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大切な人が死を選んでしまわないように……周りはどう支えるか

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

俳優の三浦春馬さんの突然の訃報は多くの人に衝撃を与え、悼む声は今なお続いています。自死では「なぜ救えなかったのか」と自責の念を抱え一番つらい思いをするのは身近な人たちです。死を考えるほどの悩みを抱えている人は、何かしらサインを発信しているものです。しかし中にはそんなそぶりを見せずかえって元気そうに振る舞う人もいます。自死という悲しい選択を防ぐために、家族や友人、職場の同僚など周りの人は何に注意し、どう振る舞えばよいのか。コロナ禍も重なり、大きなストレスを抱えがちな今、注意すべきサインとその対処法についてご紹介します。

感情を抑えた笑顔の陰でうつ進行も

自死には、健康問題や経済問題、人間関係などさまざまな原因があるとされています。そうした原因で強いストレスを抱え込み心の活気が低下した、うつ状態に注意が必要です。特に心配なのは、周囲から普段「元気な人」と思われていて弱みを見せられない場合です。周りの人に心配をかけてはいけないと感情を抑え、我慢してしまう人も危険度が高いといえます。いつも穏やかでにこやか、と思われているとつらい顔をすることができないものです。診療していて笑顔でお話をなさる方に違和感をおぼえて心理テストをしてみると、うつ状態が進行しているようなことがよくあります。

いつも「強く元気な」仮面をつけて自分の感情を抑え続けていると、いつの間にか自分の感情に気がつかなくなります。失感情症というような状況で、つらい、悲しい、怒っているという感情がわからずマヒしていき、心の活気が低下しうつ状態に陥ります。さらにこうしたことを話し合う場がなく将来の希望が全くないように感じる状態で、死しか選択肢がなくなることで追い込まれていくことが多いといえます。

周りの人が気をつけたい心のサイン

周りの方にまず気を配っていただきたいのは、うつのサインを見逃さないことです。自殺の多くはうつ状態が存在していますので、まずうつ状態を治療することが大事なのです。

まず気をつけたいのは、気分のサインです。

周りからみて普段よりだるそう、ぼんやりしている、ちょっとした頼み事をしにくい雰囲気がある、口数が減って表情が乏しくなったというものです。イライラして怒りっぽくなる人もいます。こうしたサインは、睡眠の質の低下や発熱、体の痛み、胃腸障害などの身体症状からくる場合もあります。

家庭ではおっくうそうにごろごろし、朝なかなか起きてこないことが増えるといった行動のサインとして現れます。また食欲の低下や過食の傾向が出たりします。

コロナ禍により普段のように直接会えないと相手の状態がわかりづらくなります。リモートにより気がつきやすい点としては、例えばビデオ通話で時間を決めて会うような場合に普段は几帳面な人が時間を忘れていたり遅れたりすることが続くような場合です。また画面越しで服装や化粧などのみだしなみ、部屋の様子が乱れていて違和感がある場合などです。普段その方が熱中しているような話題を振っても無関心な様子の場合なども心配です。

対面でマスク越しに表情を見るよりリモートでマスクを外し画面越しに話す方が相手の表情がよく見えるものです。音声だけの電話ではなくスカイプやFaceTime、Messengerなどを利用するのもいいでしょう。

特に気をつけたいのは言葉のサインです。「もう生きているのが疲れた」「自分がいないほうが周りは幸せ」「死にたい」などという言葉を聞いたら赤信号ととらえてください。「死にたいという人は死なない」というのは誤りです。冗談のように話すこともありますが、決して冗談ではないことが多いのです。死にたいと考えている人は誰かに止めてほしいと思い心が揺れているものです。

サインが見えにくい場合がある

人に自分の弱みを見せたくない、という心理が強い場合、気持ちが落ち込むという話は自分から切り出せないことが多いのです。特に仕事上の役割に縛られている場合、つまり「頑張り屋」「弱音を吐かずにやり抜く人」などというイメージで仕事をしてきた方は自分から「つらい」とは言えず自分をさらに追い込んでしまうことがしばしばです。

家庭の中でも身近な人ほど弱音を吐けない場合もあります。身近な人ほど心配をかけたくない、という思いで家でも元気なふりをしてしまい、周りが気づかないこともあります。医師の前でも元気なふりをして「大丈夫」という方もいるくらいです。

もう一つ注意が必要なのは、一見問題が解決したかのように見えてうつ状態が少し良くなってきたとき突然自死してしまうことがあるのです。電話で「元気で大丈夫」と話した直後に自死が起こる場合もあり、「少し良くなってさばさばした様子」に見えるときにリスクが高いということがあります。

まず声がけしメッセージをおくる

身近な人にこうした異変を感じたら、まず声がけをしてみるのがいいと思います。自分からは言い出せなかった方も、周りからちょっとした声がけをされることで、声をあげるきっかけになることがあります。

その際“上から目線”にならないよう注意してください。いきなり「何か変だから病院に行くように」などと言われても受け入れられないでしょう。例えば

◎自分は最近忙しいけど、そちらはどう? 疲れていない?

◎暑かったり涼しくなったりで疲れるよね。体調どうですか?

というように共通のテーマをもとに声がけをして話し合うきっかけを作り、必要なときは手伝いますよというメッセージを伝えます。また職場などではお昼に一緒に行こう、あるいは仕事終了後にちょっとお茶を飲もうなどと誘って話をする機会を作ることもいいと思います。

次のような対応はNGです。

■早く元気になってください・頑張ってください

→これはさらにプレッシャーになります

■あなただけじゃない。もっと大変な人もいる

→こう言われたら、つらい気持ちを話せなくなります

■泣いている場合じゃない

→泣くことは、感情を表現して気持ちを楽にする方法です

また言葉のサインに気づいたとき、聞かなかったふりをして無視したり話をそらしたり、「そんなことは言わないで」と拒否したりせずに、そう思うのは心のエネルギーがなくなっているからだと伝え、受診につなげてください。

専門家や相談窓口につなげる

身体が不調のときはすぐに病院で診てもらおうとする人でも、心の不調での受診はハードルが高いのが現状です。ですからまずは体調をきっかけに受診をしていただくと円滑にサポートに結びつくと思われます。

うつ状態で心の活気が低下している場合、特に普段「弱音を吐かない元気な人」というイメージの方は、身近な人に相談しにくいものです、そうした場合は第三者で相談に応じてくれる専門家を見つけその方につなぐことが大事です。自分一人で何とかしようと頑張るのはリスクがあります。特に自傷行為の危険があるときなどは、まず信頼できる仲間でチームを組んで声がけをし、すぐに精神保健の専門家につなぐことが大事です。悩みを抱えた人が利用できる相談窓口など、必要な情報を調べ教えてあげる情報支援も大事です。抱え込むのではなく「支援につなぐ」ということを念頭になさってください。

また心の不調のご家族を持つ方たちへのサポートも大事です。周りの家族が心の負担を背負うことがあります。相手に自分のつらさを話すことができなくなり自分が疲れることが多いのです。ご家族自身も相談窓口などを利用して、心の負担を軽くしていただきたいと思います。

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博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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