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若手がブレイクした三塁に、ベテランを高額で迎え入れた狙いはどこにある!? 

宇根夏樹ベースボール・ライター
ジョシュ・ドーナルソン/8月末にインディアンズへ移籍 May 15, 2018(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 アトランタ・ブレーブスが、立て続けにベテランのFAを迎え入れた。34歳のブライアン・マッキャンと1年200万ドル、32歳のジョシュ・ドーナルソンとは1年2300万ドルの契約を交わした(2人の金額は桁が違うが、間違いではない)。

 ブレーブスがマッキャンを手に入れた意図は、わかりやすい。ブレーブスからはカート・スズキがFAになり、2年1000万ドルでワシントン・ナショナルズと契約した。ここ2年、スズキはタイラー・フラワーズとスタメンマスクを分け合っていた。マッキャンは2人よりもパワーがあり、スズキとフラワーズはどちらも右打者だが、マッキャンとフラワーズなら左打者と右打者になる。また、マッキャンはアトランタ近郊の出身で、プロ入りからメジャーリーグ9年目まで(2002~13年)はブレーブスにいた。

 一方、ブレーブスの三塁にはヨハン・カマーゴがいる。24歳のカマーゴは、5月半ばから三塁に定着し、フルシーズン1年目にして打率.272と出塁率.349、19本塁打を記録した。三塁の守備でも、DRS7はリーグ2位タイ、UZR5.5は3位にランクインした。にもかかわらず、ブレーブスはドーナルソンを、来シーズンの正三塁手として考えている。そのことは、2300万ドルの年俸からも明らかだ。

 カマーゴについては、内外野をこなすスーパー・ユーティリティとして起用するつもりだろう。三塁と遊撃の他に、カマーゴはわずかながら、二塁とレフトも経験している。トレードの駒に使う可能性もあるが、こちらはそう高くないと思われる。

 ドーナルソンは攻守に優れ、3年前のMVP受賞を含め、2013~16年は4年続けて投票8位以内に入った。その実力を発揮すれば、カマーゴを遥かに凌ぐ。ただ、ここ2年は故障が多く、2017年の出場は113試合、2018年は52試合にとどまった。カマーゴの存在は、ドーナルソンが来シーズンも故障に泣かされた場合の「保険」にもなる。また、こちらも24歳の正遊撃手、ダンズビー・スワンソンは、カマーゴと違ってまだブレイクしていない。来シーズンもその状態が続けば、カマーゴとの併用も考えられる。

 マッキャンもドーナルソンも、来シーズンが終わればFAになるので、期待外れの結果に終わっても、残りの契約がブレーブスの負担になる心配は不要だ。マッキャンは故障だけでなく年齢も大きな理由だろうが、ドーナルソンの場合、健康に過ごしていれば、高額とはいえ1年契約はあり得なかった。

 ブレーブスにはプロスペクトの三塁手、21歳のオースティン・ライリーがいて、すでにAAAまで来ている。この点からしても、ドーナルソンとの1年契約は理に適う。ライリーまでの単なるつなぎではなく、うまくいけば2年連続の地区優勝に向けて三塁をレベルアップでき、ライリーが台頭する予定の2020年にはいなくなっている。

 ドーナルソンからすれば、今オフに複数年の契約を求めても、故障を理由に買い叩かれることは目に見えていた。それよりは、復活を果たした後、来オフに改めてFAになった方がいい。しかも、ブレーブスから得る2300万ドルは、今シーズンの年俸とまったく同じだ。誘いを断る理由は、どこにもなかった。さらにつけ加えると、ドーナルソンの故郷も、マッキャンほどではないものの、アトランタから車で約2時間と近い。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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