山手線で丸2日間列車が運転されないのはJR化後初

 JR東日本は2021年10月22日(金)の終電後から10月25日(月)の初電前にかけて、山手線渋谷駅に敷かれた内回りの線路を切り換える工事を行う。この工事に伴い、山手線内回りの列車のうち、池袋駅から新宿駅、渋谷駅を経由して大崎駅に至る区間の列車は10月23日(土)、24日(日)の終日にわたってすべて運休となる。

 JR東日本によると、山手線でこれほどの長期間列車が運転されないのは、1987(昭和62)年4月1日に同社が発足してから初めての出来事であるという。筆者が調べたところ、山手線で丸2日間にわたって列車が運休となった例は、国鉄時代の1978(昭和53)年の4月25日・26日以来43年ぶりだ。

 ちなみに、このときは線路切換工事ではない。国鉄の労働組合である国労(国鉄労働者組合)、動労(国鉄動力車労働組合)は経営陣に対して賃上げを求めて4月25日から96時間(4日間)のストライキに突入し、4月27日深夜零時までに労使間で妥結した結果、27日初電から列車の運転が再開されたのである。

渋谷駅の線路切換工事に伴う山手線での運休や変更の状況。JR東日本2021年7月19日付けニュースリリース、「渋谷駅 山手線内回り線路切換工事(ホーム拡幅)に伴う列車の運休について」、1ページより
渋谷駅の線路切換工事に伴う山手線での運休や変更の状況。JR東日本2021年7月19日付けニュースリリース、「渋谷駅 山手線内回り線路切換工事(ホーム拡幅)に伴う列車の運休について」、1ページより

10月23日・24日、山手線では運休や大幅な変更が生じる

 渋谷駅の線路切換工事に伴い、池袋-大崎間の内回りの列車が運休となると同時に、内回りの大崎駅から東京駅、上野駅を経由して池袋駅に至る区間、それから外回りの一部区間も影響を受ける。JR東日本によると、内回り、外回りとも通常は土曜日、日曜日とも日中は列車が約3~4分間隔で運転されているうち、10月23日・24日の両日に運転間隔が変わらないのは外回りの池袋駅から上野駅、東京駅を経由して大崎駅までの区間だけだという。内回りの大崎駅から東京駅、上野駅を経由して池袋駅までの区間は約10分間隔、外回りの大崎駅から渋谷駅、新宿駅を経由して池袋駅までの区間が約4~7分間隔でそれぞれ列車が運転されるという。

 なお、内回り、外回りとも山手線では大崎-渋谷-新宿-池袋間では列車の本数が大幅に減る。そこで救済措置としてJR東日本は埼京線・りんかい線新木場-大崎-池袋-赤羽間の列車を増発し、大崎駅で埼京線に乗り入れる相鉄線からの直通列車(通常は新宿駅発着)を延長して池袋駅発着とするという。さらに、品川-新宿間には途中恵比寿、渋谷の両駅のみに停車する臨時列車が1時間当たり1、2往復運転される。臨時列車が走る線路は「山手貨物線」とのことだ。

 以上はJR東日本が2021年7月19日に公表したニュースリリース「渋谷駅 山手線内回り線路切換工事(ホーム拡幅)に伴う列車の運休について」に記された事項である。本来ならばこのニュースリリースで人々を納得させなければならないところ、わかりづらい点がいくつかあり、現に筆者のもとにはテレビ各局から問い合わせが来た。質問は次の3つに集約される。

  • 質問1 運休となる内回りの列車は池袋駅から渋谷駅までなのに、なぜ内回りの他の区間の列車、そして外回りの一部の区間の列車まで影響を受けるのか
  • 質問2 そもそも渋谷駅の線路切換工事なのだから、内回りの運休となる区間はもっと短縮、たとえば原宿駅から恵比寿駅までという具合になぜできないのか
  • 質問3 品川-新宿間に運転される臨時列車の走る「山手貨物線」とは何なのか、そしてどこにあるのか

 いま挙げた3項目は鉄道に詳しい人であればなるほど理解できるかもしれないけれども、大多数の人々には理由を示さないとわからないことばかりだ。JR東日本がニュースリリースに理由を書けばよかったものの、かえって理解しづらくなると考えたのかもしれない。そこで、これから解説していこう。

質問1の答えは……

 まずは質問1からだ。内回りの大崎-東京-池袋間、そして外回りの池袋-東京-大崎間、同じく外回りの大崎-新宿-池袋間と、3つに分けて説明したい。

・内回りの大崎-東京-池袋間

 日中に列車の運転間隔が約10分と、普段の2倍以上になる理由は大崎駅と池袋駅とで電車が折り返して運転するための作業が必要となるからだ。

 最初の理由から見ていこう。外回りの列車からの折り返しに当たり、車掌は旅客がすべて降りたかどうかを確かめる。どんなに早くても1分は要するであろう。

大崎駅ではホーム、恐らくは2番ホームに停車したまま折り返せるからよい。大崎駅では外回り用の4番線に到着した後、いったん車庫である東京総合車両センター方面へと回送され、車庫で向きを変えた後に内回り用の1番線または2番線に入線して再び向きを変えて折り返す。一連の作業には時間を要するものの、大崎駅から車庫に入庫する電車と、車庫から大崎駅に据え付けられる電車とを分けることができるので、折り返して運転するための時間はそう長くはならない。だが、池袋駅での折り返しはいったん目白駅方面に進み、内回りの線路と外回りの線路との間にYの字状に敷かれた側線に入らなければならず、その分時間がかかってしまう。

※事前の予想とは異なり、大崎駅はホーム上で折り返し可能な構造ではなく、10月23日・24日に筆者が見聞きしたところでは、上記のような折り返し方法が採られていました。おわびして訂正いたします。なお、池袋駅での折り返し方法は事前の記述どおりでした。

 山手線の電車は1両当たり20m、11両編成を組むので少なくとも長さ220mはある側線に進入し、進行方向を変える作業を行った後、側線から池袋駅のホームへと向かう時間を加える必要が生じる。電車が仮に時速25kmで走行するとして、側線への進入には最低32秒はかかってしまう。実際には加速やブレーキの時間があるから、1分と見ておくとよい。

 側線に到着した電車が向きを変える際、運転士は長さ220mの電車を歩き、先頭車から最後部まで移動する必要が生じる。仮に運転士が時速4kmで歩いたとして3分18秒だ。新たに先頭車となった電車にたどり着いた運転士がすぐに電車を出発させたとして、池袋駅のホームに再び進入するにはやはり1分必要だ。

 以上を合わせると1分+1分+3分18秒+1分で6分18秒となり、現実には池袋駅で旅客を乗せる時間などでさらに2分程度加えておくべきであるから、折り返しに要する時間は8分18秒となる。理論上は内回りの大崎-東京-池袋間の列車をこの間隔で運転できるかもしれないが、乗務員をはじめ、信号機やポイントと呼ばれる分岐器の転てつ器を切り換える担当者は普段行っていない作業であるので、迅速な実施を求めるのは酷だ。さらに余裕を加えて約10分間隔としたのは妥当であると筆者は考える。

・外回りの池袋-東京-大崎間

 約3~4分間隔と普段と運転間隔は変わりはない。しかし、用いられる電車の素性は通常とは大きく異なる。池袋駅では内回りの大崎-東京-池袋間を走ってこの駅で折り返しとなった電車が10分間隔で混じるからだ。

 1時間に運転される列車の本数で考えるとわかりやすいかもしれない。約3~4分間隔とは1時間に列車が15~20本運転され、10分間隔とは1時間に列車が6本運転されることをそれぞれ意味する。したがって、外回りの池袋-東京-大崎間の列車のうち、普段と同じく外回りの線路を走り続ける列車の本数は1時間当たり9~14本だ。この本数が次に説明する外回りの大崎-新宿-池袋間の列車の本数と等しいと考えられる。

・外回りの大崎-新宿-池袋間

 渋谷駅の線路切換工事は内回りの線路で実施されているのに、なぜ外回りの大崎-新宿-池袋間の列車が減ってしまうのか。その答えは、外回りの池袋-東京-大崎間を走っていた列車のうち、10分に1本の列車は大崎駅で折り返して内回りの大崎-東京-池袋間の列車へと変身して姿を消してしまうからである。

 例によってJR東日本から示された列車の運転間隔を1時間当たりの列車の本数に置き換えて考えてみよう。通常であれば、外回りの大崎-新宿-池袋間も外回りの池袋-東京-大崎間と同様に約3~4分間隔で列車がやって来るので、1時間に列車が15~20本運転されている。ところが、10月23日・24日には約4~7分間隔で運転されるという。つまり、1時間当たり9~15本だ。

 外回りの池袋-東京-大崎間を走っていた列車のうち、大崎駅では10分間隔、要は1時間当たり6本の列車が内回りの列車へと折り返してしまい、大崎-新宿-池袋間を走らない。先ほどの繰り返しとなるが、1時間当たり15~20本運転されている列車から6本を差し引いて、1時間当たりの列車の本数は9~14本となる。ということは列車の運転間隔は約4~7分となってJR東日本の説明は正しい。

 厳密に言うと「約4分」とは言っても4分ちょうどで列車がやって来るのではなく、4分17秒である。17秒となると結構長く感じる人も多いであろう。余裕をもって出かけることを勧めたい。

質問2の答えは……

 続いて質問2、なぜ内回りの運休区間が池袋-新宿-大崎となるかを解説しよう。答えは一言で示すことができる。列車を折り返して運転するための設備が大崎駅と池袋駅とにしか存在しないからだ。

 言うまでもなく、山手線は日ごろ環状運転を行っていて、途中の駅で折り返して反対方向の列車となる列車はまずない。あるとしても大崎駅、池袋駅の両駅を最寄り駅とする車庫に出入りするときだけである。

 そもそも山手線には内回り、外回りとも列車が1日に約300本ずつ運転されているので、こうした列車の間隙を縫って折り返しの列車を割り込ませることは難しい。もしも山手線のどこかで人身事故など、何か障害となる場所が発生しても、全線で列車の運転をストップさせるほうが復旧作業は楽だし、復旧に要する時間も早くなる。という次第で、車庫への出入用を除いて山手線の各駅では折り返し用の設備は必要ないし、使用する機会もまずない。今回のようなケースは非常に珍しいのだ。

質問3の答えは……

 最後に質問3の「山手貨物線」とは何か、そしてどこに敷かれているかである。結論から言うと、山手貨物線とは品川駅と田端駅の手前までとの間にあり、山手線の電車が走る線路の隣に敷かれた複線の線路を指す。

 貨物線というだけに貨物列車が運転されていると同時に、普段おなじみの列車も運転されている。少々くどいかもしれないが、品川駅から大崎駅の手前までは特急「成田エクスプレス」や横須賀線の列車、大崎駅の手前から大崎駅を出てすぐまでは特急「成田エクスプレス」、大崎駅を出てすぐから新宿駅を経て池袋駅までは特急「成田エクスプレス」や埼京線、湘南新宿ラインの列車、池袋駅から田端駅の手前までは特急「成田エクスプレス」や湘南新宿ラインの列車がそれぞれ走るという具合だ。

 臨時列車は品川-新宿間を走るので、JR東日本は山手貨物線ではなく、「埼京線の電車などが走る線路」とでも言えばわかりやすかったのかもしれない。しかし、ほかにも多彩な種類の列車が走っていることで正確を期したのか、専門用語とも言うべき山手貨物線を用いてしまってかえって戸惑わせてしまったようだ。

 蛇足ながら、筆者が回答を担当するNHKラジオ第1「子ども科学電話相談」の2021年10月17日放送分で、偶然にも「山手線はなぜ丸いのか」、つまりなぜ環状運転を行っているのかという質問が寄せられた。筆者の答えは次のとおりで、大量の列車を効率的に運転するにはどこまで行っても終着駅がなく、折り返す必要のない環状運転が最も適しているからというものである。そして、今回の線路工事切換に伴う運転計画を見ると、改めて環状運転の威力をまざまざと実感した。何にせよ、渋谷駅の線路切換工事が無事に終了し、10月25日の初電からいつもどおりに山手線の列車が運転されることを祈りたい。