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120両浸水から全線運転を再開、北陸新幹線の暫定ダイヤは何両でまかなっている?

梅原淳鉄道ジャーナリスト
上越妙高駅に停車中のW7系車両。今後は浸水した車両の補充が急務となる。筆者撮影

台風19号の痛手から何とか立ち直った北陸新幹線

 先日の台風19号による大雨で長野県内では千曲川が氾濫し、東京駅と金沢駅との間を結ぶ列車が走る北陸新幹線にも長野駅と飯山駅との間で被害が生じた。大きく報じられたのは長野駅から飯山駅に向かって9.9km先に設けられた車両基地、JR東日本長野新幹線車両センターの浸水だ。一時は車両基地全体が4m余り水に浸かり、収容されていた北陸新幹線用の12両編成の車両10編成分120両もほぼ床面まで浸水してしまう。さらに、線路も一部で水浸しとなり、信号保安設備用の電源装置が損傷し、列車の運転が不可能な状況に追い込まれた。

 台風19号による被害を受け、北陸新幹線の列車は東京~長野間と上越妙高(じょうえつみょうこう)~金沢間とでそれぞれ折り返し運転を強いられる。なお、飯山~上越妙高間には台風19号の被害は生じなかったが、飯山駅には列車が折り返すための設備がないため、長野~飯山間ともども列車の運転を見合わせざるを得なかった。

 JR東日本は北陸新幹線の復旧作業を急ぎ、台風19号の被災から12日後の2019年10月25日に長野~飯山間が開通し、東京~金沢間を直通する列車の運転は再開される。しかし、長野新幹線車両センターは浸水した車両ともども復旧の目途は立っていない。同車両センターでは車両の収容や検査は依然として行えないし、北陸新幹線の列車を運転する目的で用意された12両編成30編成分360両の車両のうち、使用可能な車両は20編成分計240両にとどまる。このため、運転再開後の北陸新幹線では一部の列車を運休とした暫定ダイヤで運転されることとなった。

本来のダイヤと比べ上下7本ずつ、計14本少ない暫定ダイヤ

 1日平均8万4636人(2017年度)が利用する北陸新幹線で従来設定されていた列車の本数は、平日に毎日運転される列車で下り金沢駅方面、上り東京駅方面とも1日当たり61本ずつの計122本だ。系統別に内訳を見ると、東京~金沢間の直通列車で停車駅の少ない「かがやき」が上下10本ずつの計20本、同じく主要駅に停車する「はくたか」が上下14本ずつの計28本で合わせて48本、東京~長野間の区間運転となる「あさま」が上下17本ずつの計34本、富山~金沢間の区間運転となる「つるぎ」が上下18本ずつの計36本と、ここまでで118本である。残り4本は途中の区間を結ぶ列車で、軽井沢~長野間の下り1本、長野~金沢間の上下1本ずつ、長野~上越妙高間の上り1本という顔ぶれだ。

 いっぽう、暫定ダイヤでは上下54本ずつの計108本が設定された。本来のダイヤと比較すると上下7本ずつの計14本少なく、比率では89パーセントとなる。先ほどと同様に系統別に見ると、東京~金沢間の直通列車では「かがやき」は上下1本ずつ少ない9本ずつの計18本、「はくたか」は本数は変わらず上下14本ずつの計28本で合わせて46本、東京~長野間の「あさま」は下りが6本少ない11本、上りが5本少ない12本の計23本、富山~金沢間の「つるぎ」は下りの本数は変わらず18本、上りは1本少ない17本の計35本と、ここまでを合わせて104本だ。途中の区間を結ぶ4本の列車はいままでどおりすべて運転される。

暫定ダイヤで注意すべき点は

 北陸新幹線の利用に当たっては本数の減少のほかにも注意すべき点は多い。運転区間や停車駅などの変更箇所がまま見られるからだ。暫定ダイヤで変更の生じた列車を次のとおり紹介しよう。見やすいように、東京駅始発の下り列車、金沢駅と長野駅とをそれぞれ始発とする上り列車を出発時刻順にまとめた。

●東京駅始発の下り列車

・7時24分発、長野駅9時14分着の「あさま603号」は運休。

・7時52分発、金沢駅11時02分着の「はくたか553号」は安中榛名駅に追加停車。金沢駅着時刻に変更なし。

・9時04分発、長野駅10時39分着の「あさま605号」は安中榛名駅に追加停車。長野駅10時44分着に変更。

・9時44分発、長野駅11時33分着の「あさま607号」は運休。

・10時32分発、金沢駅13時39分着の「はくたか559号」は佐久平駅に追加停車。金沢駅着時刻に変更なし。

・13時04分発、長野駅14時48分着の「あさま613号」は運転区間を東京~金沢間に変更のうえ、「はくたか595号」として運転。金沢駅16時20分着。長野~金沢間は各駅に停車。

・13時24分発、金沢駅16時20分着の「はくたか565号」は運休。※実際には運休となる区間は東京~長野間で、長野~金沢間は「はくたか595号」として運転。

・15時04分発、長野駅16時49分着の「あさま617号」は安中榛名駅に追加停車。長野駅16時52分着に変更。

・15時52分発、長野駅17時42分着の「あさま619号」は運休。

・17時24分発、金沢駅19時58分着の「かがやき513号」は運休。

・17時32分発、長野駅19時18分着の「あさま623号」は運休。

・21時28分発、長野駅23時13分着の「あさま631号」は運休。

●金沢駅始発の上り列車

・7時00分発、東京駅9時32分着の「かがやき502号」は運休。

・10時56分発、東京駅13時52分着の「はくたか560号」は東京駅14時12分着の「はくたか592号」に変更。上田・佐久平・軽井沢・本庄早稲田・熊谷の各駅に追加停車。

・13時56分発、東京駅16時52分着の「はくたか566号」は東京駅17時12分着の「はくたか594号」に変更。上田、佐久平、軽井沢、安中榛名、本庄早稲田、熊谷の各駅に追加停車。

・20時25分発、富山20時48分着の「つるぎ726号」は運休。

●長野駅始発の上り列車

・6時02分発、東京駅7時40分着の「あさま600号」は6時00分発の「あさま400号」に変更。安中榛名駅に追加停車。東京駅着時刻に変更なし。6~10号車の普通車は指定席から自由席となり、普通車は全車自由席に。

・6時18分発、東京8時00分着の「あさま602号」は運休。※実際には運休となる区間は長野~高崎間で、高崎~東京間は上越新幹線の「たにがわ50号」として運転。

・7時11分発、東京8時52分着の「あさま606号」は運休。※実際には運休となる区間は長野~高崎間で、高崎~東京間は上越新幹線の「たにがわ54号」として運転。

・12時27分発、東京駅14時12分着の「あさま616号」は金沢駅10時56分発の「はくたか592号」に変更。東京駅着時刻、停車駅は変更なし。

・15時23分発、東京駅17時12分着の「あさま622号」は金沢駅13時56分発の「はくたか594号」に変更。東京駅着時刻、停車駅は変更なし。

・15時40分発、東京駅17時20分着の「あさま624号」は運休。

 いま挙げた各駅始発の列車に関して注意すべきは、運休となる列車の見極めはもちろん、出発時刻が繰り上げられたり、到着時刻が繰り下げられる列車がいくつか存在するという点だ。特にいままでよりも出発時刻が早くなる列車は乗り遅れると次の列車がしばらく来ない羽目に陥るので気をつけよう。該当する列車は次の2本だ。

 東京駅で従来13時24分発の「はくたか565号」を利用して長野~金沢間の各駅に向かっていた人は、20分早い13時04分発の「はくたか591号」を利用する必要がある。もしも乗り遅れると次の「はくたか」は14時24分発の567号で、飯山駅を利用するとなると15時24分発の「はくたか569号」まで待たなくてはならない。

 同様に長野駅で従来6時02分発の「あさま600号」を利用して東京方面に向かっていた人は2分早く長野駅を出発する「あさま400号」を利用しなくてはならない。こちらは次の「あさま」が6時42分発の604号だから待ち時間は比較的少ないものの、東京駅8時24分着では会社や学校に遅刻する人も現れるであろう。

暫定ダイヤをまかなうには何編成必要か

 今回の暫定ダイヤでもう一つ注目されるのは、これらの列車を何両の車両でまかなっているかだ。冒頭で述べたとおり、北陸新幹線で使用されているJR東日本のE7系、JR西日本のW7系は12両編成30編成のうち、10編成が被災していまのところ使用できない。残る20編成に頼らざるを得ないので、その使用状況を推測してみた。

 まずは従来の使用状況だ。時刻表をもとに筆者が調べたところ、長野新幹線車両センターに19編成が配置されているE7系は13編成または14編成、石川県白山市の白山総合車両所に11編成が配置されているW7系は9編成の合わせて22編成または23編成を用いて平日に毎日運転される列車に充当されている。

 暫定ダイヤをもとに車両の運用を推測すると、E7系は10編成、W7系は7編成の合わせて17編成でまかなえそうだ。稼働可能な車両はE7系が11編成、W7系は9編成であるから、E7系は1編成、W7系は2編成の予備が確保できる。予備のうち1編成は重要部検査や全般検査といった大がかりな検査に充当し、もう1編成は営業運転中の車両が故障したときなどに備えたい。となるとE7系は1編成不足するので、JR東日本とJR西日本とで調整を行い、E7系とW7系とで大がかりな検査が重ならないように努めなくてはならない。利用者の増える年末年始などは重要部検査や全般検査は休みとし、E7系、W7系とのどちらかから1編成を臨時列車の運転に充当すればよいだろう。

 とはいえ、1編成を1日に最大限に活用するとしても東京~金沢間を2往復するのが精一杯となる。やはりあと3編成程度はほしいところで、差し当たりは上越新幹線向けに投入されたE7系の助けを借りたいところだ。

鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。2023(令和5)年より福岡市地下鉄経営戦略懇話会委員に就任。

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