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野球賭博を報じた記事に見る、巨人出身メジャーリーガーの認知度

宇根夏樹ベースボール・ライター
中央はマライア・キャリー May 28, 2008(写真:AFLO)

読売ジャイアンツから4人目となる野球賭博の関与者が出たことは、アメリカでも報じられている。3月9日には、以下のようなタイトルの記事がウェブサイトに並んだ。

ウォール・ストリート・ジャーナルは「日本野球がさらなる賭博スキャンダルに揺れている」と題した本郷淳の記事(英語)を掲載した。ヤフー・スポーツのイズリオル・フェアーが書いた記事のタイトルも、文中でウォール・ストリート・ジャーナルから引用しているせいか、よく似ている。「日本の読売ジャイアンツが賭博スキャンダルに揺れている」だ。スポーツ・イラストレイテッドは「読売ジャイアンツの投手が試合に賭けていたことを認めた」だった。

それらと比べると、3月10日にFOXスポーツのアリエル・アロンソンが発表した記事のタイトルは、目を惹いた。

松井秀喜の所属していたチームが日本の賭博スキャンダルに巻き込まれている」

もちろん、松井は賭博とは無関係だ。

だが、日本で読売一筋にプレーした後、メジャーリーガーになった選手は松井だけではない。松井と同じく上原浩治(ボストン・レッドソックス)も、メジャーリーグに来る前はずっと読売にいた。柏田貴史桑田真澄高橋尚成もそうだ。一軍登板はなかったが、村田透(クリーブランド・インディアンス)も、プロ入りから渡米まで読売で過ごした。

柏田、桑田、高橋の3人は、メジャーリーグでは目覚ましい活躍ができなかった。村田はまだメジャーリーグで1登板しかしていない。ただ、上原は違う。特にここ3年は、レッドソックスのクローザーとして毎年20セーブ以上を挙げている。クレイグ・キンブレルの加入により、今シーズンはセットアップに回る予定だが、レッドソックスにとって不可欠な選手であることに変わりはない。

一方、松井が最後にプレーしたのは2012年。もう4年も前のことになる。記事のタイトルは、現役メジャーリーガーの名前を使って「上原浩治の所属していたチームが……」でもよかったはずだ。

上原ではなく松井の名前をタイトル(と冒頭の一文)に挙げたのは、上原よりも松井の方がアメリカにおける印象は強く、認知度も高い――少なくともアロンソンはそう判断した――ということか。

アロンソンが上原のことを失念していたわけではない。記事の最後には「ジャイアンツは日本で最も歴史のあるプロ野球チームで、長らく日本野球界のニューヨーク・ヤンキースと看做されてきた。松井秀喜はこの球団で1993年から2002年までプレーし、現在はボストン・レッドソックスのクローザーである上原浩治も日本時代にキャリアを通じてプレーした」とある。

松井がメジャーリーグの10年間で記録したfWARは+12.9、上原は7年間で+10.9だ(WARは野手と投手を比較できる総合指標。fWARはファングラフス版。rWARはベースボール・リファレンス版)。上原の最終的な数値がどうなるかはまだわからないが、現時点では、年数の違いを考えるとその差は小さく、年平均は上原が凌いでいる。

また、松井も上原もチームのワールドチャンピオン獲得に貢献した。松井は2009年にワールドシリーズMVPを受賞し、上原は2013年にリーグ・チャンピオンシップ・シリーズMVPを手にしている。

2人の印象や認知度に差があるとすれば、松井がキャリアの大半をヤンキースで過ごしたことが大きいのかもしれない(それぞれの日本時代のキャリアが、アメリカでどれくらい知られているのかはわからない)。あるいは、プレーした時期の違いか。松井が野手としては4人目の日本人メジャーリーガーであるのに対し、上原より前にメジャーリーグで投げた日本人投手は20人以上を数える。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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