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オープン戦で全選手最多のホームランを打っても、トップ・プロスペクトの開幕デビューはならず!?

宇根夏樹ベースボール・ライター

クリス・ブライアント(シカゴ・カブス)が打ちまくっている。エキシビション・ゲーム(オープン戦)10試合で本塁打8本と二塁打2本を放ち、スラッシュライン(打率/出塁率/長打率)は.480/.552/1.520。本塁打は2位のJ.D.マルティネス(デトロイト・タイガース)より3本も多い。さらに、記録にはカウントされない「Bゲーム」でも、ブライアントは本塁打を打っている。

ブライアントは2013年のドラフト全体2位指名。2014年はAAとAAAの計138試合で43本塁打――こちらも昨シーズンのマイナーリーグ最多だった――を放ち、スラッシュラインは.325/.438/.661、34二塁打と15盗塁も記録した。2015年のプロスペクト(有望株)・ランキングでは、ベースボール・アメリカ誌とESPNの全体1位、MLB.comの2位、ベースボール・プロスペクタスの5位に挙げられている。

今シーズン、カブスのホットコーナーには、ブライアントの他に、マイク・オルトトミー・ラステラアリスメンディ・アルカンタラも候補におり、昨シーズン、オルトとアルカンタラはメジャーリーグで2桁本塁打を放っているが、3人ともOPS(出塁率+長打率)は.650に届かなかった。また、アルカンタラの本職はミドル・インフィルダー(外野もこなす)で、ラステラはプロでは二塁以外を守ったことがなく、三塁は初挑戦だ。

ブライアントのメジャーデビューに向け、彼自身もチーム状況も、準備は整っているように見える。だが、ブライアントは今シーズンの開幕をAAAで迎えそうだ。

ブライアントが開幕からメジャーリーグで過ごした場合、順調にいけば2020年のオフにFAとなる。一方、開幕当初はマイナーリーグにいて、今シーズンのメジャーリーグ在籍日数(サービス・タイム)が172日未満にとどまれば、FAになるのは2021年のオフだ。

在籍日数は年俸調停権の取得にも影響する。通常であれば、年俸調停の申請権を持つのはメジャーリーグ3年目が終わった時点からFA前までの3度だが、2年目が終わった時点で在籍日数が2年以上3年未満の上位22%に入ると、「スーパー2」として1年早く年俸調停の申請権を得て、その回数は4度に増える。

2008~12年の5年間にドラフト全体3位以内で指名され、すでにメジャーリーガーとなっている10人のなかに、開幕戦でデビューした選手はいない(2013~14年の全体1~3位指名にメジャーデビューしている選手は皆無)。10人中6人のデビュー日は6月に集中している。ブライス・ハーパー(ワシントン・ナショナルズ)とエリック・ホズマー(カンザスシティ・ロイヤルズ)の2人は少し早いが、それでも4月28日と5月6日だ(残り2人は8月以降)。

カブスがブライアントのFAを2020年のオフではなく2021年のオフにしたいのなら、4月5日の開幕から12日間はマイナーリーグで過ごさせるだろう。その場合、ブライアントのメジャーデビューは最短でも開幕10戦目、4月17日のサンディエゴ・パドレス戦となる。カブスが裕福な球団であることを考えると可能性は薄いが、「スーパー2」の回避も計算に入れれば、ブライアントのメジャーデビューは6月以降にずれ込む。

アトランタ・ブレーブスにいたジェイソン・ヘイワード(現セントルイス・カーディナルス)はトップ・プロスペクトながら、2010年の開幕戦でメジャーデビューした。この年、ヘイワードはオールスター・ゲームに選ばれ、新人王投票では2位、MVP投票でも20位に入り、ブレーブスは1ゲーム差でワイルドカードを手にした。

ブレーブスのポストシーズン進出はヘイワードの働きだけによるものではないが、ブレーブスとは逆に、今シーズンのカブスがブライアントのメジャーデビューを遅らせ、チームは開幕ダッシュに失敗してあと一歩のところでポストシーズンを逃せば……。「2015年の初夢――カブスが107年ぶりにワールドシリーズ優勝!!」でも書いたとおり、希望はふくらんでいるだけに、「ビリー・ゴートの呪い(山羊の呪い)」と「バートマン事件」に続き、愛すべき負け犬を見舞った悲劇として、語られることになりかねない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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