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秋の休日、東京の旅行者はどこへ行くのか・どこから来るのか――鉄道データを調べてみた

梅原淳鉄道ジャーナリスト
京都タワーをバックに走る東海道新幹線の列車。東京から京都への観光客の乗車も多い(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

東京発着の旅行も対象でGo Toトラベルキャンペーンは佳境に

 国が実施しているGo Toトラベルキャンペーンに10月1日から東京都が加えられた。7月22日の旅行分から開始されたこのキャンペーンは、国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の35%を割引、加えて10月1日からは旅行代金の15%相当分の地域共通クーポンが旅行先で使えるというもので、国からの支援額は1人1泊当たり2万円が上限だ。

 Go Toトラベルキャンペーンの対象となる旅行は観光だけでなく、仕事でも冠婚葬祭でも何でもよいらしい。だが、観光庁が実施している点からも、やはり観光旅行の促進を主眼としているのは確実だ。いずれにせよ、新型コロナウイルス感染症の拡大で低迷する運輸・旅行業界への起爆剤となることが期待される。

 今回、東京都居住者の旅行、そして東京都内向けの旅行が対象となったことで、ここのところ利用者数の低迷が続いていた鉄道業界も久々に活気づいた。何しろ、2017(平成29)年の時点で東京都の人口は1372万人と日本の人口1億2671万人のうち11%を占めており、全国各地に旅行に出かけてもらえれば利用者数の大幅な増加に結びつくからだ。また、東京都は全国屈指の旅行先の一つであるので、キャンペーンの対象となれば他の道府県から東京都へと人々が大挙して押し寄せるのは間違いない。

 こうなると気になるのは東京都発着の観光客の動向だ。東京都内から鉄道で観光旅行に出かけている人たちの数とその目的地。そして、他の道府県から東京都を鉄道で観光に訪れる人たちの数と住んでいるところ――。実はいま挙げたデータは国の「全国幹線旅客純流動調査」によって明らかにされている。5年ごとに行われるこの調査では、全国を207に分けた生活圏ゾーン相互の移動状況を、利用した交通機関や旅行の目的別に集計しているからだ。

 この調査の言う鉄道による移動とは、通勤や通学目的を除いた新幹線や特急列車の利用を示している。なお、隣接する各都道府県への移動、東京都の場合は埼玉・千葉・神奈川各県の合わせて12ゾーンへの移動状況については通勤や通学目的の人数を除外することが難しいらしく、集計されていない。加えて、なぜか最新版の2015(平成27)年度の統計では旅行の目的がまとめられていなかったので、今回は2010(平成22)年度の調査をもとに東京都発着の鉄道による観光旅行の動向を探ってみた。なお、東京都は3ゾーン(23区、多摩、大島)に分けられているが、ここでは「東京23区」のデータを見ていきたい。

東京23区在住者は鉄道でどこに観光旅行に出かけたか

 国が2010年の秋のとある日曜日に調査したところ、東京23区に住んでいる人のうち3万1956人が主に鉄道を利用して観光旅行に出かけたという。同じ日に全国で鉄道を利用した観光客は26万7531人であったから、東京23区だけで12%を占めている。東京都の人口は全国に対して11%であるから、観光客中に占める東京23区のウエートはより大きい。気になる目的地の上位10傑を挙げておこう。

目的地別の人数と、主な新幹線または特急列車(現在の愛称)は次の通り。

1位 京都府京都ゾーン(京都市) 5227人

  ┗のぞみ、ひかり(ともにJR東海)

2位 静岡県東部ゾーン(熱海市、御殿場市など) 4317人

  ┗ひかり、こだま(ともにJR東海)、サフィール踊り子、踊り子(ともにJR東日本)

3位 宮城県仙台ゾーン(仙台市、塩竃市など) 1628人

  ┗はやぶさ、やまびこ(ともにJR東日本)

4位 大阪府大阪ゾーン(大阪市) 1570人

  ┗のぞみ、ひかり(ともにJR東海)

5位 栃木県日光ゾーン(日光市) 1348人

  ┗けごん、きぬ(ともに東武鉄道)、スペーシアきぬがわ、日光(ともにJR東日本・東武鉄道)

6位 愛知県名古屋ゾーン(名古屋市) 1209人

  ┗のぞみ、ひかり(ともにJR東海)

7位 茨城県水戸・日立ゾーン(水戸市、日立市など) 980人

  ┗ひたち、ときわ(ともにJR東日本)

8位 長野県上田ゾーン(上田市、軽井沢町など) 915人

  ┗あさま(JR東日本)

9位 広島県広島ゾーン(広島市、廿日市市など) 830人

  ┗のぞみ(JR東海、JR西日本)

10位 兵庫県神戸ゾーン(神戸市) 809人

  ┗のぞみ、ひかり(JR東海、JR西日本)

 1位の京都府京都ゾーンは順当だろう。しかし、2位以下は意外な結果に思われるかもしれない。

 ランキング中、2位の静岡県東部、5位の栃木県日光の各ゾーンにはそれぞれ熱海、鬼怒川といった著名な温泉地が控えている。東京都に住む人たちが鉄道で観光旅行に出かける動機の一つは首都圏近郊の温泉に浸かりたいということがうかがえ、興味深い。

 一方、3位の宮城県仙台、4位の大阪府大阪、6位の愛知県名古屋、7位の茨城県水戸・日立、9位の広島県広島、10位の兵庫県神戸の各ゾーンは、1位の京都府京都ゾーンと同じくいずれも観光名所の多い大都市という特徴をもつ。2010年当時は北陸新幹線長野~金沢間や北海道新幹線が開業していなかったのでランキングに入っていないが、今年の調査では、金沢市が含まれる石川県加賀ゾーンや函館市が含まれる道南函館ゾーンが上位に食い込むかもしれない。

 8位の長野県上田ゾーンは首都圏近郊のリゾート地として名高い軽井沢に出かけた人たちだと考えられる。似たような性質の観光地として栃木県那須ゾーン(大田原市、那須塩原市など)があり、こちらは551人で13位であった。

鉄道で訪れる観光客が最も多いのはどこか

 今度は東京都に観光に来る人たちの動向を探っていきたい。その前にまずは2010年秋の日曜日に鉄道を利用した観光客数の目的地、上位10傑を紹介しよう。

1位 東京都23区ゾーン 4万5137人

2位 京都府京都ゾーン 2万9306人

3位 大阪府大阪ゾーン 1万6465人

4位 静岡県東部ゾーン 1万2523人

5位 福岡県福岡ゾーン(福岡市、那珂川市など) 1万0695人

6位 愛知県名古屋ゾーン 1万0059人

7位 広島県広島ゾーン 9114人

8位 宮城県仙台ゾーン 8214人

9位 千葉県船橋ゾーン(船橋市、浦安市など) 6235人

10位 兵庫県神戸ゾーン(神戸市) 4420人

 東京を訪れる観光客の数は多いと予想していたが、まさか京都府京都ゾーンに大差を付けて1位とは意外であった。先に示したとおり、同じ日に全国で鉄道を利用した観光客は26万7531人であったから、東京23区を目的地とした観光客の割合は17%に達する。東京23区から観光旅行に出かける人たちの割合と比べてもさらに高い。観光旅行も一極集中と言える状況が展開されているのだ。

 ランキングは大都市の観光地ばかりで占められた。そのようななか、千葉県船橋ゾーンが9位に入っているのは不思議に思われるかもしれない。同ゾーンに浦安市が含まれていると聞けばもうおわかりであろう。6235人の観光客の恐らくほぼすべての人たちは東京ディズニーリゾートを訪れたのである。

東京へ鉄道でやって来る観光客はどこに住んでいる人たちか

 それでは、東京23区を鉄道で訪れる観光客はどこに住んでいる人たちであるのか。上位10傑をまとめてみた。

1位 愛知県豊田ゾーン(一宮市、瀬戸市、豊田市など) 2454人

  ┗のぞみ、ひかり(ともにJR東海)

2位 茨城県水戸・日立ゾーン 2283人

3位 愛知県名古屋ゾーン 2048人

4位 静岡県東部ゾーン 1963人

5位 宮城県仙台ゾーン 1470人

6位 栃木県宇都宮ゾーン(宇都宮市、鹿沼市など) 1399人

  ┗やまびこ、なすの(ともにJR東日本)

7位 大阪府大阪ゾーン 1328人

8位 静岡県西部ゾーン(浜松市、掛川市など) 1272人

  ┗ひかり、こだま(ともにJR東海)

9位 静岡県中部ゾーン(静岡市、焼津市など) 1219人

  ┗のぞみ、ひかり(ともにJR東海、JR西日本)

10位 広島県広島ゾーン 1201人

 何と言っても興味深いのは1位の愛知県豊田ゾーンであろう。国の調査では豊田ゾーン在住で鉄道を利用して観光旅行に出かけた人の数は1万0917人で、最も多かった目的地も東京23区ゾーンの2454人であった。東京志向の強さがよくわかる。

 さらに、豊田ゾーンが同じ愛知県の名古屋ゾーンをも上回っている点も興味深い。愛知県は名古屋、東三河、豊田の3ゾーンに分けられ、名古屋ゾーンには名古屋市だけ、東三河ゾーンには豊橋市、豊川市、蒲郡市(がまごおりし)、新城市(しんしろし)、田原市、設楽町(したらちょう)、東栄町(とうえいちょう)、豊根村がそれぞれ含まれている。豊田ゾーンは愛知県のうち、いま挙げた以外の全市町、しかも中核都市が連なるいわば巨大な都市圏であるという点が名古屋ゾーンよりも東京への観光客が多かった理由の一つと言えるのかもしれない。

 東京を訪れる観光客が住んでいるところを見ると、茨城県水戸・日立ゾーンを除いてすべて新幹線の沿線だ。新幹線の威力の大きさを改めてうかがい知ることができると同時に、JR在来線の特急「ひたち」「ときわ」頼みとはいえ、東京に観光に訪れる水戸・日立ゾーン在住者の多さにも驚く。整備新幹線の計画すら立てられていないが、仕事での利用者数も含めて検討した場合、東京駅と水戸駅との間を結ぶ新幹線を建設しても採算ラインに乗るのではないかと考えたくなる。

 ここまで紹介したデータは2010年当時のもので、現在とは状況が変化しているかもしれない。また、あくまでも鉄道に限ったデータで、航空や船、バスや乗用車を加えれば東京から行く人、東京に来る人の状況は大きく違って見えるだろう。いずれにしろGo Toトラベルキャンペーン“東京解禁”によって東京をめぐる人の動きはどうなるのか、そして運輸・旅行業界、特に鉄道にどのようなインパクトを与えるのか、大変気になるところだ。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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