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三浦春馬さん突然の訃報 報道を見てつらい人の心の回復法

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

俳優の三浦春馬さんが亡くなったというニュースは多くの人に衝撃を与えました。SNS上では「ショックで夜眠れなくなった」「気持ちが落ち込んだ」といった書き込みも数多く見られました。身近な人の突然の死は大きな衝撃ですが、実際に面識がなくても普段テレビなどで見て身近に感じていた人の死も大きな衝撃になります。そこで身近な人の自死という衝撃を受けたとき、どのように自分の心を癒すかについて考えてみたいと思います。

大切な人との死別は大きな衝撃であることは間違いがありません。しかしその死が、病気によるものか、事故によるものか、犯罪によるものか、自死によるものかによっても残された人への衝撃は異なります。中でも自死による死別は、とりわけ大きな衝撃になることが多くの研究で示されています。

自死による死別 4つのストレス

自死による死別が肉親などごく身近な人であった場合は、大きく4つのストレスが起こります。第1に大事な人を失ったという衝撃、第2に自死を止められなかったという自責の感情、第3に恥の感情と社会的偏見、第4にネガティブな同一化です。

自死には必ず前兆がみられるとされています。死にたい、でもそれを誰かに止めてほしい、という思いから周囲にそれとなくほのめかしたりするわけですが、それに気がつかなかったということで身近な人たちは、自責の念に駆られ、また世間から「なぜ止められなかったのだ」と非難の視線を浴びることがあります。

たとえ前兆に気がつき万全の対策をとっても止められないことはあることを知ってほしいと思います。以前、医学的な知識もお持ちで対策を十分にとっている方の息子さんが自死したことがありました。自宅で母親が注意して気を配っていたのですが、宅配便の対応をしていたごくわずかの時間に窓から飛び降りたのです。止められなかった周りの方を責めることはできません。

面識なくても「同一化」リスク

さまざまな調査によると、家族が自死した場合、残された家族がうつ状態に陥ったり、身体的不調をきたしたり、自分も死にたくなったりすることが多くなるとされています。自死した人の気持ちや状況を想像し自分のことであるかのような思いに陥る状態が「ネガティブな同一化」です。

実際に面識がなくても、有名人など身近に感じている人の自死の場合もリスクはあります。三浦さんの報道を見て「体調が悪い」「気持ちが滅入る」といった心身の変調を感じる方は、ネガティブな同一化に陥っている可能性があります。

言葉と身体の表現で心の回復を

そのような場合の対処法として、まずは「言語化」をお勧めします。言葉にしてつらい気持ちや悲しい思いを表現することが大事な癒しへの一歩になります。今回Twitterなどで三浦さんの死に関してつらい気持ちを表現した方が多かったことは、つらさを表現しなければいられないという思いもあったと思われます。

ただしこれは癒しになる一方で、ネガティブな同一化を増幅させる方向に進むことも否定できないのです。SNSの書き込みは、つらい気持ちを表現しあい無意識のうちにお互いをサポートしあおうとする場合は癒しになるのですが、ネガティブなスパイラルに入りそれが増幅されると、さらに気分が落ち込む可能性も否定できません。SNS を利用したあと気持ちが落ち込む場合は、ネガティブな同一化のリスクがあるのでしばらく投稿も閲覧も控えましょう。

また、ご自分の気分のチェックをしてください。10が最高に精神的に元気、1が最低としたとき、毎日のほとんどが3以下という状態が10日以上続く場合は、心療内科などを受診してください。そこまでひどくはないが5程度が続いている場合は、以下の対策をとってください。

  1. テレビや新聞、インターネット上の関連ニュースをしばらく遮断する
  2. 深呼吸とストレッチを朝、昼、夜の決まった時間に5~6分ずつ行う
  3. 散歩したり運動したりする時間を毎日20分ほど作る
  4. 休日などには、家族や友人とジョギングや散歩をする時間を作る
  5. 自分の好きな音楽に合わせてシェーカーを振る、ダンスをする
  6. 料理づくりに集中する
  7. オンライン食事会などで、話すだけでなく「食べる」ことを楽しむ

つらい感情を言葉だけでなく身体を通して表現すること、またネガティブな感情が入り込めないように集中することなどは、心の回復に有効です。ネガティブな感情に引きずり込まれてその波に入らない時間を作ることをなさってください。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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