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新幹線で成り立っているJR東日本「黒字の路線で赤字の路線を支えたくない」ならば見直すべきポイントとは

梅原淳鉄道ジャーナリスト
利用の少ない路線として挙げられた久留里線を走るディーゼルカー。筆者撮影

人々の注目を集めるJR東日本発表の平均通過人員

 JR東日本は2023(令和5)年7月7日に2022(令和4)年度の利用状況を公開した。公表されたデータは「各駅の乗車人員」「新幹線駅別乗車人員」「BRT(バス高速輸送システム)駅別乗車人員」「路線別ご利用状況」だ。

 なかでも注目されるのは「路線別ご利用状況」で示された平均通過人員である。平均通過人員とは路線1km当たり1日何人の利用者が乗車しているかを指す。要は利用の多い路線はどこか、その反対に閑散路線はどこかを知る指標となるのだ。次の公式で求められる。

平均通過人員(人/日)=1日平均の旅客数(人)×旅客1人当たりの平均乗車距離(km)÷路線の営業距離

 不思議なことにJR東日本は例年、全路線を合わせた平均通過人員を発表していない。同社発表の2022年度の1日平均の旅客人キロ(旅客数に旅客1 人平均の乗車距離を乗じた数値)は2億9445万7534人キロ、総営業距離は7401.7km(BRTの区間を含む)なので、1日3万9782人と推察される。国土交通省の「鉄道統計年報」によると、コロナ禍の直撃を受けた2020(令和2)年度は1日3万1721人、その前年度の2019(令和元)年度は1日4万9976人であった。2022年度の実績は2019年度の水準には届かなかったものの、2020年度の危機的な状況からは脱したと言ってよい。

 平均通過人員が最も多かったのは1日87万2143人の山手線(品川-新宿-田端間)で、JR東日本だけでなく例年全国最多を記録している路線だ。連日の混雑にうんざりしている方々には恐縮ながら、2019年度の1日112万1254人を最後に100万人台を切ったままで、JR東日本としては今後の動向が気がかりであろう。

 一方で、平均通過人員が少ない路線の動向に関してもJR東日本は片時も忘れられないはずだ。同社は2022年7月28日に「ご利用の少ない線区の経営情報を開示します」と題して「2019年度に平均通過人員が1日2000人未満の35路線66区間」(以下、35路線66区間)を対象に収支状況を公表した。「持続可能な交通体系について建設的な議論をさせていただく」ことを目的としていて、要は同社はあまり乗ってくれないし、儲からないので手放したいと言っているのだ。35路線66区間のうち、2022年度の平均通過人員が少ない上位10路線・区間を表1にまとめておいたのでご覧いただきたい。

表1 JR東日本が「ご利用の少ない線区」として掲げた35路線66区間のうち、2022年度の平均通過人員が少ない上位10路線・区間の状況を示した。 画像制作:Yahoo! JAPAN

「平均通過人員が少ない」=「赤字」ではあるけれど……

 平均通過人員が1日2000人未満の路線・区間が一律持続不可能かについては議論の余地はある。だが、経営状況が芳しくないことは確かだ。

 JR東日本によると、35路線66区間すべてで営業損失を計上しており、その総額は694億円に達していた。営業距離は合わせて2218.2kmであるので、営業距離1km当たりの営業損失は約3100万円となる。

 どの路線・区間の赤字が大きいのかとよく聞かれるが、営業距離が異なるので比べても意味はない。営業距離1km当たりの営業損失で比べると、最も多かったのは津軽線青森-中小国(なかおぐに)間の6900万円で平均通過人員は1日516人、最も少なかったのは気仙沼線前谷地(まえやち)-柳津間の1300万円で平均通過人員は200人である。

35路線66区間中営業距離1km当たりの赤字が最多の津軽線青森-中小国間。青函トンネルを通る重い貨物列車が多数通るため線路の保守費用がかさむ。新中小国信号場 2014年6月30日に筆者撮影
35路線66区間中営業距離1km当たりの赤字が最多の津軽線青森-中小国間。青函トンネルを通る重い貨物列車が多数通るため線路の保守費用がかさむ。新中小国信号場 2014年6月30日に筆者撮影

 津軽線や気仙沼線の例のように平均通過人員と営業距離1km当たりの営業損失とは必ずしも連動していない。さらに言うと、平均通過人員が多い路線・区間ほど1km当たりの営業損失は増えがちだ。35路線66区間のなかで平均通過人員が1日1500人以上の路線・区間は五能線五所川原-川部間(1日1507人)、外房線勝浦-安房鴨川間(同1543人)、内房線館山-安房鴨川間(同1596人)、羽越線村上-鶴岡間(同1696人)、奥羽線湯沢-大曲間(同1704人)、男鹿線追分-男鹿間(同1781人)、磐越西線(ばんえつさいせん)会津若松-喜多方間(同1790人)の7路線7区間であった。これらすべての営業距離1km当たりの営業損失は35路線66区間全体の約3100万円よりも多かったのである。平均通過人員が多いのでその分多数の列車を走らせる必要があり、運転費を中心に支出が増えていく。また五能線と男鹿線とを除いて架線が張られた電化区間であるので、この分の維持費もかさむ。もっともJR東日本は磐越西線会津若松-喜多方間を電化区間として維持できないとして架線などを撤去すると報じられている。

 一方、JR東日本全路線の2019年度の営業収支はというと、7202億円の営業利益を計上していた。営業収入は旅客から得られた運賃・料金収入だけで雑収入などは含まず、営業費用は直接費用だけで本社部門の管理費用などを含まない。同社の全路線の営業距離は先述のとおり7401.7kmであるので、営業距離1km当たり約9700万円の営業利益を出している計算だ。

 35路線66区間の2022年度の平均通過人員はさらに減ってしまった。只見線の会津川口-会津坂下間が1日179人から182人、同じく只見線の小出-只見間が1日101人から107人へと増加しただけで残りはすべて2019年度の数値を下回っている。減少率が最も大きかったのは山田線上米内(かみよない)-宮古間の58.4%、次いで陸羽西線(りくうさいせん)新庄-余目(あまるめ)間の56.9%、五能線(ごのうせん)能代-深浦間の48.2%と続く。

 なお、只見線で平均通過人員が増加したのは、長らく災害で不通となっていた只見-会津川口間27.6kmが2022(令和4)年10月1日に運転再開となり、観光客を中心に利用者が増えたからだ。その只見-会津川口間の2022年度半年分の平均通過人員は1日平均79人と極めて少ない。だが、この区間の線路や施設にまつわる固定費は新たに保有者となった福島県が負担するので、JR東日本にとって「持続可能な交通体系」への転換を果たしたと言える。

 2019年度と比較して平均通過人員が減少した結果、2022年度には1日2000人を下回ってしまった路線・区間が表2のとおり新たに3路線4区間加わった。2022年度はコロナ禍から復帰の途中段階であり、数値に一喜一憂しないほうがよいと筆者(梅原淳)は考える。そうは言っても2019年の時点で多額の営業損失を計上しているので、廃止または費用の一部または全額を沿線自治体に負担してもらうといった方策を立てなければ今後立ちゆかなくなることも確かだ。

表2 2019年度と比較して2022年度の平均通過人員が1日2000人未満となってしまった3路線4区間。幹線の羽越線の2区間が該当しているのが印象的だ。画像制作:Yahoo! JAPAN

 平均乗車距離にもよるが特に平均通過人員が1日500人未満の路線・区間では、1日の旅客数が1000人を切っていると考えられる。仮に旅客数が1日1000人だとしても、1両当たり定員100人の車両が1日に5往復、10本運行すればまかなえてしまう。輸送需要が朝のラッシュ時に集中しているといった事情でもない限り、JR東日本が言うように持続させるのは難しい。

JR東日本の鉄道事業は新幹線で成り立っている

 残念ながら、平均通過人員1日2000人未満の路線・区間をすべて整理したからといってJR東日本の苦悩の種は消えないであろう。平均通過人員が多いからといって皆均等に営業利益を上げているとは限らないと筆者は考えるからだ。それは同社がどの路線・区間で営業収入を上げているかを調べるとおおよそわかる。

 JR東日本は2019年度に1兆7928億円の営業収入を計上した。四捨五入の関係で合わないが、内訳はフル規格である東北、上越、北陸の各新幹線が5655億円、フル規格の新幹線以外の在来線は1兆2272億円だ。同社は平均通過人員が1日2000人以上の路線・区間の営業収支を公開していない。しかも、新幹線、在来線の別という大きな分け方でもだ。そこで、筆者で試算してみたい。

 用いる指標はJR東日本が鉄道輸送量として公開した旅客人キロである。先述のとおり、旅客人キロとは旅客数に旅客1人平均の乗車距離を乗じた数値を指す。2019年度の場合、旅客人キロは合わせて1353億8500万人キロで、新幹線は225億2400万人キロ、在来線は1128億6100万人キロであった。

 いま挙げた1兆7928億円を1353億8500万人キロで割ると、旅客1人1km乗車時の営業収入が13.24円であることがわかる。内訳を見ると新幹線は25.11円、在来線は10.87円だ。旅客全員から特急料金を徴収する新幹線の収益力は高い。

 営業費用は新幹線と在来線とで分けられていないので、総額を示すにとどまる。直接費用は合わせて1兆0726億円であったから、旅客1人1km乗車時の営業費用は7.92円と求められた。

 新幹線と在来線とでは列車のスピードが異なるので旅客1人1km乗車時の営業費用が同じとは考えづらい。その一方で、新幹線は徹底的に合理化された鉄道であるので利益率は高く、国鉄時代の統計でも営業収入に占める営業費用の割合は4割から半数程度であった。したがって、JR東日本の旅客1人1km乗車時の営業費用は一律7.92円とみなしてもよいであろう。

 以上から旅客1人1km乗車時の営業利益は全体で5.32円、新幹線が17.19円、在来線が2.95円となる。これらにそれぞれの旅客人キロを乗じると営業利益が求められ、正確を期していままで四捨五入していた数値ではなく実際の数値を用いて計算すると内訳は新幹線が3871億円、在来線が3331億円だ。もうお気づきであろう。そう、JR東日本が新幹線から得ていると考えられる3871億円の営業利益は全体の7202億円の54%と、過半数を占めているのだ。しかも、新幹線の営業距離は合わせて1194.2kmと全体の16パーセントに過ぎない。

定期券の営業収支は極めて悪いと目される

 在来線の営業利益をさらに細かく見ていくと、衝撃的な事実を思い知らされる。JR東日本が2019年度に在来線の定期券で上げた営業収入は4835億円であった。旅客人キロは747億6600万人キロであったから、旅客1人1km乗車時の営業収入は6.47円となる。もうおわかりのとおり、定期券を携えた旅客が1人1km乗車したときに1.45円の赤字が生じるのだ。したがって、営業損失は1084億円となる。

 一方、在来線で定期券以外の普通乗車券などで上げた営業収入は7436億円、このときの旅客人キロは380億9400万人キロであった。旅客1人1km乗車時の営業収入は19.52円であったから旅客1人1km乗車したときの営業利益は11.60円となり、営業利益は4419億円であったと考えられる。ここから定期券の旅客で生じた営業損失の1084億円を差し引けば在来線の営業利益は3335億円となった。内訳は四捨五入の関係で先ほどの内訳の3331億円と合わない。

 定期券には通勤定期と通学定期とがある。JR東日本は在来線の通勤定期に関する営業収入や旅客人キロを明らかにしていない。その反面、国の統計では新幹線を含めた通勤定期の営業収入や旅客人キロが公表されている。新幹線の定期券の旅客人キロは19億900万人キロと定期券全体の2.5%、営業収入は258億円とやはり定期券全体の5%と無視してよいほどなので、国の統計を使用して求めてみよう。

 通勤定期の旅客人キロは621億1300万人キロ、営業収入は4439億円であった。つまり通勤定期の旅客が1人1km乗車したときの営業収入は7.15円で、0.77円の赤字、営業損失は合わせて478億円と思われるのだ。

 JR東日本の旅客人キロに占める通勤定期の旅客の割合は最も多く、46%を占める。にもかかわらず、営業損失が生じているかまたは利益率が低いと思われるのは割引率が大きいからだ。JR東日本の幹線を大人が10km乗車したとき、1カ月の通勤定期の割引率は51%となる。ちなみに、同様の条件で高校生の通学定期の割引率を調べると64%となる。通学定期は福祉、教育の目的も兼ね備えているので割引率が大きいのはある程度やむを得ない。しかし、通勤定期の割引率は過大に思えてしまう。実を言うと通勤定期の割引率は他のJR旅客会社も同じなので、いま全国のJR旅客会社で起きている問題の根本的な原因は皆同じである。今回はJR東日本ばかりやり玉に挙げるが、ご容赦いただきたい。

 同様の条件で関東、関西の代表的な大手私鉄の通勤定期の割引率を求めると、東急電鉄は45%、阪急電鉄は41%となる。地下鉄ではさらに割引率は下がり、東京メトロは35%、大阪メトロは37%だ。

 東急電鉄の通勤定期の旅客の2019年度の営業収支を見てみよう。旅客人キロは59億300万人キロ、営業収入は589億円であったから、旅客1人1km乗車時の営業収入は9.98円だ。一方で、旅客人キロの合計は112億8100万人キロ、営業費用は769億円であったから、旅客1人1km乗車時の営業費用は6.82円で、3.16円の営業利益が生じていた。通勤定期の割引率がJR東日本と比べて6ポイント低いだけでこれだけ変わるのである。

黒字の路線で赤字の路線を支えたくない、ならば定期券は……

 国鉄と呼ばれた公共企業体の日本国有鉄道が1987(昭和62)年4月1日に分割民営化され、JR東日本をはじめとするJR旅客会社6社に鉄道事業が承継された際、国は在来線をJR各社に無償で譲渡する代わりに、鉄道事業を極力続けるよう求めた。その代わりに平均通過人員4000人未満の路線は一部の例外を除いてJR各社から切り離し、第三セクター鉄道への転換または廃止を認めている。

 国はJR旅客会社が安定して利益を計上できるよう、JR東日本、JR東海、JR西日本のいわゆる本州3社には高収益路線をバランスよく配置した。そして、JR北海道、JR四国、JR九州のいわゆる3島会社には経営安定基金を創設し、その運用利回りで営業損失を補う仕組みを講じている。

 平均通過人員の低下を理由にJR東日本が路線・区間の廃止を求めるのは国鉄分割民営化の建前から言っておかしい。利益を上げられる在来線の路線を含めて無償で譲り受けて鉄道事業を展開しているからだ。廃止にしたい路線・区間があるのならば、国鉄分割民営化時の価格で買い取ってからでないと困る。

 あまり四角四面に言っても角が立つ。社会情勢が大きく変化し、現状の平均通過人員では鉄道として維持できない面もあるのは理解できる。利用者の少ない路線で生じた損失を利用者の多い路線で上げた利益で補填するという国鉄分割民営化時の考え方も修正しなければならないであろう。

 ならば、定期券で生じた損失を新幹線の利用者から上げた利益で補う構造も改めるべきである。現在のJR東日本のビジネスモデルが崩れるかもしれないからだ。

 中央線の三鷹-立川間は国鉄時代から複々線の計画が立てられ、いまも混雑は著しいが、JR東日本は事業を始めるそぶりを全く見せていない。複々線がめでたく完成したとしても恩恵を受けるのは大多数が定期券の利用者であるからだと容易に推測できる。

 仮にJR東日本が平均通過人員が1日2000人未満の路線・区間をすべて廃止にしたとして、定期券の利用者の割合の高い路線・区間の営業損失は解消されない。特急券などの料金収入や、貨物列車が乗り入れてJR貨物からの線路使用料が得られない路線の場合、首都圏の通勤路線であっても赤字の可能性があると考えられる。『2019(平成31・令和元)年版 都市・地域交通年報』に掲載の2017(平成29)年度の調査によると、定期券の利用者の割合が70%以上の路線として71%の五日市線(2022年度の平均通過人員は1日2万1890人)、70%の赤羽線(同62万9849人)が挙げられる。まさかとは思うが、もしも1日約63万人もの平均通過人員を記録している赤羽線が赤字であったとしたら、平均通過人員が1日2000人未満の沿線の人たち、それから先に挙げた大手私鉄、地下鉄関係者は卒倒するに違いない。

五日市線は拝島-武蔵五日市間11.1kmを結ぶ首都圏の通勤路線だ。1日平均の利用者数は4万4378人(2017年度)だが、赤字の可能性は捨てきれない。
五日市線は拝島-武蔵五日市間11.1kmを結ぶ首都圏の通勤路線だ。1日平均の利用者数は4万4378人(2017年度)だが、赤字の可能性は捨てきれない。写真:イメージマート

 値上げラッシュで通勤定期の値上げなどもってのほかという意見もごもっともだ。しかし、利用者に落ち度がないのに赤字だからといってサービスがよくならない、あるいは今後悪化するとみられるのはさらに解せない。JR東日本は通勤定期の割引率をただちに大手私鉄並みに引き下げるべきで、国もJR東日本による運賃改定の申請を速やかに認めるべきである。平均通過人員の極端に少ない路線・区間の見直しは、営業収支がどのように変化するかを見極めてからでも遅くはない。

※2023年7月26日追記 四捨五入の関係で数値が計算と合わない箇所が複数ありましたので、訂正しました。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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