コロナを機に会社と学校を変える”センターピン”は何かーー「9月入学」「在宅勤務」じゃなくて何か?

出典:エストニア政府提供の無償画像より

 コロナを機に従来の常識を疑い、日本人の生活様式を「断捨離」する動きがでてきた。仕事では通勤と会議だ。やってみたらリモート(在宅)勤務とオンライン会議は結構便利とわかった。経営者の間では「オフィス不要論」もでてきた。ベンチャーだけでなく日立など大企業にも在宅勤務を常態化する動きがでてきた。学校のあり方も高校生の問題提起に端を発し「9月入学論」がでてきた。結局、見送りとなったがかなり議論された。考えてみると「オフィス不要論」は「働き方改革」の、そして「9月入学論」は「教育改革」の“センターピン”的な存在とみなされ、注目を集めたのではないか。しかも2つは根っ子で密接につながっている。在宅勤務は日本の会社の“痛勤”や過剰残業から訣別する具体策だ。また9月入学の欧米には、ばかげた受験文化はない。ならば日本も9月にしたら受験文化から決別できるのではないかと思われた節がある(全くロジカルではないが)。

 実際は、完全リモートで仕事が廻る会社は少ない。9月入学も現場の都合を考えると実施は困難だ。そもそもそれだけで教育が国際化するわけがない。数ある教育問題の中で国際化がそこまで重要な課題か疑わしい。だが、この2つは妙に人々の期待を集める。うまく前向きの改革に活かせないのか?可能性を考えたい。

〇「オフィス不要論」と「9月入学論」は会社と学校への不満のはけ口

 なぜ経営者は「オフィス不要論」が、政治家は「9月入学論」が好きなのか?都会のビルはどんどん高層化し豪華になり企業の家賃負担が増す。従業員にとっても満員電車は不快だしたどり着いたオフィスもエレベーターになかなか乗れない。個人の執務環境も狭い。教育も同じだ。学校は受験戦争、教師の質など問題だらけに見える。要するにオフィスも学校も、もともと人々の間に不満があった。それがコロナのせいで一瞬、消えた(まるで営業停止処分を食らったように)。「おっ」と思ったがすぐに再開、再稼働の見込みの話になった。そこで経営者たちは思った。「もとに戻すのは芸がない。もっとリモート勤務を増やそう。オフィスの床面積は小さくしよう」と。同じく政治家たちも「夏休みが終わったら学校の再稼働だ。春は閉鎖していたのだから、いっそ秋から新学期にしてみたらどうか」とひらめいた。要はどちらもコロナに端を発したアイディアだ。また“オフィスレス“はベンチャーに例があり、海外は9月入学が多い。どちらもちゃんと先例がある。だからコロナを機に一気に変える絶好のテーマに思えたのだろう。

 STAY HOME期間はいわばラマダンだった。みんなが会社や学校に行かなくなる。すると客観視が始まり、内省に至り、そして生活周りの断捨離となった結果、通勤や通学の棚卸しに至ったのだろう。

〇「オフィス不要論」「9月入学論」はセンターピン理論?

 改革論の世界には「センターピン理論」というものがある。ボーリングではセンターピン一本を倒すと将棋倒しのように後ろのピンが全部倒れる。だからとにかくセンターピンを狙う。ビジネスにもセンターピン的ポイントがある。高度成長期のソニーやホンダにとっては国内市場の開拓よりも対米輸出がセンターピンだった。米国で認められた後日本でも受け入れられた。80年代にスェーデン語を捨てて英語の歌で世界制覇を目指したABBAにもセンターピンがあった。当初は英米市場で苦戦した。だが豪州がセンターピンだった。豪州ツアーを機にブレイクし、あっという間に英語圏そして世界中に知られる存在となった。

 今の日本の経営者にとって「オフィス不要論」は社員のワークライフバランスを改善し、あるいはダイバーシティを進めるセンターピンに見えるのだろう。確かに感染防止を理由にディスタンスを拡大すると座席数が減る。さらに業績悪化を理由にフロアを減らす。おのずと社員の出勤パターンは見直しとなり、仕事や会議も削り、あるいは外注となる。そして在宅勤務が増える。「オフィス不要論」はコロナを奇貨とした業務改革運動でもある。

 「9月入学論」も同じだろう。学校のあり方を巡る課題は多々あって、主要課題は所得差による学力格差の拡大、過剰な受験競争、創造性より暗記力を求める古臭い教育内容あたりだろう。さらに義務教育の教員不足、質の低下、IT化の遅れ、大学では世界レベルの競争に負けていること等が二番手の課題だろう。そして日本はこうした問題がゆえに海外、とりわけ欧米より遅れているとされてきた。“国際化”が必要、日本はガラパゴス、だから「もっと留学生を入れよう。日本人を留学に出そう」といわれてきた。だが3月卒業だと海外の9月新学期までに間が空く。だからこの際、日本も9月入学にしようというロジックである。

〇本当にセンターピンなのか?「風が吹けば桶屋が儲かる」的無理筋ではないか?

 私はコロナを機に「9月入学」や「オフィス不要論」が議論されるのはとてもいいと思う。なぜなら、教育問題は長年、議論され一向に解決されていない(少なくとも多くの国民が不満を抱いている)。そこにコロナがやってきた。これをチャンスととらえ、「政治主導で何か起死回生策は打てないのか?旧態依然の現場を動かせないか?」と思いつくこと自体は悪くない。政府の審議会で学者を集めて長年議論してもなかなか変わらない。現場も頑迷固陋に見える。だから政治家、特に知事たちが「上から無理やり変える、カタチから変える、もはや劇薬が必要だ」という問題意識は十分納得できる。

 

 だが、両者とも本当にセンターピンなのか?課題を解決する手段のごく一部、あるいは思い付きにしか思えない。なぜ海外に合わせて9月に入学すると教育が国際化するのかロジックは不明だし、国際化の意味もあいまいだ。移行するコストと効果を比べると割に合わない。リモート勤務も同じだ。もしかしたら「リモート勤務でいい」ということは「会社が楽しくない」「打ち合わせの必要もない定型的な事務処理しかやっていない(AI時代になるとなくなる仕事?)」なのかもしれない。

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筆者は経営コンサルタント。35年間で100超の企業・政府機関の改革を手掛けた。マッキンゼー時代は大企業の再生・成長戦略・M&A、最近は橋下徹氏や小池百合子氏らのブレーン(大阪府市、東京都、愛知県、新潟市等の特別顧問等)を務めたほか、お寺やNPOの改革を支援(ボランティア)。記事では読者が直面しがちな組織や地域の身近な課題を例に、目の前の現実を変える秘訣や“改革のシェルパ”の日常の仕事と勉強のコツを紹介する。

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専門は企業,政府,非営利組織の戦略&経営改革。1957年大阪市生まれ。京大法,米プリンストン大学院修士卒.旧運輸省,マッキンゼー(パートナー),米ジョージタウン大学研究教授を経て現職.兼務で大阪府市特別顧問,愛知県政策顧問,国交省政策評価会座長,日本博物館協会評議員,ビジネスモデル学会理事のほか企業の取締役,監査役,顧問等。過去に東京都顧問・特別顧問,東京財団上級フェロー,新潟市都市政策研究所長等を歴任.著書に『改革力』『大阪維新』等。世界117か国を旅した。DMMオンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/

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