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開幕前に「今シーズン限りで退任」と宣言した監督は、3年前のMLBにもいた。その結果は…

宇根夏樹ベースボール・ライター
矢野燿大 NOVEMBER 14, 2014(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 阪神タイガースの矢野耀大監督のように、開幕前にシーズン終了後の退任を宣言するのは、異例中の異例だ。けれども、今から3年前、2019年のメジャーリーグには、同じことをした監督がいた。サンフランシスコ・ジャイアンツで采配を振っていたブルース・ボウチーが、こちらもキャンプイン直後のミーティングで、選手たちにそう伝えた(「名将が今季限りで勇退。通算2000勝に到達できなくても、殿堂入りは間違いなし」)。

 当時のボウチーは63歳。現在の矢野よりも10歳上だ。監督としてのキャリアも長く、1995~2006年にサンディエゴ・パドレスで指揮を執った後、2007年からジャイアンツで監督を務めた。ポストシーズン進出は、8度を数える。1998年、2010年、2012年、2014年はリーグ優勝を飾り、その2度目以降はいずれもワールドシリーズを制した。矢野は、今年が監督4年目。2019年と2021年はクライマックス・シリーズ進出を果たし、セ・リーグがクライマックス・シリーズを開催しなかった2020年も2位に位置したが、リーグ優勝はなく、日本シリーズにも進んでいない。

 ただ、年齢からすると、ボウチーは、監督を続けてもおかしくなかった。さらに高齢の監督は、何人もいる。例えば、メジャーリーグの現監督のうち、シカゴ・ホワイトソックスのトニー・ラルーサは77歳、ヒューストン・アストロズのダスティ・ベイカーは72歳、ロサンゼルス・エンジェルスのジョー・マッドン――2月8日が誕生日――は68歳、アトランタ・ブレーブスのブライアン・スニッカーは66歳。今オフ、ニューヨーク・メッツの監督に就任したバック・ショーウォルターも65歳だ。日本プロ野球においても、読売ジャイアンツの原辰徳と埼玉西武ライオンズの辻発彦は60歳以上。2人とも、今年の誕生日に64歳となる。

 2019年のジャイアンツは、77勝85敗と負け越し、ナ・リーグ西地区の3位に終わったが、この結果にボウチーの宣言が影響していたとは思えない。プラスとマイナスのどちらもだ。その前の2シーズンも、ジャイアンツは負け越していた。この3シーズンの白星と順位は、64勝→73勝→77勝、5位→4位→3位だ。

 なお、宣言どおりに監督を退任したボウチーは、スペシャル・アドバイザーとして、ジャイアンツに残った。また、2020年の春には、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のフランス・チームの監督に就任した。ボウチーがフランスで生まれた――陸軍にいた父が駐在していた――ことから、そうなったのだろう。結局、新型コロナウイルスのパンデミックにより、WBCは予選も延期され、昨年のヨーロッパ野球選手権大会でも、ボウチーは指揮を執らなかった。とはいえ、今後、ユニフォームに再び袖を通す可能性は、まったくのゼロではないような気がする。

 ボウチーのキャリアについては、こちらで書いた。

「名将が今季限りで勇退。通算2000勝に到達できなくても、殿堂入りは間違いなし」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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