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ITなど民間人材は政府や自治体の改革でもっと力を発揮すべしーーアドバイザー、顧問、各種委員のすすめ

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授
Source:Tool Box Estonia

 最近、知人から自治体や政府の委員になるべきか迷うーーという相談をよく受ける。「○○省の審議会委員をやっているが会議が形式的で退屈」「市長のアドバイザーを頼まれたが政治色がついたら困る」「報酬があまりに安くて実質赤字」といった本音だ。片や民間企業ではガバナンス改革が進み、社外取締役のほうは数も権限も強化の方向だ。取締役会の議論の質もどんどん上がる。そんな中、時間給数千円程度で旧態依然の公的機関の委員を引き受けようという動機が揺らぐのは当然だろう。

 だが筆者の実体験でいうと行政機関の改革では外部の第3者だからこそ果たせる役割が多々ある。いわゆるお仕着せの審議会はかなり減っている。審議内容は情報公開にさらされるため言いっぱなしではすまされなくなってきている。私はITはじめ民間企業の人材がもっと行政改革にかかわるべきだと考えている。今回は外部人材が行政改革にどう関われるのか、私の経験を紹介する。

●どういう場合に外部人材は本格的な行政改革に貢献できるか

 外部の委員や顧問、アドバイザーが本格的な改革に関わる例にはおよそ3つのパターンがある。

 第1は政治的、あるいは社会的に話題となった火中の栗を拾うタイプの案件である

(以下「A型」)。私の場合は、2016年の東京都庁における東京五輪・パラリンピックの会場見直し、19年のあいちトリエンナーレの展示中止・再開問題、05年の大阪市の職員厚遇問題、12年の大阪市営地下鉄・バスの民営化検討や大阪府立と市立の大学統合等が代表例だ。いずれも「特別顧問」として首長と密に連絡を取りながら職員のプロジェクトチームと連携して課題解決にあたった。

 第2は、政権交代にともなう経営刷新活動のプロデュースである(同じく「B型」と)。16年から18年の東京都の小池改革(都政改革本部)、08年から15年の大阪府・市の橋下改革、00年の福岡市の「DNA運動」、12年から18年の新潟市の政策改革本部等である。

 第3は制度に基づく行政の監視・第三者評価活動である(同じく「C型」とする)。

これは国土交通省の政策評価会、東京都の政策連携団体経営評価委員会のほか、各種の第三者評価委員会の第3者評価委員の仕事だ。これらは一見地味で、いわゆるお墨付きを与えるだけに見える場合もある。だが運営のやり方次第では、漢方薬のような効果をもたらし数年をかけた改革につなげることができる。私は数多くの評価委員会に参加してきたが、少なくとも上記2つについては事務方に評価制度を使って改革を進めたいという意思があり、彼らと連携して一定の成果が出せてきたと思う。

●どのように改革や政策の変更に関わるのか

 実際の政策形成や変更にどう関わるかはケースバイケースだ。改革の対象の選択やテーマ設定の仕方(センス)が、改革の中核的ノウハウといってもよい。加えて首長の力量やコミュニケーションスタイルなども考えて設計する必要があり、一般論で語れない。だが、おおむね以下のパターンに分かれる

 A型の場合は、特定課題に詳しい外部の専門家で構成する第三者委員会を設け、期間限定プロジェクトとして短期間に課題を解決する。現在進行中のテーマだから、生データの収集や関係者ヒアリングなどを効率的に行う。多くの場合、官僚組織が積み上げてきたやり方を大幅に転換することが多い。

 ヒアリング等の作業は外部委員主導で行うが、膨大な作業量となる。なので組織内の公務員を抜擢(ばってき)して事務局の傘下に作業チームを編成し、彼らと一緒に調査する。そして集まった情報をもとに他の専門家と協議して委員会としての報告書をまとめていく。報告書は極めて重要である。専門家がプロの信用にかけて報告書の内容を吟味する。報告書の質が前提で、調査の信ぴょう性や、議会・マスコミからの信用獲得につないでいく。

 B型の場合は、行政機関の中に改革専門の部署を新たに設け、優秀な職員を抜擢配置してもらい、彼らと協働作業を行う。作業はまず現状の調査と評価から始まる。評価対象は局や部といった「庁内組織」とそこが行う「主要事業」である。調査対象は問題があると言われてきた部署を優先しつつ、全体をカバーする(部局自らが行う自己点検を含む)。

 B型の作業に関与する外部委員は、経営コンサルタント、会計士、弁護士、行政学者、経済学者、経営学者などが多い。調査は各部局にまず自己点検をしてもらい、その結果をヒアリング等で確かめ、不備や甘い点を追加調査する。結果は首長も出席する定例の進捗管理のための委員会で報告する。委員会は原則、公開で開く。すると指摘事項に対して担当部局は取り組まざるを得なくなる。

 C型はB型をもっと静態的にしたものだ。監査的、抜き打ち検査的に行うことで組織全体に緊張感をもたらし、自助努力を促す。B型の場合は首長の意思が先にあり、示された方向性のもとで改革課題を掘り起こし、政策の変更や刷新を迫る。だがC型は、あくまで点検だ。たとえば国土交通省の政策評価会の場合、政策評価法で「各府省は自ら評価を行う」と定められており、定期的、恒常的に事業の棚卸、点検をする。その結果を念のために第三者からなる委員会がチェックし、改善すべきポイントを助言するという位置づけである。C型ではB型と違って現状維持に甘んじる部局を改革に追い込むことは難しい。だが改革に意欲的な部局にとってはこの仕組みは援軍となる。自らが考える改革案に対して第三者のアドバイスとお墨付きが得られるからだ。もっとも政策評価制度は継続的にチェックできる利点はあるが、外部委員の能力が足りなかったり、官僚集団となれ合いになったりするといわゆるお仕着せの審議会となって形骸化する。この点には注意が必要だ。

●行政改革に外部の第3者はどうかかわるのか?

 行政機関では企業と違って外部の人材を集めた各種の検討会議や委員会が多い。なぜ外部の第三者が必要か。第1には専門知識(弁護士、会計士、IT企業経営者、経営コンサルタント、各種学者・研究者等)が求められる。第2には中立性、そして市民感覚。第3には権威付け(お墨付きを与える)、あるいは議会とマスコミ向けの対策だろう。

 肩書は委員、顧問、参与、アドバイザー等が多い。行政は公平無私が大事だから外部人材が政策策定に関わるには規則に定めた根拠が必要だ。つまり「こういう条件を満たした人の中からこの人を選んだ」という理由のもと、明確な役割、官職、権限と責任等を明確にする。そして首長、あるいは部長等が任命する(場合によって議会の同意も得る)。

(注)

私の場合、公的機関の改革については大学教授を本務としつつ兼務で「特別顧問(東京都、大阪府、大阪市)」「政策顧問(愛知県)」「政策アドバイザー(堺市)」「都市政策研究所長(新潟市)」「政策評価会座長(国交省)」あるいは各種委員(総務省、経済産業省、各県・各市町村、特殊法人等)各種改革に関わってきた(企業改革については社外取締役、監査役、顧問等)。

(注)行政の改革に関わりたいIT人材や経営者、公務員が集まるDMMのオンラインサロン(「街の未来、日本の未来ー対話とデータで地域を変える」)をやっています。ご興味ある方は、https://lounge.dmm.com/detail/1745/から覗いてみてください。

●本格的な改革に関わる条件

 さて外部人材が、行政改革や民営化などの大きな改革に関わり、成功に導くためにはどういう環境が必要か。

「委員になってから頑張る」「実力を発揮する」というのでは遅すぎる。実は委員になる前に委員会など会議体や役職の組織内での位置づけ、任命のされ方、組織内の受け皿組織づくりをしておくことが大事だ。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。アドバンテッジ・パートナーズ顧問のほかスターフライヤー、平和堂等の大手企業の社外取締役・監査役・顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまでに世界119か国を旅した。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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