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あの監督の辞書に「敬遠四球」の文字はない!? このまま誰も歩かせなければ史上初

宇根夏樹ベースボール・ライター
AJ・ヒンチ監督(ヒューストン・アストロズ)Mar 28, 2019(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今シーズンのヒューストン・アストロズにないもの。それは、敬遠による与四球だ。開幕から155試合を終え、AJ・ヒンチ監督は一度も敬遠四球の指示を出していない。それに対し、彼以外の監督は、少なくとも二桁の打者を歩かせている。最も多いドン・マッティングリー監督(マイアミ・マーリンズ)は、48人だ。

 敬遠四球が公式記録となった1955年以降、シーズンを通して、敬遠による与四球が皆無のチームは存在しない。ちなみに、最多は116人。今から45年前に、サンディエゴ・パドレスの監督だったジョン・マクナマラが記録した。

 基本的に、次の打者(あるいはその代打)の方がアウトにしやすいと判断した場合、監督は敬遠による与四球を指示する。今シーズン、敬遠四球によって歩かされた打席が15を超えるのは、コディ・ベリンジャー(ロサンゼルス・ドジャース)、マイケル・フランコ(フィラデルフィア・フィリーズ)、クリスチャン・イェリッチ(ミルウォーキー・ブルワーズ)の3人だ。フランコはチーム最高の打者ではないが、打順は投手の直前、8番が多かった(「最も勝負を避けられている打者は、ハーパーではなくそのチームメイト」)。

 アストロズは、ア・リーグのチームだ。フランコのようなケース――塁上に走者がいて、野手が打席に入り、その次の打者は投手――には、滅多に遭遇しない。今シーズン、アストロズがナ・リーグの本拠地でプレーしたのは、10試合に過ぎない。

 また、近年、メジャーリーグ全体の敬遠四球は減少傾向にある。短縮シーズンを除くと、1964~2013年は毎年1000を超えていて、1400以上のシーズンも7度あったが、2014年以降はいずれも1000未満にとどまっている。

 ただ、そういったことだけでは、ヒンチ監督と他の監督たちとの違いは説明できない。

 ヒンチ監督が相手の打者を敬遠四球で歩かせない理由は、走者を増やしたくないという考え方とともに、投手陣がありそうだ。両リーグ4位(ア・リーグ3位)の防御率3.74もさることながら、アストロズの投手陣は両リーグ1位の奪三振率10.25を記録している。10.00を上回るのは、他にボストン・レッドソックス(10.01)だけだ。

 投球をバットに当てられてインプレーとなった場合、詰まった打球でもヒットは生まれるし、野手によるエラーも起きる。一方、奪三振であれば、アウトにならないのは振り逃げくらいだ。昨シーズンも、ヒンチ監督は史上最少の4人しか歩かせていない。防御率3.11と奪三振率10.44は、どちらも両リーグ1位だった。

 かつては、ヒンチ監督も、ここまで極端に少なくはなかった。2009年5月から翌年6月まで、アリゾナ・ダイヤモンドバックスの監督を務めた時は、212試合で43人を歩かせた。これは、162試合に換算すると30人を超える。アストロズでも最初の3シーズン(2015~17年)は、こちらも少なめとはいえ、17人、19人、17人を数えた。

 なお、ヒンチ監督が最後に敬遠四球を指示したのは、昨年8月17日だ。そこから、すでに1年以上が経っている。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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