンの開幕前に語っていたとおり、プーホルスは、選手生活にピリオドを打った。一方、カブレラは、来シーズンもデトロイト・タイガースでプレーする。ただ、カブレラにとって、2023年はラスト・シーズンとなる。8年2億4000万ドル(2016~23年)の契約満了とともに、バットを置く。先日、チャリティ・イベントに出席したカブレラは、記者たちに「最後の年になると思う」「絶対とは言わないけれど、ベースボールにさよならを言う時が来たと思う」と語った。

 2017~21年の5シーズンとも、プーホルスのOPSは.750に届かなかった。昨シーズンは17本塁打に終わり、この時点では通算700本塁打まで21本だった。けれども、最後のシーズンに、プーホルスは24本のホームランを打ち、OPS.895を記録した。なかでも、後半戦の56試合は、18本塁打とOPS1.103。全盛期を彷彿させ、カムバック賞に選出された。

 カブレラも、2019年以降のここ4シーズンは、OPS.750未満だ。2017年以降のホームランは6シーズンとも20本に満たず、今シーズンは5本しか打てなかった。

 プーホルスと違い、カブレラが迫っている区切りのマイルストーンは見当たらない(あと1安打で、イチローのメジャーリーグ通算安打に並ぶ)。昨シーズンの500本塁打に続き、今シーズンは3000安打と600二塁打に到達した。

 また、タイガースは再建中だ。プーホルスは最後にポストシーズンでプレーしたが、カブレラはそうならないだろう。

 だが、さらなるマイルストーンがなくても、カブレラのキャリアは栄光に満ちている。ワールドシリーズ優勝も、メジャーリーグ1年目にフロリダ・マーリンズで経験している。ワールドシリーズでは、ロジャー・クレメンスからホームランを打った。

 近年の不振は、故障に悩まされていることも、原因だろう。健康に過ごすことができれば、かつての輝きを垣間見せる可能性も皆無ではない。

 日本では、一塁を守っていた際に、出塁した大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)の股間をさわるなどして話題になったが、カブレラは、こんなエピソードも残している。

 3番打者として出場した試合で、最初の打席に立った時、カブレラの右足はバッター・ボックスの後ろのラインからはみ出ていた。球審にそれを指摘されたカブレラは、自分のほうが正しいと主張した。計り直した結果、ずれていたのはラインだった。カブレラは、いつもの位置で構えていたということだ。これもまた、ささやかながら、大打者の証の一つのように思える。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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