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ウイズ・コロナ時代にじわり芽生える「ジモト経済」と「@ホーム経済」

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授
筆者撮影:フランス コルマールの野菜市場

 ワクチンと治療薬が普及するまで「ウィズコロナ時代」が続く。少なくとも2,3年は、「マスク着用」「検温」「ディスタンス(コンタクトレス)」「換気」などの鬱陶しい新しい4種の神器と一緒に暮らさなければならない。これは地球民全体にとって、ラマダン(イスラム教徒の断食期間)のようなもの。その間に人々は反省をする。行動様式もじわり変わっていくだろう。コロナ渦が過ぎればふつうの経済活動に元に戻るという側面もある。311や911の時は完全にそうだった。だんだんショックが薄れ、すべてが元に戻っていった。

 だが、今回は長い。”ラマダン”が2,3年は続く。その間に人々の意識や行動様式が変わり、コロナ前の世界にはもう元に戻らない予感がする。担い手はミレニアム世代だ。彼らが主導して新しい資本主義、あらたな民主主義をつくっていくのではないか。今回はまず、新しい資本主義について考えたい。

〇ニューノーマル時代を予感させる3つの動き

 ちなみにニューノーマルという言葉はリーマンショックの際に、世界経済は回復後も以前の姿には戻れない、との見方から生まれた用語だ。今回は経済よりもむしろライフスタイルや社会の仕組みの構造変化に注目すべきだ。そのポイントを3つあげたい。

〇WFH(ワーク・フローム・ホーム)とワーケーション

 第1はもちろんWFH(ワーク・フローム・ホーム)、リモートワークである。これからは職場がオフィス一辺倒から自宅やサテライトオフィス、シェアオフィスなどに分散化する。この本質は実は「先祖返り」という点にある。工業化の前、農業主体の時代には職場は田畑であり農家の周り、家の中だった。それが住まいやその周り、つまりジモト(地元)に戻っていく。歴史をさかのぼるだけではない、子供の頃に戻る。出身地へ、小中学校の校区単位の地域へ、歩いていける生活圏へ、人々の視線はどんどんジモトに向かっていくだろう。まるで鮭が遡上するように。

 9時から17時までの勤務時間の概念も崩れる。これからのワーカーは平日でも百姓のように家で仕事もするし休息もする。ワーケーションという仕事のスタイル(ワーク+バケーション)もでてきた。これはスキー場であるいは軽井沢などにキャンプ等で長期滞在しながら朝夕だけ仕事をするといったスタイルだ。

〇サービス業(医療、教育、お稽古)のオンライン化

 第2はサイバーエコノミーの急激な伸長だ。すでに百貨店が衰退し、Amazon が伸びている。個人向け商業では物販ではサイバーエコノミーが9兆3千億円と全体の6.2パーセントを占め(2018年)、しかも年率0.4%ずつ伸びている。

 これからはオンライン診療やオンライン教育などのサービス業も伸びる。医療、教育、お稽古事などのオンラインによるサービス提供の事業規模は今はまだ7千億円程度(推計)にすぎない。これまではサービス業はフェーストゥフェースの関係やハイタッチな人間関係や信頼をベースに成り立つと考えられてきたからだ。しかしコロナを機に診療も授業もお稽古もオンラインによるサービス提供を試さざるを得なくなった。やってみたら音と画像のやり取りでけっこうコミュニケーションできると分かった。医師会等の反対で進まなかった開業医の初診でも今年4月からオンライン診察が解禁となった。

 これはつまり昭和の時代にあった近所の開業医の往診ではないか。おウチのスマホやPCの中に医者も学校の先生もヨガのインストラクターもみんな出前でやってくる。先生@(アットホーム)の時代になりつつある。

〇大学もヨガもオンライン化

 大学の授業も今学期は全面オンラインとなった。私が勤務する慶應大学の湘南藤沢キャンパスでは録画画像は使わずZOOMを使って本来の開講時間にリアルタイム双方向の授業をやっている。調査してみると学生の7割、教員の5割が「オンラインのほうがいい」と回答した。通勤通学時間がなくなるほか、学生は臆することなく発言しやすくなるようだ。教員にとっても画面に顔と名前が出るので学生の名前を憶えやすい(ただし、新入生にとっては友達を作りにくく孤独を感じる等の問題もある。来学期以降はキャンパスとオンラインの組み合わせになりそうだ)。

 オンライン教育はプログラミングや数学、英語などあらかじめ定められた内容に沿って技量を磨く分野で特に威力を発揮する。こうした科目では教える内容が確立しており教材も充実している。一方で個人の進度が違う。だから大教室で同じ内容を同時に全員に教えるよりも録画画像で各自がいつでもどこでも学べる仕組みのほうが効率的だ。さらにAIも使ってテストもオンライン上で行い、出題内容を個人仕様にする。こうすると過去に本人が間違えた問題を繰り返して出題し復習を促す等の個別対応もできる。Aiによる個別指導はすでに駿台はじめ複数の学習塾が「アタマプラス」社のシステムを導入し始まっている。お稽古事や趣味の世界でもオンライン化が始まった。特にオンラインヨガが女性に人気だ。自分が変な格好をしているところを人に見られたくないという動機が大きいようだ。書道でもオンラインが始まった。先生の筆の運びを録画画像で何度も見られるのでいいようだ。

〇家から10分の「ジモト経済圏」が都心のGDPを奪う

 コロナがもたらす第3の変化は、家の周りの「ジモト経済圏」の出現だ。リモートワークで在宅時間が増え、自宅のパソコンやスマホで買い物やサービスも購入できるようになると都心に出かける頻度は減る。さりとて一日中、家にいるわけでもない。

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。アドバンテッジ・パートナーズ顧問のほかスターフライヤー、平和堂等の大手企業の社外取締役・監査役・顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまでに世界119か国を旅した。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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