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雑誌は政治的発言をして良いはず 『ViVi』と自民党のコラボが炎上した背景とは

植村八潮専修大学教授(出版学)
出典:https://www.vivi.tv/post33579/

 講談社の女性ファッション誌『ViVi』オンライン版と自民党のコラボが話題である。公式Twitterで、「みんなはどんな世の中にしたい?」「自分の想いを #自民党2019 #メッセージTシャツプレゼント のハッシュタグ2つをつけてツイートすると、メッセージTシャツがもらえるよ!」と投稿(6月10日)した。

 ネットやメディアで批判が出たことに、講談社は政治的意図はないとするが、批判のポイントはそこではない。

 朝日新聞デジタルの記事(6月12日)によると、講談社は取材に対して、「このたびの自民党との広告企画につきましては、ViViの読者世代のような若い女性が現代の社会的な関心事について自由な意見を表明する場を提供したいと考えました。政治的な背景や意図はまったくございません」とある。

 雑誌は言うまでもなく、言論表現メディアであり、個人や団体の主義主張、思想、政治的発言の場でもある。今では、実用雑誌や情報誌が華やかであるが、洋の東西を問わず、雑誌は論壇やジャーナリズムとして政治的主張を支えてきたのである。では、なぜ『ViVi』オンライン版は炎上したのか。そこで、雑誌と政治の関係性について、取り急ぎ書いておく。

 繰り返しになるが、雑誌がどんな発言をしようが自由である。今回、『ViVi』がファッション誌だから批判された、とみる向きもあるが、ファッション雑誌であっても、編集長が政治的発言をし、雑誌誌面で態度表明してよい。むしろ、日本では、ファッション雑誌という影響力のあるメディアにもかかわらず、政治的発言が、これまで希であったといえる。これについては、最後に、富川淳子氏の研究を紹介する。

 新聞社は社説を中心に社としての意見の統一を図るが、大手出版社ほど、意見は多様なままである。講談社のモットーは「おもしろくて、ためになる」であり、出版社としての統一性よりも、雑誌の編集方針によって右も左も、保守も革新もありでいい。書籍の奥付には出版社の社長の名前があるのが一般的であるが、雑誌の責任者は、編集人、発行人として編集長の名前が明記されている。出版社としては多様性を確保しつつ、個々の主張は雑誌編集長に全面的に委ねられているのだ。

 百田尚樹氏の本も、ケント・ギルバート氏の本も出す一方で、講談社伝統の「現代」ジャーナリズムが自民党を切ることができるのも、出版社だからこそである。ついでに書けば、防衛省自衛隊の広報誌『MAMOR(マモル)』を発刊する扶桑社が菅野完『日本会議の研究』を出すのだ。

 「ViVi×自民党」コラボがちょっと、気持ち悪いのは、これが広告であり、クライアント(自民党)に場を利用されただけだからだ。発言主体が雑誌になく、雑誌が単なる広告メディアに成り下がった感があるからだ。批判が集まったのもそこにある。だから、講談社は政治的意図がなかったと言い訳しているが、あったか、なかったかではなく、表現メディアが主体性を失って、政治に利用されたことへの批判と捉えるべきである。

 今回、自民党だったことが、ネットで話題になり朝日新聞などの記事につながったのは明かで、これが立憲民主党だったら、これほど話題にはならないだろう。でも、仮にどの党だって、政治に関してはクライアントに利用されるだけの雑誌であってほしくはない。出版メディアが政治のプロパガンダに利用されてきた歴史があり、その強い反省もあったはずだ。

 『ViVi』は、若い読者の雑誌である。自民党が若者にリーチしたいと考えて雑誌のウェブメディアを利用した。残念ながら、今回は、自民党の広報戦略が功を奏したというか、広告代理店の戦略勝ちだった。気になるのは、雑誌メディアが政治にとって都合のよいメディア一色になることである。

ファッション雑誌と政治の関係性研究

 

 ファッション雑誌と政治の関係性研究では、富川淳子さん(跡見学園女子大学/「an・an」元編集長)は、ニューヨークに1年間滞在して、インタビュー調査を行い、ファッション雑誌と政治の関係性を分析している。ここに、ぜひ紹介しておきたい。

 その概要は、2018年6月28日の日本出版学会研究部会で「日米女性ファッション誌比較研究――アメリカのファッション誌はなぜ、政治関連記事を掲載するのか」として発表している。「日本のファッション誌が政治ニュースの紹介や政治家を登場させることは稀である。一方アメリカのファッション誌は政治家が政治姿勢を語り、セレブリティも政治的な意見を述べる」とした、その違いの理由について、長いがそのまま、引用させていただく。

1.ファッション誌のコンセプトには女性の生活を向上させる情報提供が含まれる。従って政治関連記事はファッション誌のコンセプトと合う。

2.読者層は政治への高い関心をもっている。

3.大統領が変わると生活が変わる政治システムによって政治への関心が一段と高まる。

4.自分たちを守る法律は自分たちで作るという意識が高い。

5.雑誌の広告主は政治関連記事掲載を許容している。

6.ニューヨークの基幹産業はファッションである。ファッション界を発展させるためにファッション誌も政治家と組んで積極的に協力する。

7.デザイナーやファッション業界は政治と密接に関わり、政治はファッションの構成要素のひとつになっている。

8.ファッション界にも強い影響力を持つ『VOGUE』編集長のアナ・ウインターは特別な存在であり、誌面でもクリントン支持を打ち出すほど政治への関与が高い。読者も他のメディアも彼女の姿勢を受け入れている。

(出典:日本出版学会ウェブサイトhttp://www.shuppan.jp/bukai7/1038-2018628.html)

 米国とは異なり、日本のファッション「雑誌の広告主は政治関連記事掲載を許容」はしない気がする。今回、講談社が「政治的意図はなかった」とすぐに表明したのも、広告主の反応を気にしたからといってよい。

 ファッションとは、生き方であり主張である。デモのファッションを見ればよく分かる。政治的信条を表明する際に、ファッションの形をとるではないか。ただ、この一件で、『ViVi』の読者が離れるかというと、たぶんそうはならない。批判しているのは、『ViVi』読者ではない、もっと年齢の上世代ではないか。

 2016年に野外フェス「FUJI ROCK」に学生団体「SEALDs」のメンバーや津田大介氏らが出演すると発表された際に、「政治を音楽に持ち込むな」という声が若者を中心に巻き上がった。ロックおやじたちが「ロックは政治だろ!」と反論したことを思い出す。

 むしろ、『ViVi』の雑誌購読者が今回の一件どう捉えたか、気になるところである。

専修大学教授(出版学)

専修大学文学部教授。博士(コミュニケーション学)、納本制度審議会会長代理。東京電機大学工学部卒業。東京経済大大学院博士課程修了。東京電機大学出版局勤務、同局長を経て、2012年より専修大学文学部教授および出版デジタル機構代表取締役に就任。2014年6月出版デジタル機構取締役会長を退任し、現在に至る。専門は出版学で日本の電子書籍の研究・普及・標準化に長らく携わってきた。近著として『図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供に向けて』(樹村房、2016年、編著)、『ポストデジタル時代の公共図書館』(勉誠出版、2017年、共編著)。

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